そのとき、断頭台の悪役令嬢は…

ちさここはる

未来(あした)の私へ

 死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ! わたくしは伯爵令嬢のララオット=バグネーグですのよ!? 国王陛下や、他国の王族すら跪いて頬を染めて言い寄って来たことをお聞きになったことはなくてっ! 私は国の叡智の結晶にして、神が地上に間違って落とされてしまった美貌の女神でしてよっ。じゃなければ私が、これほどに人間を魅了し骨抜きにするだなんてありえなくてよ。


 だというのにっ、どうしたら私を死刑などと大罪を犯そうとしていますこと! 私の首を切り落とすということは太陽を失うということだということの自覚がありまして!? 


 浅ましいっ、浅ましいっ、浅ましいったらありませんことねっ! 一時的な感情に身を任せて、未来ある、未来を築くであろう王族や貴族も一掃しょうだなんて。後々になって後悔をするのは貴方たち自身でしてよ! ああ、もうっ。断頭台が血生臭いですわっ! うえぇええ。髪の毛に、何方どなたかの血肉の断片。小汚いっ、小汚いっ、……子汚いここが死に場所だというのっ!?


(まだ、私は――14歳。いえ、15歳だというのにっ)


「生きたいか?」


(!? っだ、……悪魔の方かしら?)


「悪魔ぁ? っふ、ふふふ。大分腰の据わったお嬢ちゃんだ。訂正させて欲しいね。悪魔は兄弟であり姉妹だが、別の種族だ。あたしゃあ、魔女デルマってもんさね。ああ。時間を止めたからね、話しをしょうじゃないか。お嬢ちゃん」

「私はお嬢ちゃんではありません! 断頭台から出して頂けなくて? この格好は辛いですわっ」

「そのまんまの恰好で」

「悪魔ですわっ」


 魔女デルマと名乗った方は、一時期と社交界でも有名になりました。私には比較になりませんが、魔術か何かで占いを稼業として王族や貴族に取り入る――《女狐》だとか《魔女》だの《悪魔》と。


 細く真っ青なくらいに白い肌に、真っ直ぐと長く伸ばされた黒髪には色鮮やかな花飾りが散らばっててキラキラと輝いて美しいですわね。細くの長い唇には美しい口紅。切れ長でまつ毛の長い瞳はアメジストで、真っ直ぐに私を見据えていますわ。気恥ずかしいのはどうしてですのっ。


 彼女は金銀財宝と稼ぎ。一夜にして忽然と失踪されて顧客たちは露頭に迷ったと、悪名高いことに関しては彼女に譲ってもよろしくてよ。


「それでぇ? まだ、質問の答えがないようだけど。どうなんだい? どうするんだい?」

「何が、目的、……でして?」

「目的? っぶ! はははは! 別にないよ。まぁ、ないっちゃないってのも嘘になるかねぇ。ふふふ、魔女デルマは気紛れなのさ。伯爵令嬢のララちゃん」

「魂ですの! それとも、私が美しいから手籠めにする気ですの!? 愛玩人形なんかお断りでしてよっ!」


 私の言葉に魔女デルマも面倒な表情を浮かべた。長い爪にも宝石が輝いていて、キラキラと長い髪を掻き上げた。


「終えるか。始めるかの――選択肢だぁよ」


「私は――……」


 ◆


「ララオット! 料理っ!」


「ぁ、おぁい!」


「ララちゅわぁあん! 注文ぃいいー~~??」


「あい!」


 私は魔女デルマに願いましたの。

 生まれて初めて――こうべを垂れたのです。


 15歳から人生を始めるために。


 断頭台で一回と首を切り落とされてから白鳥の姿で飛び立った私は魔法界に来きましたのよ。ただ、声帯も切断したことによって口はきけなくなってしまいましたが、大分と話せるようにはなったのよ、こうして私は魔女デルマの計らいもあってレストランのウエートレスとして仕事を始めたわ。


 伯爵令嬢のララオットのままでは味わえなかった生き方でしょう。


「ララちゃん。ママにも飲み物を」

「! ぁ、ああぁおぉう!」

「いいじゃないか。一応、仕事もして来たんだ。労っておくれよ」

「……あい」


 私はデルマの膝に上に座った。途端に、ぎゅーと羽交い絞めに座れるのが、毎日の儀式。みたいなもの。エネルギーチャージだって。本当に馬鹿みたいですわ。


 でも、私は幸せですわ。


「で、るま」


「ンんん? なぁんだぁい」


 貴方を愛せることが。

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そのとき、断頭台の悪役令嬢は… ちさここはる @ahiru

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