命の泉に星落つる時
十六夜 水明
星を送り出す少女
少女は、泉のほとりで水を汲んでいた。
夜の
「何やってるの? みんな待ってるよ?」
宙に浮かんだ星々に向かって、少女は柔らかな声で呟いた。
白い
決して同じものが存在しない彼らは木製のバケツに溜められた水にと共に、この世界の最果てを見つめるかのように、星と月を見上げている。
「早くしないと、時期を逃してしまうよ?」
こちらに来ることが出来なくなってしまうよ? 、と少女は再び宙に目を向けた。
そこにあるのは、同じ輝きも色も無い宙満天の星々。強く華やかに輝く星もあれば、ほんのりと柔らかな光を放つものもいた。中には、今にも消えてしまいそうな黒い星だってある。
泉には、その宙を映し出す。少し触れ、波紋を広げれば星は揺れ動き歪んでしまうこともある。
そんな中に、ただ1つ形を変えない揺るぎない天体が星々の中に浮かんでいた。
『月』だ。
金の粉を振り撒くように月光が丘陵一面に降り注がれている。希望を込めた
星々を見守る月は、変化してはいけない。片寄った愛を慈愛を注いではいけない。全ての母のように等しく慈しまなければならない。
それが、月の存在意義だから。
一瞬、少女のバングルにはめ込まれたムーンストーンが光った。それは、月光の反射でもなく光っているわけでもない。本当に一時、瞬く間だけ。どこからか、光が差し込んだのだ。
その時、少女を見下ろしていた宙から1つの星が降りてきた。
少し光を抑えた、しかしどこか清らかさを感じさせる薄青の星。
薄青の星は、少女の手のひらに舞い降り一際強く輝いた。
クルクルと星は手の上で回る。回り続ける。
「行っておいで」
やがて、決心が着いた薄青の星は少女の手を離れた。フワフワとフワフワと。泉の中心部へと移動していく。
────スゥゥ……。
そして、仄かな輝きを放ちながら薄青の星は泉の水面に消えていく。沈んでいく。
光さえ見えなくなり、再び景色は元に戻る。
変わったことがあるとすれば、泉のほとりにまた夜露を浴びて花開く植物が1つ増えたことぐらいだ。
「あの子は、どんな事を思い考えるのかな。あぁ、また時が進んで行く────」
少女は、吐く息と共に呟き立ち上がる。
水を汲んだバケツを持って立ち上がる。
少女は、唄い歩き出す。
『輝く星は、
全の母、居る場に星の子
地上を観ては、思い募らせ
果てには、下界に降りてゆく。
命の泉は、境界線。
全ての命が通ってゆく。
泉を越えたその先に
終わりある世が広がって。
生に固執し、終を恐れる。
囚われ老いて、また星となる。
天界の神々、下界の星の子
境界の地の星の番人。
全てを知るのは、神の父。
想像主様は、全てを創り
私たちを、生かしている。
消えて、生まれて、また消えて。
宙に戻り、下界に降りる。
見守る私は、星の番人。
今日も、命を送り出す。』
その世界には、少女が只1人だけ。
その夜も、命を下界に送り出した。
星は巡り、再び戻る。
時空はそうして出来ている。
命の泉に星落つる時 十六夜 水明 @chinoki
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