第4話 幽霊か人間か
翌日、は快晴だ。
ベランダで洗濯物を干していると思わぬ光景が目に飛び込んだ。
下の駐車場に『あの男性』がいたのだ。
しかも、驚いたことに昨日はしていなかったような手に包帯がある。
どこか怪我をしたのだろうか。
あの人がこのアパートの住人なのは分かった。
怖いけど次に会った時は名前と『あなたは何か盗られたんですか?』と聞いてみよう。
洗濯物を干し終わり一息つく。
掃除も一通りしたしあとは夕飯を作る以外自由時間だ。
その時、スマホのラインが送られてきた。
芦屋さんからだ。
佳奈子はコートとバッグを持ち家を出た。
昨日の呟きを見た人からデュークを見たかもしれないという通知があったらしい。
(よかった!)
芦屋さんはまだ呟きの機能は理解が難しいらしい。
ラインはできるのに。
だから自分を家に呼んでくれたのだ。
芦屋さんが送ってくれた住所は我が家から徒歩10分の距離の平屋の1戸建てだ。
「お邪魔します」
なにも手土産とかなくてすみませんと謝ると芦屋さんは
「大丈夫よ。寒かったでしょ」
とティーカップにお茶とチョコを出してくれた。
丸いテーブルにソファーがあり、奥にある棚には一輪挿しを挿した花瓶があり、その隅にはデュークのと思われるペット用のベッドと餌用のトレーがある。
人の部屋を見るのは不謹慎ながら面白い。
しかし今はデュークがいないこの空間にどこか悲しい気分にさせる。
「芦屋さん、そういえばデュークを見かけたっていう通知見せてもらっていいですか?」
と尋ねると彼女は
「うん。これなんだけど」
と来た通知を見せてくれた。
そこには2つほど離れた町の田んぼでデュークと思われる犬がいたかもしれないとあった。
私達は2人でそのDMの返信内容を考える事にした。
「まずは、お礼を入れた方がいいですよね」
「そうよね」
芦屋さんは指示を受けながら文面を入力する。
「車出したいけど、匠に聞いてみようかな?」
佳奈子は免許を持っていない。
「ごめんね。かなちゃん」
気落ちしたのか芦屋さんは申し訳なさそうだ。
「いいんですよ。あの人も犬好きだし話せば分かってくれると思います」
と言うと
「ありがとう」
と芦屋さんはほっとする顔をした。
その顔が見れてちょっと佳奈子は安堵した。
「紅茶飲んじゃった」
一緒に紅茶を淹れていた芦屋さんは新たにカップに紅茶を足そうとキッチンにいってティーポットにお湯をさしにいく。
「かなちゃんもおかわりいる?」
と言われ、まだ一口も紅茶を飲んでない事に気づき慌ててそれを口にする。
まだ飲んでるし、少し冷めてるけどおかわりはどうしようかなと考えた。
芦屋さんはまだ糖分が足りないのかお菓子をストックしているボックスを漁っている。
ふと見慣れた物を佳奈子はみつけた。
ヘアクリップだ。
それはつい先日佳奈子が失くしたと思っていた物だ。
今それは食べかけのお菓子の袋を閉じている。
ーいや、見間違いだ。
それにしてもこの紅茶は甘い。
砂糖が多いのだ。
芦屋さんはティーポットを持って来てくれた。
「チョコも食べる?」
と新しいお菓子をテーブルに出してくれた。
この窓辺の席は暖かいのも相まって瞼が思い。
「あら、かなちゃんもしかして眠い?」
芦屋さんは過保護だ。
ブランケットまで掛けてくれようとしてくれている。
なに寝ぼけているのだ。
デュークを探すための会議だ。
「お構いなく・・」
といい掛けたが情けなくも睡魔には抗えない。
どうしてだろう?
「かなちゃんったら」
もうと笑った芦屋さんの目は全然困ったようには見えなかった。
ーーーーーーーーーー
ザーーー
蛇口から出た水はバスタブに溜まっていく。
バスタブに入れた佳奈子は一向に目を開けない。
バスタブに蓋をすると佳奈子は見えなくなった。
デュークみたいに。
佳奈子がいけない。
旦那もいて金にも困らなく私の持っていないものをアイツは持っている。
昔から私は人の物にどうしようもなく惹かれて魔が差すのだ。
大丈夫。昔みたいにヘマはしない!
さあ、彼女の痕跡を消すために後はカップを処分しなければならない。
カップを割った後どかに埋めなければ
そうだ。
犬を埋めた場所とは別のところがいい。
流し台にカップを落とす。
パリンと音を立ててそれは割れた。
しかし勢いがついてしまって破片が飛び散った。
痛と顔に痛みを感じ頬を触ると切れていた。
傷口を触ると赤い血が床に落ちた。
まるで佳奈子が仕返しとばかり目印をつけたみたいだった。
そのアパートの中の無垢な鳥たちは 麻麻 @monokaki135
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