冷やし中華

白川津 中々

◾️

この世で許せないものがある。冷やし中華である。


冷えた麺にツユをぶっかけて、青臭い胡瓜と貧乏ったらしい錦糸卵。薄く頼りないハムを添えて彩られた生ゴミ。それが冷やし中華である。



夏、目に映る不愉快な文字。「冷やし中華はじめました」。マヨネーズと練り辛子の単調な味付けが、暑さでやられた貧乏舌を刺激して、人は「美味い」などと言う。



「冷やし中華できる?」



店に入るなり、ワイシャツの袖を捲り上げてそう聞くサリーマン。メニューには大きくこう書かれている。



冷やし中華はじめました。



太陽光が熱をあげ、動物が影に駆け込み、植物は枯れていく。そんな中、ハワイアンブルーの枠に赤字で書かれた間抜けな一文。震え上がる怒気。握り込む拳。叩き込む鉄拳。俺の手指が血に染まる、冷やし中華はじめました。


いつから、どこから広まった文化なのか。そもそも冷やした中華とはなんなのか。正体不明の謎料理、冷やし中華。それが始まる。今年もまた、暑い夏がやってくる。



冷やし中華はじめました。

冷やし中華はじめました。

冷やし中華はじめました。

冷やし中華はじめました。

冷やし中華はじめました。


あぁ、冷やし中華。

冷やし中華。


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