中古HHDに入れ替えたら、何かがスタートしました。
久遠 れんり
スタート
「げっ。起動しない」
長年使っているノートPC。
『修復しますか?』
「当然だ。頼む」
書いているWEB小説の原稿。今日の分が中にある。
いつもなら、USBメモリの中に保存するのに、昨日はしていない。
『修復に失敗しました』
「ああ、もう」
状態は、起動中に再起動。
「ドライバーが壊れたのか? それとも不良セクタ?」
だが、途中までは読んでいるという事は、ハードディスクは何とか生きている?
「リカバリーディスクはある。よしハードディスクを買ってきて、リカバリー。古いハードディスクはUSBとATA変換ケーブルか、ケースに入れて変換すれば良いだろう」
確実そうな修理方法を、頭の中で構築する。
不良セクタなら、下手に読み書きをさせないほうが良い。
近くの店へ行き、とりあえず、中古のハードディスクを買ってくる。
裏のパネルを取り外して、交換をする。
パネルも、中の固定ネジも、両方とも二本のネジで止まっているだけだった。
ものの五分で交換終了。
「よしよし。えい」
リカバリディスクと言っても、USBメモリー。
ファンクションキーを連打して、ブートメニューを出すはずが間に合わず、起動し始める。
「はっ? 初期化もせずに売っていたのか?」
画面に流れるのは、カーネルの起動リスト。文字列が流れていく。
「それもLinuxだ」
強制的にリブートをさせようとしたが、それより早く起動してしまった。
「軽っLiveか?」
メディア用のOSを、ハードディスクにインストールしたような軽さ。
そして、画面は切り替わる。
そこはどこかの工場か、倉庫のようで、女の人が椅子に縛られている。
ロープのかけ方が、なかなかよろしい。
丁度出っ張りを挟む感じで、凹凸が強調されている。
顔は見られないが、軽く胸に掛かるほどの黒髪。
赤いワンピース。
なにか、ぼそぼそと声が聞こえて、その女の人がビクッとする。
そして、ワンピースが足下からほつれ。
糸が、生き物のように、カメラに向かってくる。
時間が経ち、徐々に短くなっていくスカート部分。
あーいや。見ちゃうよね。
もう膝まで上がってきた。
何かを期待しながら、見てしまった。
画面に文字が表示される。
『見つけた』
その文字は、ふわっと浮かび消えていく。
向こうで、糸はドンドン出ている。
そして、また文字が。
『次はお前だな』
また消える。
『スタート』
その瞬間、どういう原理か。
ノートPCの、穴という穴から、赤い糸が吹き出し。俺は意識を失った。
気がつけば、椅子に縛られ。横には女性の死体。
血なまぐさい。
彼女のワンピースは血で染まっていた。
さっきまでの赤は、色を失い。すでに酸化して、黒みを帯びている。
見ると、額に穴が開き。中身がない。
視線を変えて、正面を見る。だが、目の前にあったのは、カメラでは無く……
「失踪ですか?」
「ええ。そうなんです。彼の会社の方が、ずっと出社してこないので、心配をして来られたのですが。この通り。ラーメンとかも、これ食べかけなのかな?」
大家にうながされて、警官が中に入るが、普段の生活の中。忽然と消えた様子。
荒らされた痕跡も無く、ただ家主が消えた。
そんな感じだ。
「うーん。そう言っても事件性はなさそうですし、家主さんの実家とかに連絡を取って、何とかして貰ってくださいよ」
「そうですね。ただ保証人が保証会社なので、実家が不明なんですよね」
「そう言われても。まあ捜査と言うことで調べても……」
「おっ。中古のノートPC。安いな。すみません。これ幾ら?」
『スタート』
「次は当てる…… おれは、生きて帰る…… じゃないと人類が……」
中古HHDに入れ替えたら、何かがスタートしました。 久遠 れんり @recmiya
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