第8話


 「続いては、追い出しを……」

 「待て待て!!」


 俺は赤坂の言葉を遮る。


 完全読書(漫画)モードに入っていたのに、それを引き戻したモノ。

 それは「本当に小説を書く気あんのか?」という憤りだ。


 俺も作家(底辺)の端くれ。

 そこまで適当な態度を取られると、やはり面白くはない。


 若干、険悪な雰囲気を醸し出し、説教モードに入ろうとした瞬間――



 「赤坂は今のタイトルからどんな話を考えてるの?」


 眠そうに炬燵でゴロゴロしていた沼田が唐突に尋ねた。

 まさに今、俺は似たような事を言おうとしていた……


 「なるほど、興味深い……」


 赤坂は頷く。

 いや、興味深いじゃなくて、お前の話だからっ!?



 「お腹の弱い令嬢……。恥ずかしいスキル……追い出し……バトル……」


 少し考える素振りで赤坂は呟く。

 何故”バトル”を入れた?という疑問は、取り敢えず置いておこう。



 「はは……。まるで便意の話のようだな」


 だろうよっ! 

 そうにしか聞こえんわ!


 「お前は、それで良いのか?」


 俺は赤坂に確認した。


 「違うな。俺はギャグ作品を書きたいわけじゃない。真面目に考え直そう……」


 ”えっ!?ええっ!?”と、内心驚いていた。

 真面目じゃなかった事をそんなにあっさり認めんのかよっ!?

 掌返すの早すぎじゃね!?


 いや、だが、赤坂にも何かビジョンがあったのか……。

 やたらとバトルに拘っていた気もするし……。


 「何故、こんな事になってしまったのか……」


 頭を抱える赤坂。

 そこまで深刻な話ではないだろう?



 「取り敢えず、何を間違えたか思い返してみれば?」


 沼田が赤坂に尋ねた。

 そもそも小説を書こうと言い出したこと自体が間違いのような無い気もする……


 「……”お腹のゆるい令嬢”か?」


 自覚あったのかよっ!

 ああ、俺もそれが一番の間違いだとは思ってたよっ!


 「何で?」


 尚も沼田は、赤坂に問い掛ける。


 「主人公の個性が”ギャグ色”を強めてしまう……」


 いや、その通りなのだが、そんな難しそうに話すまでも無いだろ?

 とはいえ、赤坂がギャグ作品を書きたい訳で無いのなら、その一手は間違い無く、間違いだ。


 「そもそも主人公だったの?」

 「違うのか!?」


 沼田の問いに、赤坂は何故か俺を見る。

 俺に答えを委ねられても…… 


 「……いや、まぁ、そうだと思う」

 「ほら、やっぱり」


 何故か赤坂は誇らしげだ。


 「じゃ、主人公が間違いだったって事じゃない?」

 「そういう事だな」


 再び、赤坂は俺を見る。

 だから何で俺!?

 

 「なら、もっと、話の作り易い主人公にしてみれば?」

 「もっと話の作り易い主人公とは?」

 「ん~~」


 沼田は考える。


 なんだ?このやり取りは。

 多分、二人は俺にパスを繋いだ気になっているのかもしれない。

 俺にシュートを決めろという事なのか?

 クソッ!何日か前にサッカー漫画など読み返さなければ良かった。

 ”サッカー好きか?”と、問われている気分になっている。

 いや、サッカーでは無いのだが…… 


 「適当にタイトルを付けた俺にも責任の一端はある。だから、タイトルの修正と脚色をしたい。『ゆるふわ令嬢は”可愛い”スキルで追放を始めた』とかに変えてみたらどうだ?」


 この話が始まってから、実は、心の中で”こんな物語どうかな?”と、構想していたモノを口走ってしまった。

 パクろうとしていた訳では無い。断じてない。

 が、何となく考えてしまったのだ。


 「ほぉ……。興味深い。で、それは、どんな話なんだ?」


 結局、俺の幻の左はセンターラインにまで戻された。


   〜 完…… 〜

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創作色々論 麻田 雄 @mada000

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