第3話 水流田雫について
あれから数日、雫は毎日のように屋上に来て星をきらめかせ、俺はそれを眺めるのが、すっかり日課になっていた。
「やっぱりすごいな……」
「まあ、私は慣れちゃったからなんとも思わないけど。たしかにすごいかもね」
多彩な輝きを放つ星々は、何回見ても俺を感動させてくる。こんなにも美しいものに慣れてしまうとは……雫はなかなかの強者のようだった。
それにしても。と、俺は横目で雫の手元を見やる。雫の手には、いつも星をきらめかせらせるときに使っている袋入りの金平糖が握られていた。
ここ数日で、雫についてはよくわかってきた。
まず、雫はかなりマイペースな性格だ。
会話のキャッチボールを成立させる気があるのかないのか。 時折何を考えているのかわからない挙動をすることもある。
また、雫はいわゆる脱力系というやつだった。
常に無気力。おっとりと、ゆっくりとした話し方で、動きも緩慢。服を選ぶのが面倒で、ゆったりとしているのが好きだから、私服が制服。
雫はそんな人だった。
だけどその一方で、見れば見るほど、雫の星をきらめかせる能力についてはわからなくなってくる。
「でも今日はちょっと本調子じゃなかったな」
「……えっ、これで?」
星をきらめかせた後、まだきらめきの残滓がある頃に、雫がポツリと呟く。俺は雫の言葉に、ぎょっとせざるをえなかった。
「うん。きらめきも日によって違うんだよね。星ってとっても気分屋だから」
なんとも詩的でロマンチックな言い回し。だけど、雫のこの能力だけに関しては、この表現が正しいのかもしれなかった。
「調子いい日は本当にすごい。始めて悠星に見せたときは、まあまあ調子良かったかな」
「あれで『まあまあ』なんだ……」
雫の認識には幾度となく驚かされる。俺はあの日のきらめく夜空がいまだに毎日夢に出てくるほど感動したというのに……。
前言撤回。どうやら俺は、雫のことを何もわかっていないようだった。
でも俺は、だからこそ、雫と雫の能力について知りたいと強く思ったのだった。
では、どうやって雫についての見解を深めようか。
雫については、追々触れ合っていくうちに地道に知っていくのがベストだろう。しかし、雫の能力に関しては、観察するだけではほとんどわからない。
これは一度雫に聞いてみるのが得策だろう。
俺はいくつか気になっていたことをまとめて、雫に聞いてみることにした。
「なあ雫。その、星を光らせるときはさ、絶対に金平糖を噛み砕く必要があるの?」
粗ずくは俺の唐突な質問に、「急だなあ」と苦笑しつつ、応えてくれた。
「うん。あの金平糖をしっかりかみくだくことで、始めて能力が使えるからね」
「その金平糖って、市販のものなの?」
「いいや。市販のものじゃダメなんだ」
「へえ、じゃあ気軽に使えるわけじゃないんだ」
「まあ、そういうことになるね」
一通り聞きたいことを聞き終えて、俺は一息つく。質問はほぼ金平糖についてのことになってしまったのは、それが一番俺の中で不確定条件だったからだった。
やっぱり雫の能力は、面白い。探究のしがいがある。
一人で高揚感に浸る。すると、珍しく雫が俺に話しかけてきた。
「次はさ、私が悠星に質問してみてもいい?」
雫はこれまで俺のことを知りたがらなかったので、少々驚いたが、「ああ、いいぞ」と快諾する。
俺の返答を聞いて、雫は早速、俺に質問をぶつけてきた。
「じゃあ、天文部ってさ、普段どんなを活動してるの?」
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