第5話 幼馴染、暁紫苑

「筋肉痛、きつい」

「僕も」

「……あんたら日頃から運動しなさいよ」

「「ごもっともです」」


 翌日。俺と稜斗は予想通り筋肉痛になっていた。体を動かすたびに激痛が走る。ちゃんと運動しておけばよかったと後悔している。


「ま、私も運動バリバリやってるって訳じゃないけどさ、やっぱり大事だよね」


 今俺たちと話している女は暁紫苑あかつきしおん。吹奏楽部所属の幼馴染である。帰宅部の俺達よりも体力があり、身長も俺達より僅かに高い。ちなみに以前、なぜ運動部でもないのに陸上部に劣らない体力があるのかを聞いたところ「吹奏楽部でも部活でトレーニングするから」と返された。これが吹奏楽部女子らしい。


「これからはちゃんと運動するか……」

「そういえば、なんでいきなりランニングしようってなったの?」

「それは……」

「ちょっと健康に気を使おうってなってな」


 稜斗が詰まっていたので俺がフォローをした。ここで稜斗がバカ正直に答えなくて良かったと安堵する一方で、この割り込みが不自然ではないかと不安になる。こいつは変に勘がいいから悟られないように注意しなければいけない。


「ほ〜う?君達が?健康に気を使う……ねぇ」

「悪いかよ」

「いや?でもなんか意外だなって。健康とか考えるような奴じゃなかったのに」

「別にいいだろ。それよりさっさと席座れよ、1時限目始まんぞ」


 紫苑は少し納得していない様子で自分の席へ戻っていった。俺は思考をシフトして1時限目の準備をした。



「もう無理……足、ヤバい」

「僕も……」


 今日は黒波に予定があった為、俺と稜斗の2人でランニングをしていた。筋肉痛で走るのはキツイため今日は休もうと思っていたが、休もうとすると有紗がうるさいので今日も走ることになった。ちなみに稜斗は拒絶していたが無理矢理付き合わせた。


「もう5時か……そろそろ帰ろうぜ。俺まだ課題終わってねぇんだ」

「よし早く帰ろう。今すぐ帰ろう。さっさと帰ろう」

「わかったわかった。ほら帰るぞ」



俺達は家に歩を進めた。しばらく歩いて、黒波から神結晶を貰ったあの信号に差し掛かったところで俺達は異変に気付いた。


「なぁ、変な裂け目が見えるのは俺だけか?」

「安心して、僕にも見える。向こう側が宇宙みたいな裂け目がね」


 そう、空間を切り裂くような裂け目が浮かんでいたのだ。裂け目の向こう側を覗くと、そこは文字通り「宇宙」だった。果てしなく続く宇宙で、数多の惑星が太陽の光を受けて輝いている。


“ここは危険です!今すぐに離れてください!”


 次の瞬間、裂け目は広がり俺達を飲み込んだ。

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