Lv999ダークファンタジー出身の俺にとって、異世界転生は温すぎる。~チート級のラスボスが、異世界で奴隷エルフたちに力を分け与える。暗黒の巡礼者と呼ばれる秘密組織を築き、無双とハーレムの王道を築く~
第34話 勘違いだらけの恋の中で起きる初めての○○。
第34話 勘違いだらけの恋の中で起きる初めての○○。
いよいよ、新国王の体制の元で、初めての剣舞祭が開催された。
大陸中から観光客が押し寄せ、動員人数は昼時点で五〇万人を超えた。
本選の会場、王都剣舞祭アリーナはこの時のために新設された。
彼らを収容して余りある観客席が設けられ、大貴族専用のスイートルームも完備されている。新国王クリストフェルの世評もよく、以前の剣舞祭と比較しても、圧倒的と言える人だかりが出来ている。
「ねえ、シグ君。私たちって、まだ付き合っているわよね?」
そんなお祭りを、さあ、満喫していくかと思ったところで、シグは青髪の王女さまに捕まってしまった。
シルヴィア・エストホルム。愛想笑いがよく似合う、腹黒の王女さまだ。
「何の用だい」
「何って、私たちは彼氏彼女なのだから、一緒にいて当然でしょ?」
「へえ、面白いことを言うね。この前は一方的に別れたのに、今度はよりを戻すなんて、辛いことでも会ったのかな? 慰めてほしいの?」
シルヴィアは、はっと小馬鹿にするように鼻を鳴らす。
「あら、シグ君はしらないのかしら? いまでは私は、王都魔剣学園の一級剣士。そして、あなたは底辺を彷徨う七級剣士。この私が、付き合って
呆れたものだ。
女の腹の内など、童帝たるシグには理解も出来ぬが、ここまで人は醜くなるものなのかと、むしろ感心してしまう。
「それ、彼氏じゃなくて、奴隷っていうんじゃないの?」
「あら、よーく弁えているようね」
「一級剣士になったから、七級の弱者を従えて、王さま気取りをしたいと」
「気取りじゃなくて、実際に、私は王女なのよ」
「それで、君の心は満たされるの? かえって、虚しいだけじゃ」
「いいから、黙って言うことを聞きなさい」
シルヴィアが金貨を取り出すと、シグは目に見えて動揺し出した。
「ふ、ふふっ……僕が、その程度のはした金に釣られるとでも」
キーンと、シルヴィアが指でコインを弾く。
「くっ!」
すかさず飛び出して、頭から突っ込みながら両手でキャッチするシグ。
「あら? はした金じゃなかったのかしら」
「はした金さ。僕(たちの商会)の総資産と比べればね」
キーン。
取り澄ました顔とは正反対に、シグはまた無様に飛んだ。
「よく聞こえなかったのだけれど、なにか、言ったかしら?」
「ふっ、まだまだ温いな。この程度で、僕を服従させられるなどとは」
「ほ~ら、餌の時間よ、マロンちゃ~ん」
「ワッ、ワウワウッ!」
シグには、切実な悩みがあった。
彼は王都と商会の頂点に君臨しており、その資産に着服すれば、いくらでも贅沢三昧な暮らしを送れる。
しかし、配下たちや民草が心血注いで集めた金銭を、些末な我欲で手を付けるなんて、そんなのはダサ過ぎる。彼の〝覇王〟たる吟じに相反する行いであり、要すると、両親の仕送り頼みで生活をする、しがない苦学生でしかなかった。
昨夜、かっこつけてラッセに屋台飯を奢っただけでも、けっこう苦しい。
もしもあの冴えない男に彼女が出来てしまったら、一流レストランをごちそうしてやるなんて見栄も張ってしまった。
その軍資金を集めるには、またとない機会なのである。
「ほーら、上手にできて偉いでちゅね~(笑)」
「ワオ、ワオワオンッ!」
しばらくの間、シグは従順な犬をつとめた。
周囲に知り合いのエルフがいないことが、せめてもの救いだった。
♰
「いい? 彼氏っていうのは、女の子を喜ばせるものなの」
「はあ」
「彼氏でなくても、親しい友人には、贈り物とか、パーティーとか、そういったサプライズを用意するのが常識なの」
「ほう」
「だって、女の子は可憐な生き物なのよ? 相手がどうやったら喜んでくれるのか、それが男の使命とも言えるでしょう?」
「へえ」
シルヴィアとシグは、通りの屋台を巡っている。
面白いことに、適当に相槌を打っているだけで、シルヴィアはご満悦顔だ。
いったい何を食って育ったら、ここまで性悪に育つのか。
将来はとんでもない悪女になって、組織の抹殺リストに入らないかだけが、シグの心配というか、未来予想だった。
「贈り物、ねえ……」
「そうよ。特に彼女のことは、気に掛けておきなさい。誕生日とか、記念日とか、そういうことには敏感なのよ」
今さらながら、シグは仲間たちへの報酬を思い出した。
彼女たちには、物理的なプレゼントを送ったためしがない。
もしも女の子がサプライズを喜んでいるのなら、何か買い与えてみるのもいいかもしれない。
「王と臣下の間には、確固たる忠誠さのみが求められる」
「あら? 駄犬にしては、よく分かっているじゃない」
「プレゼントという考え方自体、これまでなかったが……ふむ」
シグがどこかに行こうとしたが、「ぐぇっ」首根っこを掴まれて、ずるずると連行される。
「ほら、私が王で、あなたは犬」
「……臣下ですらないじゃん」
「なにか、気の利いたものを寄こしなさい。私が払うから、金額は気にしなくていいわ」
それはもはやプレゼントではない気がしたのだが、これも経験だ。
女の子は、何を贈られて喜ぶのか。
千年童帝たるシグには、未知の領域である。
「む……この装飾品は、確か」
出店にはアクセサリーショップも並んでおり、この間、ラッセが身に着けていた青色のブレスレットが並んでいる。
「
材質は、金属類だろうか。ツヤツヤとザラザラが半々に織り交ぜられた奇妙な素材で、慎ましく光り輝いている。粗悪な宝石に見られるような下品さがなく、どこか惹き付けられるものがある。
「じゃあ、これにする」
「いらないわ。私はもう、身に着けているもの」
自慢するように、シルヴィアは右腕を見せびらかした。
「センスは、悪くないってことなんだな」
「そうね。あなたにしては、珍しく合格点を上げられるわ」
「あっ、ちょっとうんこ」
「あり得ないわ。一応は私の彼氏の癖に、排泄を催すというの?」
「……お前の身体構造は、どうなっているんだ?」
「美少女は、排泄をしないのよ。どこかの駄犬とは違ってね」
「ふーん」
「いいから、いってきなさい。もうそろそろ、第三部の試合が始まるはずだし、先に会場へと行っておくわ。言っておくけど、逃げたら、絶対に許さないから」
シルヴィアから離脱できたシグは、人目のつかない裏道に回って、地面を蹴り、建物の屋上へとのぼる。
「エルガード」
「はい、こちらに」
打てば響く速さで、金髪のエルフが姿を見せた。
「口調と態度は崩していい。今日から三日間は、剣舞祭だ。学園の生徒たちも、多く見える。いつ、どこで見られるか分からん」
エルガードは片膝を着く忠誠の姿勢をやめて、彼の隣に並び立った。
「分かったよ。わたしを呼んだのは、いつもの確認?」
「ああ、ようやく剣舞祭が始まった。第三部から始まり、明日は第二部、明後日は第一部の試合だ。今日は所詮、子供たちのお遊戯に過ぎないが、なにか大きな動きがあってもおかしくはない」
「そうだね。この前、王都で激しい戦いがあったようだし。強烈な魔力の痕跡が確認されるくらい、不審な一件だった」
ディックの死体は、戦いから三時間後、巡回中の守衛によって発見された。
犯人――というより、死闘の勝者は、剣鬼アイノだ。
しかし、現場には死体と魔力以外の証拠がなく、不審な事件として取り扱われている。
「死体は、ダニエル男爵家の長男、ディック。剣舞祭の第一部に出場するはずだったのに、開催から二週間前の日の夜に、殺害されたね」
「剣舞祭のライバルを蹴落とす、あるいは出場枠を空ける。普通はそういった見解をくだすだろうが、にしても不自然だ。死体は綺麗に真っ二つ、一方的に殺されたものと見られる。あれほど蹂躙できるのなら、わざわざ暗殺に出ずとも、試合で白黒つければいいだけだ。何より、報告された魔力量は……」
「最低でも、騎士団精鋭クラス。その場に残っていた魔力から、解析した結果だから、当時はもっと凄烈な戦いだったはず。犯人は、王都を守護する騎士団長にも匹敵するか、それ以上かもしれないよね」
となると、犯人は絞られるわけだ。
戦闘狂と、悪い意味で名高い〝剣鬼〟アイノ・フォーリンが、ぶっ殺した。
あるいはシグの姉であるオリヴィエか、フォーリン家の姉妹か。
この時期なら、各地から集まってきた剣豪たちが夜中に出くわし、格好つけて真剣勝負、なんて展開になったのかもしれない。
「いや……いずれにせよ、目的がないな。闘争本能が昂って、思わず……なんてくだらない理由で、この王都で殺人を犯すか?」
「現場には、犯人の証拠となり得るものがなかったの。これには、ラッセも悲鳴を上げていたわ。こんな難題事件は、俺のせいじゃねー! って」
「邪推するのなら、悪魔共の謀略なのかもしれないが……しかし、ホワイトコールには、依然として動きが見られない。そもそも奴らは、カスケーロ大陸を、どう見ている? 敵対しているのか、どうかすら分からん」
「ディアナの記憶が正しければ、悪魔は排他的な種族よ。千年前の大戦だって、カスケーロ大陸に乗り込んできた最初の種族は、悪魔だった。調和の概念を持たず、他種族を滅ぼす、邪悪の化身。ディアナは、確かにそう言っていたの」
「まさしく、悪を司る魔だな。悪意そのものとでも言うべきか」
事件の真相は、考えても分からない話だ。
シグが建物から飛び降りると、エルガードも彼に続く。
裏道から、また表通りに戻って、ゆるりと剣舞祭を観光していく。
「ところで、エルガード」
「なに?」
「プレゼントを、贈ってもいいか?」
「……っ!」
エルガードは五秒くらい硬直した後、シグの胸へと飛びついた。
「お、おい、エルガード!?」
「欲しいです! いや、欲しいかな! なに、シグが選んでくれるの!?」
「そ、そのつもりだが……」
「ふふっ……そうなんだ。でも、急にどうして?」
「無論、エルガードは、(臣下として)受け取るべきだろ」
「わたしが……(彼女として)受け取るべき……」
エルガードとシグは、勘違い交際を開始して、一か月が経った。
付き合っている前提はエルガードにしかないわけだが、奇跡的に会話が噛み合っていて、それからもお付き合いが進行している。
致命的な誤解はあるが、今日は一か月目の記念日である。
「そ、そういうことね。シグにも、なにかあげないと」
「俺はいい。(王としての)立場的なものがある」
「そうなの? (彼氏として)受け取るべきな気がするけど……」
「気にしないでくれ。俺が、そうしたいのだからな」
シグは例のアクセサリーショップから、青のブレスレットを購入した。
それをエルガードに差し出すと、彼女は目を輝かせて右腕に着けた。
「ありがとう、シグ。ずっと、大切にするから」
「そう言ってくれると、喜ばしい限りだ。では、一旦俺は」
「まっ、待って!」
エルガードはいったい、何の用があるのだろうか?
ふと振り返った瞬間、シグの頬っぺたには、新雪のように柔らかな感触が。
それは、エルガードの口付けだった。
「じゃ、じゃあね、また!」
顔を真っ赤にして駆け出して行った彼女を、シグは呆然と見送った。
「……なんで?」
この千年余りで、頬っぺたとはいえ初めてのキス――故は知らずとも、女の子からのご褒美は、童帝たるシグを混乱の更に奥深くへと連れ去っていた。
「……ふう。女という生き物は、なかなかどうして度し難い……」
そんな意味深な呟きで、シグは平静を装った。
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