第44話

 犬川ミサキにはネネが、鏡宮ヒナタにはマヤがついて動きの確認中。


「うむうむ、我が部員は順調に育っているようですなぁ~」

「誰だよ」

「どうも、部長です」


 一方でアズサはヒーラーなので何もすることがなく、ただ眺めているだけ。

 おかげで森本先生と即興コントを繰り広げている。


「現場を知らない典型的ダメ社長のムーブだな。

 水月、自分から仕事を見つけて動くようにならないと、将来苦労するぞ」

「そう言われても今私が出来ることってなんもないし」

「やれることならあるだろ。ほら、アレ」


 森本先生が目線で指し示したアレとは、妹可愛さにさっそく狂人モードに入っている王塚シキ。


「あーマヤ可愛い後輩に熱心に指導するマヤ可愛い世界一可愛い――」

「……触れたくない。わたしの汚物センサー反応してるし」

「汚物扱いはさすがにやめてやれ」


 そう言いつつ笑ってしまう森本先生。

 なお当人は既に自分の世界に入り込んでおり、アズサたちの会話など一文字たりとも耳に入っていない。

 そこにツバサが遅れてやってきた。


「校内での魔法の使用許可取れました」

「ご苦労竜崎君」

「誰の真似?」

「偉い人の真似」

「はいはい」


 さらっと流して、ツバサは魔法コンビに許可が取れたことを伝え、離れる。


「この後もしかしたら危険かもしれないから、魔法耐性の低い人は校内に入ってくださいね」

「えっ、乱射でもするの?」

「しない。けど鏡宮さんはカーバンクルだからね、魔法を反射してどこか変な場所に飛んでいったら大変でしょ?」

「納得。んじゃわたしも逃げておく」


 森本先生は当然として、アズサにネネ、犬川ミサキも避難。

 ツバサが改めて安全確認してから、マヤが鏡宮ヒナタに向けて水球の魔法を放つ。

 しかし水球は当たる直前に急に方向を変え、校舎に飛んで行き壁を濡らした。


「変な動きした!」

「あれが魔法反射。ボクも一応は出来るんだけど、そのまま握り潰したほうが早いからね」

「あーあ、これだからワイバーンはよー」


 ネネに睨まれにんまり笑顔のツバサ。

 魔法コンビはその後数発撃っては反射してを行い、満足したのを示すためアズサたちに手を振った。


「鏡宮さん、反射したあとのって制御出来てるの?」

「一応は……」

「ツバサは出来る?」

「無理。魔法反射魔法って、ただ反射して自分に当たらないようにするだけだから」

「じゃあ鏡宮さん魔法使う敵には無敵じゃん!」

「む、無敵とまでは……」


 褒められて恥ずかしがる鏡宮ヒナタ。

 一方、コンビの片方であるマヤは冷静。


「反射不可能な魔法って実は結構多い。例えば穴作って落っことすとか」

「あ、そっか。無効にするわけじゃないもんね」

「でも使い方次第ではめっちゃ強いのも事実」

「だよね。めっちゃ戦力だよね」

「うん」


 さらに照れる鏡宮ヒナタ。

 と、それを見て秘かに嫉妬心を抱く犬が一匹。


「戦力的には私のほうが役に立つはずです」

「対抗意識燃やしてきた」

「そういうつもりでは……あります」

「あはは! だよねー」


 とはいえ犬川ミサキの本来の武器は銃なので学校で使うわけにはいかない。


「それじゃー……うん。2人とも週末予定空けといて」

「おっ、実地研修か?」

「そーゆーこと。わたしたちだってそっちのほうが分かるし」

「そりゃそうだ。んで2人はいいのか?」

「私は構いません」

「ワタシは……服、とか……」

「とりあえずは動きやすい服装でいいよ。ジャージとか。それで1回潜ってみて、やれそうだったら本格的に服とかを揃えよう」

「わ、分かりました」


 これでひとまず予定は決まった。

 だがもう1人、忘れてはならない人物がいる。


「問題はお姉さんだよねー」

「だね。顧問だから戦闘には参加しないのか、普通に仲間として振舞うのか」

「アタシから見れば魔法使いはマヤとヒナタで十分だと思うけどな」

「うん。マヤも同意。というかシキはあんまり魔法上手くないし」

「え、マジ?」

「自分で言うのもなんですが、ワイトとしては下の下かなーと。アハハ……」

「おかげで両親の期待が全部マヤに来た」

「「「あ~」」」


 マヤがダンジョン嫌いになった真の理由が明らかになり、全員が納得。


「じゃあお姉さんは戦力として数えない方向で」

「はい。よろしくおねがいします」


 これで全員の同意を得たので、次にその準備に移る。


「鏡宮さんって初ダンジョンだよね? だったら帰還の腕輪の登録しないと」

「う、腕輪……初期費用……」


 そんな鏡宮ヒナタを見て、胸を張り腰に手を当て解説を始める犬川ミサキ。


「帰還の腕輪自体は千円ほどで購入できるので心配は無用だ。しかし初ダンジョンの場合は腕輪を国に登録する必要があり、これに時間がかかるのだ。

 私がそうだったのだが、個体数の少ない者が腕輪を登録する際には、各地方自治体の役所で確認が必要な場合もある」

「おぉ~さすがナントカってのを目指すだけはある」

「お褒めにあずかり光栄です」


 文字通り尻尾を振る犬川ミサキ。


「んでアズサの場合はモグルールに紐付けすんのが面倒だったんだよな」

「そうそう。モグルールでコア所有型専用の設定にするのに管理番号が必要なんだけど、その番号が分からなくて以下お役所仕事」

「それは私の知識にはありませんでした。勉強になります」


 犬川ミサキはこの工程を役所で一気にしたので、余計に時間がかかったのだ。


「デザイン気にしないなら帰りに買いに行ってもいいと思うよ。役所での確認はそのうちでも大丈夫だしさ」

「そ、そうですね。でもどこで買えば……」

「そいやアタシも買い換えたいんだよなー。適当に安いの選んだせいでメッキ剥がれてきてんの。つーことだから一緒に買いに行くか」

「えっ」

「半分出してやるからな? ってことで決定ー」

「えっ、えっ……」


 強引にそう決めてしまうネネ。

 その理由はネネも言ったとおりだが、他にも気弱な鏡宮ヒナタを守るためというのもある。

 そしてネネのそんな言動に気づかないアズサたちではなく。


「んじゃどうせだからみんなで見に行く?」

「そうだね。ボクも色々見たいし」

「マヤも賛成。あとシキの腕輪も仕入れなきゃだし」

「だ、だったら私も!」


 となり、結局は全員で買い物をしたのだった。




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放課後ダンジョン攻略部~亜人たちのダンジョン攻略記~ 塩谷歩 @673670

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