第6話 危険な再会

 裂け目の向こうは宇宙だと思っていたが、それは違ったらしい。そこはまるで俺が有紗と出会った精神世界のような……不思議な場所だった。やはり空は青く澄んでいたが太陽は無く、そのくせ自分の影ははっきりと存在している。一緒に裂け目に入ったはずの稜斗はどこかへと消えた。


“ここ、変ですよ。知らない気配……なんか気持ち悪いです”

“まじ?全然わかんねぇ。俺が鈍感すぎるだけか?”

“まぁ、多分?それより、今はここから出ることが重要でしょう。取り敢えず歩いてください”


 ここで頼れるのは有紗しかいない俺は、指示に従って取り敢えず歩き出した。精神世界の時のように、歩く度に水波が広がる。


“ストップ!一旦止まってください!”


 しばらく歩いていると有紗に止められた。俺は周りを見渡したが誰もいない。


“おい何だよ。一体何が……”

“右です!右に避けて!”


 瞬間、俺は後方からとてつもない殺気を感じて、指示通り右に避けた。見ると、俺が今まで立っていた所には裂け目が出来ていた。


“次は後ろに!”


 俺は有紗の声を聞いて、わけもわからず後ろにステップをした。やはり俺が立っていた所には裂け目が出来ていた。警戒しながら周りを見渡して有紗の指示を待っていると、どこからか男の声が聞こえてきた。


「うへへマジか。避けちゃうか。凄いな君」

「お前、あの時の……?」


 後ろを向くと黒コートにサングラスとマスクの不審者が立っていた。


「やっぱお前能力者だったんだな〜弱そうな見た目してんのに」


 見覚えがあった。能力者になった次の日、カラオケから帰っている時にぶつかったあの男だ。


「んで、お前は国の能力者なのか?それとも神の方か?」

「さぁな。答える義理がねぇ」


 神界を護るために人類と戦う(予定)の俺はきっと『神の方の能力者』なんだろう。しかしここでバカ正直に神の方の能力者なんて答えるのは多分NGなのだろう。


「へぇ結構強情だね〜まぁいいよ。吐かないなら吐かせるだけだし」


 俺は咄嗟に守りの体制に入ったが少し遅かった。そいつから放たれた拳は俺のみぞおちに深く突き刺さった。それに続いてもう片方の拳は俺の顔面に直撃し、後方に吹っ飛ばされた。


“耐えてください!能力使って下さい!”

“使えねぇから困ってんだよ!”


 もう既に5発は殴られた。かなり強く殴られたからか、少し血の味がする。


「お、疲れた?さっきは完璧に避けてたのに」

「ぁ……づぁ……」


 声にならない声が漏れる。今は気を失わないように耐えるので精一杯だ。


「んで〜結局君はどっちの能力者なの?はっきり答えてよ」

「……」

「……黙秘権なんて無いよ?」


 そいつは再び俺を殴り始めた。抵抗する術の無い俺はただ人間サンドバッグのように殴らる。意識はどんどん遠のいてゆき、痛覚も麻痺してきた。


「まだ吐かないなんてしぶといね。吐いたら楽になるのに」


 本格的に気を失いかけた時、脳内で聞き慣れた声が聞こえた。


“すみませんお待たせしました。もう気を張らなくても大丈夫ですよ”


 俺はその言葉を聞き、意識を手放した。果てしない闇へと堕ちてゆく感覚がする。そして、俺の意識は完全に失われた。


“おやすみなさい真人さん。大丈夫です、ここからは……”


“私のターン、ですから”

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