これからの物語

「そういえば、あのドラゴンロード、どっかのバカな勇者御一行が寝床をつついて起こしちまったらしいぜ」


「ふーん」


 なんだか、アイツらならやりかねないないなあ、と思いつつ。ワタシは別のことで忙しいので興味はすぐに失う。


「ワタシ、冒険者には向いてないわ」


「うん、オレもそう思う」


「ひ、ひどい!」


「何なんだよ……」


 あの後、無事1000%の力でドラゴンロードを倒したカノンさんは身体能力の限界を超えたことで1週間意識を失ったままだった。


 街の病院で治療している間、何度か回復魔法を撃ち込んでみたけど、回復どころかむしろちょっと悪化したからこれ以上はやめておいた。どうして、回復魔法でみぞおちに打撃が入ったり、花瓶が頭に降ってきたり、脂っこい食べ物が口に突っ込まれるのよ。


 そんなこんなで奇跡的な生還を果たしたカノンさんのことを、もちろん誰も評価はしなかった。どうやら、あの一件は勇者パーティがなんとかしたことになっているみたい。


「ワスレ、あんたは優しすぎる。冒険とは修羅の道だ」


 ワタシが冒険者に向いていない理由を、役立たずだからじゃなく、優しすぎるから、と言ってくれた。修羅の道が何なのかワタシにはよくわからないけど、スキルなんんかじゃなくて、ちゃんとワタシ自身を見てくれた、なんとなくそれが嬉しかった。


「ねえ、カノンさん、ワタシ、これからは医療術を研究することにしました」


「お、いいじゃん、【役立たず】の活かし方でも見つけたのか?」


「はい! 【役立たず】なんてたかが確率の変動です。いつかは必ず成功する。それまで何回だって、何千回だって、何万回だってやってみればいいんですから!」


「そうか、それがワスレのスキルの活かし方か、悪くないな」


 カノンさんはまるで子どもにするようにワタシの頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でる。ふふ、今だけはこの心地よい筋肉質な右手の重さも許してあげましょう。今に、セクシーお姉さんになったら見返してやるんだから。


「カノンさんはこれからどうするんですか?」


「オレにはまだ成長の余地があるってことがわかったからな、【無能】を極めてやる」


「うふふ、カノンさんが怪我した時はいつでも【役立たず】なワタシのところに来てください、【無能】でも治せるような魔法をいつか開発してやるんですから!」


「なんか実験台みたいになってない?」


「さあさあ、ワタシ達の物語はこれからですよ!」


 ーーこの数年後。


 奇跡としか思えないような回復魔法の開発と、偶然としか考えられないような薬品の調合術は、世界の医療の発展に大いに貢献することとなった。


 ……が、研究の末の度重なる誤爆と、とある同居人の苛烈な修行による爆発で、偉大なる医療術士、ワスレはいつも金欠であったという。

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勇者パーティを追放された【役立たず】なワタシはもう引退したから「どうしても戻ってこい」って言われても【無能】な男と仲間になったからもう遅い。 かみひとえ @paperone

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