死ぬのはお前だ
グランフェルデンから馬車で北東へ進み、†エンドゲーム†一行は”霧の森”近くの焼け落ちた森へとやって来た。
ここが”ウィリデ大森林”のあった場所だ。
件の”防人の遺跡”への入り口もほどなくして見つかった。そこかしこに妖魔たちの足跡もある。
「ま、死んだら……その時はその時」
ルルカはクールに言った。ゼクシアから予知夢の内容自体は聞いている。
「そんなこと言って、ちょっと足が震えてるじゃないですか」
「これは武者震いよ」
「先輩は……私が守ります!」
「色んな意味でフラグになるからやめて」
「……必ず帰ってきますので。待っていてください」
「いやそれまたフラグ!」
ここまで連れてきてくれた馬車の、御者の男性に一応告げておく。冒険者四人の不吉な会話自体は耳に入ってしまっているだろうが、彼は軽く頷いて野営の準備を始めた。
どんな展開であれ彼は慣れているのだろう。
冒険者なんてそんなもの。使い捨ての駒なのだ。あ〜かわいそう。
「では……気をつけながら進みましょう」
「ゼクシアが音頭を取るなんてどういう風の吹き回しなのやら」
四人は”防人の遺跡”の中へと進んで行く。
「……なんか匂わないですか?」
いつものほほんとしているマルシャが珍しく眉をしかめている。
「匂い? うーん……。私にはわからわないね」
わからないものの、ルルカはやっぱりちょっと怖くなった。マルシャは前衛ゆえか動物的な勘の良さを見せることがある。この少年が不快感を抱いたのなら本当に危険なのかも。
「いや、でも……。水の時代の強力なマジックアイテム……だもんね……」
遺跡の中を数分ほど進む。
石造りの壁材に這う植物の根が目立った。
ひんやりとして湿っていて別世界に来たという感覚がだんだん増してくる。
「壁が光ってますね……。さすが由緒ある遺跡」
光源は必要なかった。壁材はぼんやりと青く発光しており光源を用意せずとも――。
ぺたり。
「へー……この壁便利ですねぇ」
ゼクシアが壁にさわる。ぺたぺた。ぺたり。
「ダンジョンの壁が全部これになれば――」
「ぜ……、ゼクシアさんっ!!」
ジェーンが猛ダッシュしてきてゼクシアを壁から引き剥がそうとする。だが既に遅し。
ゴリ、という音と共にゼクシアの手が壁の仕掛けを作動させてしまっていた。
「それ
「え」
手が壁にめりこんでバランスを崩したところに破城槌のような大型の木材が突進してくる。
「危な――」
ィィィイイン、と破城槌と金属製の何かが鳴った。
――マルシャの盾だ。
ゼクシアに当たる寸前にマルシャがカバーして半身で受け、背負った盾で受け流したのだ。
受け流せたもののマルシャはまだくるくると回っている。いや、力を受け流せたからこそ回っているというべきか。
「な、何やってんのよゼクシア!」
「い、いやあ……、その。珍しい石材だなと思って」
「普段ならそんなところ触らないじゃない」
「……プロテクション」
「え? 何!? なんで今?!」
くるくる回っていたマルシャが尻もちを突いた。ドテン、と音がしそうなところにプロテクション。これでおしり痛くないね。
「そこじゃないでしょうが!」
ルルカが目頭を押さえてため息をつく。
「もう……しっかりしてよね」
「けほっ……、まあまあ。悪いのはゼクシアさんじゃなくて罠を仕掛けた人ですよ」
「すみません、ゼクシア先輩。シーフのわたしがあらかじめ言っておけば……」
「あんたたちゼクシアには甘くない?」
「うーん……」
ゼクシア自身もわかっている。なんか今日は良くないなと。普段しないようなことをしてしまっている。
だからといってどうしたら修正できるのかはわからない。
四人がなんともいえない雰囲気になってしまっているところで、ジェーンの耳がぴくりと動いた。
マルシャも軽く鼻を鳴らす。
「しっ……、何か来ます」
ジェーンが言うと同時に全員が散開する。通路の陰になっているところでマルシャが盾を構え、そのやや後ろにジェーン。もっと奥にルルカとゼクシアといういつもの布陣だ。
現れたのは数匹の妖魔だった。
瘴気の嫌な感触が立ち込める。妖魔たちは通路の先にいたルルカをまず見つけ、声をあげながら前進してくるが――。
「マルシャ!」
「は〜、いっ!」
罠の破城槌は天井からロープで吊られる形でまだ残っていた。マルシャがそれを抱えて上半身を思い切りひねると、通路から飛び出した妖魔たちには特大の薙ぎ払いになる。
妖魔たちが横殴りにされて態勢を崩すと同時にジェーンが飛び出した。手には魔導銃を構えている。
「《ファニング》」
槌をダメ押し横殴りに蹴って跳躍し、その最高点、一瞬静止した瞬間。息を止める。頬がぷくっと膨らむ。可愛いね。
でもまあ可愛いとかじゃなく、頂点で息を止めて照準がブレなくなった瞬間に弾丸を発射した。極めて合理的だ。
魔力が込められた弾丸が先頭にいた
ギャッというバグベアーの悲鳴。槌に塞がれて身動きがとれないところに弾丸が降り注ぎ、完全に混乱状態に陥った。こうなるともう――。
「《エアリアルスラッシュ》!!」
ルルカの風魔法で一網打尽だった。
魔導銃の射撃音と風魔法のうなりが遺跡内の空気と壁を切り裂いて、衝撃と突風が通路を反響していく。
(今の私、最高にかっこいい……!)
(†今のわたしと先輩、最高にかっこいい……†)
魔導銃と杖をかっこよく構えて自画自賛する二人だったが、観客はいない。
マルシャとゼクシアは端っこでノビていた。
破城槌で薙ぎ払った反動でマルシャは後方に飛んでしまい、ゼクシアと衝突して折り重なってそのままだった。ついでになんか別の罠も作動して二人の頭の上で丸ノコギリがウィンウィン鳴っている。
「ぜ、ゼクシアさん、マルシャ!」
ポーズをとっていてだいぶ発見が遅れたジェーンだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「いや〜、僕にもうちょっと体重か腕力があればよかったんですけどねぇ〜」
「っス……。私も今日はちょっとやっぱり……ダメみたいで」
更に進んだ先には妖魔達が野営していたと思われる場所があった。
寝床や焚き火の跡もある。
その周辺で四人はひとまず小休止をとっていた。
「もう……。予知夢もさ、私が斬りつけられるって本当なの? 実はゼクシアだったりしない?」
「自信なくなってきました」
「奥に進みますか?」
ジェーンの猫族の耳がぴくりと動く。まだあたりを微妙に警戒している。警戒の理由は、さっき妖魔の言葉で書かれた指令書を見つけたからだった。
――遺跡最深部に目的の魔具が眠っている、必ず回収せよ。
――新たなる妖魔の王の誕生の為に。
「……進むしかないでしょう」
ルルカの返答は早かった。
「妖魔の王どうのが真実かはともかく。こんな野営地まで用意してあるくらいだから、まだまだ増援の妖魔は来るんじゃないかしら」
「なるほど〜。もたもたしてると出られなくなりそうですね」
「幸いこの野営地はまだ作られたばかりに見えるから、ここより先に進んだ妖魔は少ないはず。さっさと魔具とやらを回収しておさらばしましょ」
「はい」とジェーンとマルシャが応答する。
ゼクシアも遅れて。
遅れて……。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………、はい」
「……まあ、その……。けっこう厄介な依頼を受けちゃったかなって私も思ってるわよ」
「はい」
「今度は返事速いわね!?」
「いえ、まあ、はい。納得はしてます」
こんな形になるとは思わなかったが、ゼクシアが望んでいたものが回ってきたのだ。
”悪運”が。
そのためにルルカについていくと決めたのだから。きっと行くしかない。神もそれをお望みでしょう。
四人は野営地の奥に進んでいく。
相変わらずの燐光を放つ壁と枯れた根。
神秘性と年季、まさに”水の時代”の遺跡の雰囲気だ。
「あ……、また罠です」
だがやたらと罠が多い。防人達は本気でこの先にあるものを守っていたのだろう。
罠の発見と解除はほとんどシーフのジェーン頼りで、たまにマルシャが盾とプロテクションで受けている。
「これは……スティンクボム、ですね。よし……解除。だけど、念のためマルシャ」
「はいはい」
マルシャが仕掛け床を踏むが何も起こらなかった。
「……ジェーンってけっこう鬼よね」
「効率はいいんじゃないですか」
ルルカとゼクシアはマルシャが踏んだあたりは避けて通り、何個目かの扉を抜ける。
そしてたどりついた先は広間。
「へえ……、遺跡の奥にこんな場所――、うえ!? すごい匂い――」
「……うわ」
「ワッ……アァ……ッ」
そこそこの神殿の大広間くらいはあろうかという空間、その至るところに妖魔の死体が転がっていた。
焼け焦げ、あるいは切り刻まれ、あるいは爆散したバグベアーやフォモールの死体、死体、死体、死体……。
「なにこれ!?」
「……野営地が必要になるわけですね」
もう明らかにトラップだらけの広間です。
ここを抜けないと魔具とやらは手に入らないのでしょう。
次回、『やっぱ死ぬかも』
風に呼ばれた冒険者 アリアンロッドRPG2E ぽろり @grporori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。風に呼ばれた冒険者 アリアンロッドRPG2Eの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます