第7話 女神の腕試し
(この身体、動きづらい……)
私は真人さんの身体を乗っ取った。いや、身体を借りたと言ったほうが良いだろうか。まぁ今そんな事はどうでも良い。それよりも、今は慣れない身体で最大限のパフォーマンスをすることの方が重要だ。私がこの身体を使う以上、目の前の男を代わりに潰さないといけないのだから。
「あぁ〜痛ってぇ。お前どんな能力なんだよまじで」
なるべく口調を真人さんに寄せて喋っているつもりだ。汚い言葉遣いというのは慣れない。身体も言葉遣いも慣れないなんて、相性が悪いにも程がある。
「へぇ、君まだ立てたんだね。しぶといなぁ」
「俺はお前が思ってるよりずっと強いからな。当たり前だ」
「すごい自信だね。尊敬するよ」
分かりやすい嘘だ、と潔くて逆に感心する。
「そうかよ。まぁいい、さっさと始めようぜ。第2ラウンド」
「君がドMと言うことはよくわかった……よっ」
瞬間、男は地を蹴り一気に距離を詰めてきた。普通の人間では絶対に反応出来ないスピードだ。しかし、私は普通の人間ではない。当然左に跳ねて避けた。
「おっそ!亀かよ!」
「避けれたのは偶然だろう?」
軽く煽ったつもりだったのだが、男はどうやら短気らしい。さっきのとは比にならないスピードで詰めてきている。しかもナイフのような武器も構えてる。きっと神界でも一部の雑魚だったら避けられないであろう突進だが、勿論私には遅すぎるため余裕で避けられる。この程度で私を仕留められると思っていたのだろうか。
「本当、遅えんだよ。恥ずかしくないのかって話」
しっかり避けた。避けた時、男の顔がすごいブサイクだったのは忘れてあげるのが優しさだろうか。
「避けた時、お前の顔すごいブサイクだったぜ〜写真撮っとけばよかったぜ」
まぁ勿論忘れるわけがない。私にはそんな優しさなんて無い。
さて、そのブサイクな面を私に見せつけてきた男は離れたところから、鼻息を荒くして私を睨みつけている。正直、全然怖くない。
「おいガキぃ……ちょっとこっち来い」
飽きてきた。人を煽るのは楽しいのだが、どうもこの男自体がつまらないようでどれだけ煽っても面白くない。
(そろそろ終わらせてあげますか)
「無理!」
これ以上遊んでも面白くなる気がしなかった私は、慣れない足で地を蹴り、男を凌駕するスピードで詰めた。
「ぉぅっ!?」
「あ……ごめん」
とんでもない速さで蹴りを放ったのだが、これが良くなかったらしい。スピードの乗った私の強烈な蹴りは、見事男の股間に命中した。
「〜〜!〜〜〜!」
男は惨めに転げ回って、声にならない声を漏らしている。
一応彼も男なのだから、これで子孫が残せなくなったら可哀想だと思っ……てはいない。普通にこのまま殺すつもりだし、全然未来の事など考える必要はないのだ。
私は自分を納得させて男を蹴り続けた。特に股間を狙って蹴り続けた。蹴る度に男は虫の羽音よりも小さい声を上げていたが、私には関係のない事だ。
「おぉっ……」
数分間蹴り続けていると、ついに男は動かなくなった。一応脈が取れるか確認したが、もう脈は無かった。
「……裂け目?」
気付いたら、倒れている男の上に、私たちがこの世界に入った時のものと同じ裂け目があった。裂け目の先は、先程と同じく宇宙のような空間が広がっている。
周りを見渡すと、空間に亀裂が入っている。その亀裂はピキピキと深まっている。多分、この世界が壊れるとかそういうことなんだろう。
(このタイミングで壊れるって……もしかしたら暴れすぎたから?)
色んな考えが巡るが、とりあえず裂け目の中に入った。
*
「大丈夫!?」
「痛ってぇぇぇ!まじ痛てぇ!」
俺はあの精神世界によく似た世界で気を失った。なのに、気付くと現実に戻っていて、何故か身体の節々が痛む。痛すぎてつい叫んでしまった。
痛みに悶絶していると、稜斗が俺の身体を背負った。俺は軽いわけでは無いのだが、それでも頑張って俺の体重を支えている。
「ちょおま……まじで大丈夫だから。降ろしてくれ」
「いや、運ぶよ。僕のトレーニングにもなるし」
「でも……いや、頼むわ」
もう抵抗する体力も残っていない俺は、大人しく運ばれる事にした。
稜斗の背中は、いつもより遥かに大きく感じた。
片能力者 さすふぉー @trombone1123
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。片能力者の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます