第4話 暗黒の巡礼者。


 そうだ、王都に行こう。


 シグが六歳を迎えた誕生日に、父レイフはそんなことを言い出した。これまで片田舎のルンダールには五度も盗賊たちが襲撃を仕掛けてきたわけだが、シグが全てを殲滅して、その功績は父レイフ、そしてエルランデル家のものとなった。


 実際は、シグが始末した現場に、わざとらしくエルランデル家の徽章と直剣を残して、あたかも父の手柄に見せかけているだけだが、村の人たちは、まんまと騙されてくれた。父も、どうせならとシグの陰謀に乗っかる始末。果たしてこの黒幕が六歳の少年などと、いったい誰が勘づこうか。


 風聞によると、父はいまでは〝盗賊狩りのレイフ〟なんて異名を付けられているらしい。王都への招待状も、父の功績を労うもので間違いない。


「今日はシグにとって、忘れられない一日になるな!」

「ふふっ……嬉しそうですね、あなた」

「かくいうお母さまも、嬉しそうに見えます。やはり、此度の招待状は、お父さまの栄誉を讃えるためだと」


「あら、違うわよオリヴィエちゃん。確かに夫の功績は素晴らしいけど、今日はシグちゃんの誕生日なの。主役は、シグちゃんであるべきなのよ」


「ははっ、私も同感だよ、エイナル。オリヴィエは、シグが迷子にならないよう、注意してくれたまえ」


「問題ありません、お父さま。シグは、わたしが守り通します」


 迎えの馬車に揺られて、彼らは一家団欒と温かい会話を繰り広げていく。

 半日もすれば到着し、正式な入都審査を経て、四人は王都へと踏み入った。


「――これは、これは、レイフ・エルランデル殿。ルンダールからの遠路、遥々お疲れ様です」


 馬車に降り立った王城の前で、早速、迎えの者が顔を見せている。


「だれ?」

「ヴィリアル公爵……王都で最も地位の高い権力者のひとりよ。ほら、お父さまたちに迷惑が掛かるから、シグもこっちに」


 何やら、大人たちの面倒くさそうな挨拶が始まったため、シグはオリヴィエに連れられて、王都の街並みを歩き回ることに。


「お姉ちゃん、すごそうな人たちがいっぱい!」

「迷惑を掛けないようにね。ここでは、礼儀よくしないとだめよ」


 まだ九歳だというのに、オリヴィエの礼節はまさしく淑女のそれだった。

 語調や佇まいも、一流のレディーを彷彿とさせる。並木道には花々が咲き誇り、彩り豊かな花壇が随所に配置されていた。貴族たちの足となる豪奢な馬車には、華やかな装飾が施されており、煌びやかな建物が連なって、街並み全体が宝石箱のような輝きを放っている。金髪、色白、青い瞳のオリヴィエには、よく似合う街並みだ。


(こんなところでは、害虫の一匹も見つからんだろう。重要なのは、表ではない。虫や害獣が蔓延る、街の裏側だ)


 王都から下町へと続く門、その向こう側は、庶民たちの世界だ。そして、庶民たちの中でも、苦しい毎日を過ごし、更に下層では想像を絶する世界もあるかもしれない。あの日、奴隷のエルフを解放したシグにとって、下町調査は、最優先事項だった。


「シグ? そっちに行ったら、王都から外れちゃうわよ」

「でも……ここ、ちょっと落ち着かないんだ」


 いつもは凛々しさを常としているオリヴィエだが、愛する弟のためなら、多少の我が儘も聞いてしまう。


「仕方ないわね。ほら、早く行きましょう」

「ありがとう、お姉ちゃん!」

「お願いしたことがあったら、なんでもいうのよ」

「うーん……なんでもは、言わないかな」

「なんでもいうのよ」

「言える範囲でね?」

「なんでもいうのよ」

「お姉ちゃん、ぼくの話、聞いてる?」


 王都を巡る馬車の駄賃や、通行料は、シグが金貨を支払って済ませた。


「シグ? どこから、そんなお金が……」

「お父さんが、ぼくとお姉ちゃんのためにって!」

「あのハg……お父さま、分かっていますね」

「ねえ、いまハゲって言おうとした?」

「でも、こんな大金をもたせるなんて、少し心配ね……」

「お誕生日だから、多めに持たせてくれたんだと思うよ!」


 本当は、ここ数年でシグが盗賊たちをしばき回して得た金銭である。

 盗賊たちが蓄えていた、金銭や宝飾品などの戦利品を、ちゃっかり取り上げていたシグは、馬鹿に出来ない貯蓄を持っており、やろうと思えばこの王都で一等地を買うことも出来る。


 とはいえ、〝無能な弟〟を演じるシグには、勿論その気はないのだが。


「金髪に青眼、そしてエルランデル家の徽章の少女は……まさか、オリヴィエ・エルランデルさまでは!?」


「どうか、私めにもそのご尊顔をお見せください!」

「英雄、盗賊狩りのレイフさまのご息女さまが、なぜこんなところに?」


 王都の下町を歩いていると、下々の者がこぞって挨拶や握手を求めてくる。

 この混乱に乗じて、シグは姉とはぐれることに。三〇分ほどは、彼らの対応に追われるだろう。僅かな自由時間の内に、シグは街の隅々まで調査するつもりだ。


 漆黒のローブを纏い、素性が分からないように裏の世界へと潜入していく。


「ふう……やっと、一人になれた。しかし、予想通り陰気なものだな。光が強ければ強いほど、そこには根深い影が生まれる。……またもや、人身売買か」


 下町の裏路地を抜けた先にある商店街を更に下ると、人気のない廃墟街に躍り出た。この一帯を通り抜けたら今度は、一段と陰気臭い場所に到着した。


 王都ニクラス、裏街道三番通り。


 顔面に切り傷をつけたいかにもなおじさんや、刃物を隠しもせずに持ち歩いている物騒なおじさんもいる。いるというか、そんなのばかりだ。


 マーケットと呼ばれる闇市場には、少女たちが檻の中に囚われている。

 それも、またエルフばかりだ。


「まとめて、滅ぼしてしまおうか? いや……なるほど、そういうことか」


 シグは、このマーケットの〝本当の闇〟に勘付いた。

 ならば、ここで力のまま暴れることは真の救済に成り得ない。


「あぁ? んだガキ、ここに玩具は売ってねーぞ」


 シグが両手いっぱいの金貨を見せびらかすと、奴隷店主は態度を一変させた。


「はははっ! ガキだろうが、金があるんならお客さまだ!」

「おいおい、張り倒して強奪した方がいいんじゃねーか?」

「やめとけ、どうせ貴族のガキだぞ。どこかに近衛騎士がいる」

「おいおいおい、俺たち終わりじゃねーか」

「分からんが、胡散臭えガキだ。関わり合わん方がいい」


 意外なことに、シグが大金を見せても、周りの男たちは暴力を仕掛けてこない。


「ねえ、おじさんはこの女の子たちを、攫ってきたの?」


 店主はぺっと、拒絶反応からくる痰を地面に吐いた。


「んなわけねえだろ、俺はただの小売業者だ。ガキを仕入れんのは、別の業者だぜ」

「その業者について、少し話せる?」


 シグが三枚の金貨を握らせようとするも、店主は手ではねのけた。


「よせ、よせ、死にてえのか坊主? こんなことをしちゃあいるが、俺にだってガキがいる。悪ぃが、こんなところで命は懸けられん」


 やはりと、シグは自分の中にあった答えに確信を持った。

 この裏街道にいるのは、大した覚悟もない小悪党ばかりだ。悪には変わりないが、成敗するほどの〝病原菌〟ではない。となると、やはりエルフの少女たちを解放する手段は限られてくるわけだ。


「これ、みんなエルフの子たち?」

「全部で四体。銀髪、赤髪、青髪に、桃色髪。まあ、選り取り見取りだな。全員、処女だぞ」


「最後のオプションは、言う必要ないんじゃない?」

「いや……ガキにこういうなじりはおかしいんだが……なーんか、童貞くせえんだよな、坊主」


「あははっ、面白い冗談だね!」

「……目が笑ってねえぞ、坊主」

「とりあえず、全部お願いしていい?」


「ははっ、全部は買いきれんわな。エルフ一体で、金貨七〇枚。四体で二八〇枚だ。なに、お前がガキだからって、足元を見ているわけじゃあない。中抜きで、八割から九割は持っていかれるからな。懐に入ってくる額なんざ、たかが知れて」


 どすんと、テーブルに音が鳴るほどぎっしり入った金貨袋は、合計で三つ。

 店主は恐る恐る手を伸ばし、いざ袋空けて数えてみると、三〇〇枚もの金貨が入っていた。


「ど、どうしてガキが、こんな大金を……いったい、どこの生まれだ? 王都の名家でもないと、これほどの額は……」


「いいから、持っていってください。お子さんと、暮らしているんですよね? お釣りの二〇枚は、ぼくからのチップです」


 店主はその場で泣き崩れそうになったものの、目元を拭うだけで堪えた。


「ありがとう……恩に着るぜ、坊主。もう、こんな商売はやめだ。足を洗って、娘と慎ましく暮らしていくんだ。俺は、八百屋をやってみたくてよ……この資金がありゃあ、真っ当に生きていけるかもしれねえ。本当に、ありがとうよ、坊主」


 店主から檻の鍵を受け取り、シグは四人のエルフを解放させた。


「生きたければ、付いてこい。二度とこんな悲運に遭わぬよう、それなりの力を分け与えてやる」


 エルフの少女たちは一様に顔を合わせて、戸惑いの色を見せた。

 それでも、彼女たちには行く当てがない。助かる見込みがあるのならと、四人ともシグに付き従った。


「――やはり、こちらにおられましたか」


 裏街道から廃墟街に移った時、シグは意図的に足を止めた。背後からの刺客、王都に来た時から尾行されていたことを、彼は察知していた。


「エルガード。我らが神に、再会の時を果たしにきました」


 漆黒のローブから覗いた顔は、三年前に助けた、金髪のエルフだった。


「この三年、変わりなかったか?」

「王都ニクラスで、用心棒をつとめておりました。何やら、怪しい噂があるようで」

「ほう……やはり、王都にあるのか?」


 彼女が伝える間でもなく、シグは真相を掴んでいたらしい。

 エルガードは彼の叡智を認めながら、あえてその先の言葉を口にした。


「三年前――わたしが盗賊たちに捕らえられている間、彼らの会話を耳にしてきました。わたしの引き渡し先も、王都ニクラスでした。そしてこの場にいる奴隷は、全てわたしの同胞です。つまり……」


「王都の何者かが、意図的にエルフを攫う計画を立てている」


 廃墟街と下町とを繋ぐ、陰鬱とした居住区に着くと、エルガードはボロボロの民家に上がり込んだ。彼女が購入した物件か、中は生活用品で溢れている。飲み物には、乳製品が多い。


 そういえば三年前、彼女は三歳児のシグに母乳を飲ませて上げようとしていたが、幼い彼女では出るはずもなく、その頃の名残があるのかもしれない。一応、エルフたちの中では、一番発育が進んでいる。乳製品の恩恵だろうか。


「もう、とっくに離乳食も終わっているようですね」

「そつなく食事が出来るぞ。あいにくと、エルガードに母親ごっこをしてもらう必要はなくなった」

「そうですか……」

「なぜ、残念がる?」

「飲みたそうに、しておられたので」

「たわけ! むしろ数年と飲み飽きたわ!」


 ぜえはあと、息を荒げているシグ。

 このままでは王の名折れだと、平静を取り戻して凛々しく振る舞う。


「諸々の事情を話し合いたいところだが、いまの俺には時間がない。まずは、新たに助けた四人のエルフについてだ」


 シグは、横一列に並んだエルフたちに一瞥を送る。

 少女とは思えない、酷く冷めた目つきをしている銀髪のエルフ。

 憤激と殺意に燃える紅蓮の双眸と、深紅の短髪を持ったエルフ。

 おどおどとしていて、目尻に涙を湛えている青髪のエルフ。

 唇に手を当てて、興味津々にシグの言葉を待っている桃色髪のエルフ。


「この中に、自殺志願者はいるか」


 一番目にシグの問いに答えたのは、無機質な銀髪のエルフだった。


「私は両親を、目の前で殺された。何度も、何度も、必要以上に剣を突きさして……ああ、いま思い出しても、腹が立つ。なぜ、世界には悪が存在するのか。私は世界中の悪党を、滅ぼしてやらねば気が済まぬ。自殺など、もってのほかだ」


 それは正義感なのか、はたまた憎悪なのか。いずれにせよ、銀髪のエルフには生きていく意思が明確にある。


「あたしは、弱い自分が大っ嫌いだ! 弱いやつは生き方どころか、死に方すら選べない! いまよりずっと強くなって、逞しくなって、今度こそは、守り抜くんだ! そのためにも、自ら死ぬなんて、絶対に御免だ!」


 赤髪のエルフは、目的が分かりやすい。シグの理想にも通ずるところがある。


「え、えと、その……わたしは、分かりません。何をしたらいいのか、どう生きていったらいいのか……いっぱい、辛い思いをして、死にたくなる時も、あるんです。でも、ここで終わっちゃうのは、何だか、もったいないなって……」


 悲壮感を漂わせながらも、青髪のエルフには小さな決意が見て取れる。

 彼女もまた、悲惨な過去を持っているのだろう。だからこそ、死にたくなってしまう時があっても、生き延びる意思は強固に保ち続けている。


「なんのお話? ねえ、ねえ、なにか面白いことでもするの? ……あっ、お腹空いてきちゃった! 食べ物をくれると、嬉しいなって!」


 桃色頭のエルフは、幼くして我が道をいっている。

 どこで、誰が、何をしていようとどうでもいい。

 面白いことに興味を持っているのなら、シグの従順なしもべになり得るだろう。


「良かろう……ならば、俺の力を分け与えてやる!」


 シグは、三年前にエルガードへそうしたように、四人のエルフに己の魔力を、譲渡した。個体によって、魔力配列が異なるが、シグは既に彼女たち専用の魔力を作り上げている。


 彼女たちから漏れ出ている微弱な魔力を観察して、その性質を見抜いたのだ。たった一瞬で魔力配列を見抜き、専用の魔力を生成出来るのは、破格の魔力で洞察力を引き上げたシグの瞳に限られる。この目にかかれば、大気中に漂う粒子さえも見通すことが出来るのだ。


「後は、衣服か。布切れではみっともない、これを着ろ」


 シグは魔力を糸の形で織りなし、独自の魔法製ローブを五つ拵えた。


「耐魔法の防具ですか?」


 エルガードが穿った見方で、ローブの触感を確かめている。


「まあ、そんなところだ。任務を行う時や、戦闘時はそれを着ておけ。並大抵の攻撃は、防ぐことが出来るだろう。――もっとも、いまのお前たちには、貧弱な攻撃など通用しないだろうが」


 エルガード同様に、新たな四人のエルフたちも、莫大な魔力を宿している。

 いつ戦いに巻き込まれようと、盗賊如きに負ける程度ではなくなった。


「シルバーレイン。ブレイズハート。ブルーウェイヴ。ローズウィスプ。組織における、お前たちの名だ。エルガードを筆頭に、今日からお前たちは、暗黒の巡礼者ダークピルグリムとして活動してもらう。異論は、あるか?」


 シグが問い掛けても、誰も口を挟もうとしない。

 彼女たちの瞳に宿る光は、希望と憧憬に満ち溢れている。


「俺たちの目標は、世界平和だ。お前たちも散々、目にしてきたように、世界に蔓延る醜悪は、看過し難い。世界中に存在する病原菌を駆逐し、真の安寧をもたらすのだ。その第一歩として、王都ニクラスの闇を暴く」


 シグが命令をあげ、五人の巡礼者たちが膝を着く中で、どたばたと騒がしい足音が表通りから聞こえてくる。


「シグーっ! どこに行っちゃったの!?」


 姉だ。どうやらあの煩雑な握手会やら挨拶会が終わったらしく、シグの失踪に気付いて街中を駆け巡っているのだろう。


「では、仔細しさいは任せたぞ」


 これにて解散と思ったところで、シグはそう言えばと別件を思い出す。


「――げへへ、裏の世界から、抜け出せると思ってんのかよォ?」

「ここで足を洗うってことは、すなわち死を意味してる。馬鹿な真似をしたな、イデオン」


 奴隷市場の店主イデオンは、五歳になった愛娘を抱えて、裏街道を走り回っている。すぐ後ろには、追っ手の暗殺者たちが迫っている。口止めだ。この王都に存在する〝裏〟を深く知ってしまった以上、野放しにされるはずがない。


 直ぐにイデオンは取り押さえられ、地べたに叩き伏せられた。


「たっ……頼む! どうか、娘だけは、殺さないでくれ!」

「げははははははっ! 知ってっか、イデオン! ガキの臓器は、なかなかいい値が付くらしいぜ! てめぇら親子まとめて、この場でぶっ殺してや――」


 何かが幾度となく斬り刻まれる音と、ばしゃっと血が撒き散る音が、男の声を遮った。


「っ? な……なんだ? おい、やっぱり、見逃してくれるのか……?」


 イデオンが顔を上げた時、そこには無残な肉塊となった、二人の暗殺者が。

 たった一瞬の内に、誰が、こんな真似をしたのだろうか?

 そして地面に置かれた、五枚の金貨と、何者かによる書き残し。


〝この金で、王都を出ろ。せいぜい、愛娘と平穏に暮らすことだな〟


「ありがとうよ、誰かさん……この恩は、一生忘れねえぜ!」


 イデオンはぐしゃぐしゃになった顔で走り続けた。今度こそは、娘と真っ当に生きるんだという思いを懐きながら。


 ――そんな彼の一部始終を、シグは建物の屋上から見届けていた。


 足元から伸びる魔力の影、それにより幾重もの魔力剣を生成していたシグが、二匹の病原菌を駆除したわけだが、これはなかなかの切れ味である。


 しかもこれは、オートで敵影を探知し、斬り刻む。雑魚程度なら、寝ていても殲滅できる。剣技と魔法を融合させた、シグのオリジナルだ。


「さて、そろそろ姉の元に戻るとするか」


 シグはローブを脱ぎ捨てて、下町へと舞い戻る。

 お姉ちゃんどこと泣き喚いていると、恐ろしいことに、一秒後に迎えが来た。


「やっぱり、シグはここにいたのね! 臭いで分かったわ!」

「お姉ちゃんは、犬か何かなの?」

「知ってる? 犬はね、好きなものにマーキング・・・・・するの」

「……」

「冗談だから、そんな顔はしないで、シグ?」

「良かった……食べられちゃうんじゃないかって……」

「それはまだ、先の話よ。あと、五年くらいたったら」

「お姉ちゃんは、人を食べる趣味があるの?」

「そっちの食べるじゃないわ」

「……なんのこと?」

「シグは知らなくていいわ」


 るんるんと弾んだ足取りの姉に合わせて、物陰に蠢く男たち。


「シグ?」

「ううん、なんでもないよ!」


 いずれきたる波乱を待って、シグは今しばらくの平穏を楽しんだ。

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