【短編】終わりの始まり。大事なものほど、失うのが怖い
しろねこ。
永い悪夢
……あぁ、この気持ちに気付かなければ、僕はこのまま何もない生をただ終えられただろう。
現実を知らなければ、光を知らなければ、僕は、俺は、自分が陰の存在とも何者でもない事も知らずに過ごせたのに。
彼女が手を差し伸べてくれたあの日から、世界に色がついてしまった。
何もなかった視界が開け、幸福を知ることが出来たとそれを失う恐怖にも同時に気づいてしまった。
光に満ちた笑顔を見ると温かな気持ちが胸を占めるのだが、同時に自分の心の奥底にある暗く淀んだものにも気づいてしまう。
手を伸ばせば彼女には触れられる、話をすることが出来る。
けれどこんな自分が側に居ては彼女もまた引き摺り堕としてしまいそうだ。
チリン――
見えない鎖が鳴り響いた。
あぁ、いけない。これ以上彼女に近付いては奴らに気づかれてしまう。
それでも尚離れられないのは、自分がこの幸福を知ってしまったからに他ならない。
どうかこの
ガラス細工のように儚く脆い、一縷の望みだとしても――
【短編】終わりの始まり。大事なものほど、失うのが怖い しろねこ。 @sironeko0704
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