第66話




 私が召喚されてから、1年が過ぎた。

 今まで不安定だった結界も完全に安定し、私じゃなくても聖魔法を持っている人が祈れば維持出来るようになった。

 結界の中の魔物も激減し、兵士達の仕事は魔物討伐から対人へと変わっていった。

 他国との戦争や、街の治安維持である。


 私の仕事も減り、やっとのんびり過ごす時間が取れるようになった。

 今はたまに来る、貴族の治療が主な仕事になっている。

 ほぼ無休で1年。

 ブラックも、ブラック。ベンタブラックか黒色無双かって位に真っ黒だったわよ。



 それでも1日中何も無いという日は無く、今日も今日とて、呼び出された。

 しかしいつもと違うのは、馬車に乗ってどこかの貴族家に行くのではなく、城の中へと連れて行かれた。

 通されたのは、真っ赤な絨毯が敷き詰められた部屋。

 部屋というか、これはホールだわ。


 部屋の奥には階段が数段あり、その上には玉座がある。

 映画とかで観た事のある謁見の間、という所かもしれない。

 玉座には1年前に1回だけ見掛けた国王が居て、玉座の横には王太子が立っている。

 そしてその王太子の横には、派手に着飾った女が居た。




「お前との婚約を破棄する!」

 王太子が叫んだ。

 正直言って好みでも何でもないし、どうぞご勝手に、という気分だった。

 王太子の横の女が得意げな、いわゆるドヤ顔をしてるけど、私から見ると単なる趣味の悪い無しの男などどうでも良い。

 能無しでは無い。脳無しだ。


「あぁ、解りました。では、ここを出て行きますね」

 クルリときびすを返し、部屋を出ようとした。

 元々荷物など殆ど無い。スーツと書類とUSBさえ有れば、もしも突然日本に戻ったとしても困らない。



 目の前に槍が交差して、行く手を阻まれた。


 は?

 驚いて思わず振り返ると、国王が玉座から立ち上がっていた。

「今まで聖女の仕事を放棄し、散々贅沢していたくせに、何を言っておる!」

 はぁ!?

 アンタこそ何を言っておる、だわ。


「王太子の婚約者だからと、ドレスに宝石にと買い漁り、毎日王都の有名店から菓子を届けさせて、贅沢な茶会をしていたそうでは無いか!」

 身に覚えの無い事を言われ、頭に血が上った。

「一切身に覚えが有りませんが」

 王太子を睨みつけながら言うと、奴はフフンと鼻で笑った。


「こちらには証人が居る!」

 そう言った王太子が指差した先には、あの侍女が居た。

 頭を深く下げていたが、間違い無いだろう。

おもてを上げ、正直に言うが良い!」

 王太子に言われ顔を上げた侍女は、私が仕事もせずに贅沢三昧な生活をし、使用人達を虐めていたと証言した。


「私はきちんと仕事をしていました。結界の強化維持をし、兵士の傷やここに居る人達の病気も治しました」

 当然、私は反論した。

 この広い部屋の中には、今までに治療した貴族や兵士もたくさん居たから、私の冤罪は晴れると思っていた。




「私は一度も聖女様を見掛けた事がございません」

 1番豪華な神父の服を着た男が言った。

 私が結界維持の祈りが終わると、いつもいつも「まだ魔力残ってますよね?」と、教会内での兵士の治療を命令してきたの、アンタだよね?


「我々も、お会いした事ありませんな」

 体格の良い男が言う。

 アンタ、利き腕を魔物に食いちぎられて、瀕死だったのを私に治療されて、泣いて喜んだよね?

 あの時「命の恩人です! 一生お守りします!」とか言ってたじゃない。


 それからも、不治の病だと言われていたのを治した貴族や、娘の火傷を治療した貴族も、皆、私を知らないと言った。

 誰一人、私には何もほどこされていないと。

 一度も治療など、受けていないと。


「これでハッキリしたな!」

 王太子が笑う。

「聖女として召喚されたのだから、贅沢した分は返して貰うぞ!」

 国王が声を張り上げる。

「お前は死ぬまで、この王国が滅びぬように我らの為に尽くすが良い!」

 国王の宣言に、堪忍袋の緒が切れた。




「勝手にびつけて、こき使っておいて、今まで何もしていない、だと!?」

 自分の声が、酷く低くなっているのに気が付いた。

 怨嗟えんさの声ってこういうのかもしれないわね。


「解ったわ。この王国の為に祈ってあげる」

 今度は明るい声が出た。

 私の豹変に、周りが戸惑っているのを感じるけど、気にしない。

「まずぅ、この王国は絶対に滅びないでしょうぅ」

 あの私を突き飛ばした、王太子ソックリの同僚がお気に入りだった女の、媚びを含んだ話し方を真似る。


「それからぁ、この部屋に居る貴族もぉ、絶対に血が途切れないのぉ」

 ウフフ、と笑う。

「直系以外は認めなぁい」

 その場でダンスをするように、クルリと回って見せた。


「もしもその条件が崩れたら、何回でもやり直してね」

 両手を大きく広げ、出来る限りの魔力を集める。

 自分のだけでなく、この部屋の中の人達、全ての魔力を。いや、この王国内全ての人の魔力を。


「ゲームみたいにぃ、記憶を持ったままリセットすればぁ、いつかは成功するでしょう?」

 ねえ? と王太子へと笑顔を向ける。

「でもゲームって、最初だけは何も知らないで始めないとぉ、面白くないもんね!」

 だから、今回の記憶だけは残さない。


 魔力を高めて炎へと変換する。

 青白い炎は、高温だからか、それとも聖なる魔力だからか。

 あぁ、もう、日本へは帰れないわね。



 さあ、王国の皆様。から、やり直してね。

 国名何だっけ。

 まぁ良いか、リセット王国で。

 私の命を掛けた、最後のよ。




『リセットします』




 終

───────────────

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回のコンセプトは、自分が特別だと思い込んだ人々が自滅する……です。


そして、リセット王国という名前に秘められた(笑)謎。

召喚聖女の最後の台詞

「ここにいる奴等の直系子孫は、呪われるだろう。ゲームのようにリセットを繰り返すと良いわ!」

の予定だったのですが、敢えて祝福としてみました。


あと、ヒーロー(ニコラウス)をヤンデレにしたかったのですが、私には難しすぎました。


いつもはざまぁその後が最後ですが、今回はリセットの理由を入れたかったので、ちょっと構成を変えました。

聖女様、書いていて楽しかったです(*^^*)

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あなただけが特別ではない 仲村 嘉高 @y_nakamura

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