第13話 ようこそ天文部へ
あれから数日が経った。
もう俺と雫は、屋上で会うことはなくなった。雫が星をきらめかせるのを止めたので、それは自然なことだったのだが、どうにも違和感が消えない。
今でも午前一時付近に目が覚めてしまうし、ふとしたときに星々がきらめいていないかと空を仰ぎ見てしまう。
けれど星空がきらめいていないということは、雫が立ち直ったことのなによりの証明なのだ。
もう一生、星々がきらめきませんようにと、俺は星空に願いを込めておいた。
◇
昼過ぎの天文部部室。まだまだ日が高い頃に、俺は一人プラネタリウムの修繕を行っていた。
黙々と作業を続ける。
真夏のうだるような暑さは過ぎたが、それでも暑い。流れる汗を拭いながら、俺は作業を続けながら、そのときを待っていた。
図らずも、すぐにそのときはやってきた。
後ろでそぅと扉が開かれる。
既視感のある状況に思わず笑みがこぼれる。
以前とは異なり、俺はしっかりと扉の方を振り向くと、歓迎の言葉を声高らかに言い放った。
「待ってたよ、雫。天文部へようこそ!」
「どうも」
単調に返事を返す雫。
雫は、天文部の新入部員となってもなお、ほとんど変わりがなかった。
あれから雫は、ちゃんと父親と面会し、腹を割って話し合ったらしい。本当に平手打ちしたのかどうかははぐらかされてしまったが、雫が少なくとも父親との関係にひとまず読点を打つことが出来たことは明らかだった。
俺は昨日、その報告を電話で受けた。
のだが、なんとその際に雫は天文部に入部したいと申し出てきたのだった。
雫は決して、宇宙を好きになったわけではないという。ただ、先のプラネタリウム製作などを通じて、もう一度真摯に宇宙に向き合ってみるのもいいかも知れないと思ったとのことだった。
つまり、かつての俺の天文部勧誘が、間接的であれ成功したのだった。
「それじゃ、活動始めるか」
「今日もプラネタリウムの続き?」
やけに意欲的な雫が待ちきれないように尋ねてくる。ちなみに最近聞いたことだが、雫は本当にものづくりが好きで、得意だったらしい。
見かけよりも製作が多い天文部にとって、手先が器用な部員は宝である。
俺は雫に対して改めて期待を膨らませながら口を開いた。
「ああ。雫に一度体験してもらってから、改善点が次々と出てきたんだ。例えば外から中が見れないとか、中から外にエマージェンシーを伝える手段がなかったとか」
「なるほど。じゃあ今日はその辺りを修正していくんだね」
「そういうこと。てことで――」
今日も頑張ろうか、と俺が言い終わる前に、雫はさっとプラネタリウムへと駆け寄り、作業を始めてしまった。
まったく、雫ってやつは……。
活気が以前の何十倍にもなったのに伴い、より自由奔放さが増した雫に苦笑しながら、俺も作業に加わった。
こうして、俺と雫は新たに二人体制となった天文部で活動を始めたのだった。
星を食べて、星をきらめかせる少女の話 夜野十字 @hoshikuzu_writer
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