第43話
体験入部2人の謝罪合戦が収まり、次にそれぞれの能力を確認することに。
「私は先ほども言いましたが、銃を使います」
「魔力銃ってやつでいいの?」
「はい。それを3種類状況に応じて使い分けるようにしています」
銃は人間が生み出した兵器なので、ダンジョンの魔物たちには効かない。
しかし武器としては優秀なため、魔物にもダメージを与えられるように特殊な魔術的改造を施した銃がある。
それが魔力銃。
弾倉と銃身に加工を施し魔力を弾丸として使用するため、魔力さえあれば何発でも撃てる代物だ。
なお魔力を使う仕様上、魔力を持たない種族である人間には扱えない。
そしてダンジョン外では銃刀法に引っかかるため、自動的に封印されるようになっている。
「っていうことはダンジョン経験ありなんだ?」
「はい。モエレ沼ダンジョンを踏破済みで、現在は石狩ダンジョンの第三階層が最深階です」
「めっちゃ期待の新人じゃねーか」
「マヤたち既に抜かれてる」
「あはは、だね。わたしたちってまだ石狩ダンジョンに潜ったことないんだよ」
「そう……ですか」
顔には出さないが、尻尾が垂れる犬川ミサキ。
「不安にさせちゃったならごめんね。けどモエレ沼ダンジョンはわたしたちでも余裕だったからさ」
「それにボクたちの目的のためには、どうしても歩みが遅くなるんだよ」
「目的、ですか?」
「うん。わたしたちがダンジョン攻略部を立ち上げた目的は、エリクサーを手に入れるため。
わたしって薬を生成できる特殊体質のスライムなんだ。だからエリクサーを生成できるようになれば、すごいことになるんじゃないかってね」
「確かにそうなればすごいですけど……でもダンジョン内で手に入る薬は外には出せませんよ?」
「そこは実際に見てもらえれば分かるよ」
百聞は一見に如かず。
アズサは初級ポーション、解毒薬、中級ポーションの3種類を試験管に入れて、「どれ飲む?」と新入り3人に提示。
味を知っている犬川ミサキは真っ先に中級ポーションを、ダンジョンに潜った経験のある王塚シキは迷った末に初級ポーションを、未経験者の鏡宮ヒナタは残った解毒薬を手に取り、3人「せーの」でグイッと行く。
そして――。
「こ、これ……味が……」
「辛いッ!? 水、水!」
「……ワタシのは美味しい、です」
「「えっ!?」」
「ひっ……」
膝から崩れ落ちる犬川ミサキに、涙目で水ではなくお湯を飲む王塚シキ、そして2人の視線が同時に来て怖がる鏡宮ヒナタ。
そしてアズサはそのリアクションに大満足。
「わたしって自分で色々混ぜて味も効果も変えられるんだよ。
だから今回は解毒薬の味がする中級ポーションと、激辛初級ポーションと、リンゴ味の解毒薬を用意したんだ。
見事に引っかかったねー」
「しかもポーションを塗り薬にもできるもんな」
「それは極秘なやつ」
「……お前ら何も聞いてねーよなぁ!?」
「「「はいっ!」」」
王塚シキも一緒になって良い返事。
既にヒエラルキーは決している。
「じゃあ話を戻すけど、犬川さんがうちに入ろうと思ったのはなんで?」
「はい。私は将来的に【
「でぃーすりーえー?」
首を傾げたアズサに、マヤが説明。
「ダンジョンアテンダントエージェント&アシスタントの略。プロの攻略者とは別で、国際資格が必要なダンジョンの専門家にして案内人。
日本だと3人くらいしかいないはず。おかげで知名度ゼロ」
「へー。だったらこっちじゃなくてあっちのほうが正解だったんじゃない?」
「いえ、あちらはなんというか……」
言いよどむ犬川ミサキ。代わりに森本先生が説明。
「あっちは氷山先生の目標設定にみんな反発して空中分解寸前」
「え、昨日の今日だよ? 早すぎない?」
「……教師がこういうことを言っちゃいけないんだが、あっちは色ボケ共の巣窟だ。
そんな奴ら相手に氷山先生がクソ真面目に、しかもいきなり石狩ダンジョンから始めるだなんて言い始めたもんでな」
「地獄じゃん……」
「ですので、私はこちらを選択しました」
全員が犬川ミサキがアズサたちのダンジョン攻略部を選んだ理由を即座に理解。
そして見るからに気弱な鏡宮ヒナタがアズサたちを選択したのも同様の理由であり、昨日2人が一緒に行動していた理由でもある。
「それじゃあ鏡宮さんは……自分を変えたいからだっけ。武器はどうするの?」
「ワ、ワタシ、ダンジョンも初めてなので、何もわからなくて……ごめんなさい」
「謝らなくてもいいよ。マヤ、調べてもらえる?」
「らじゃー」
マヤが自前のノートパソコンで検索開始。
しかし結果が出る前に鏡宮ヒナタが「あの……」と。
「た、たぶんなんですけど、ないと思います。情報。
その……日本にいるカーバンクル、ワタシだけなので……」
「「「えっ……」」」
「……何も出ないから、たぶんそれマジの話」
「激レアどころの話じゃなかった!」
幻獣種はそもそもの数が少なく、カーバンクルに限定すれば世界全体でも10人を超えない。
そのうちの1人が、鏡宮ヒナタなのだ。
ちなみに日本は何故か幻獣種が多く住む国であり、世界的にはむしろ幻獣種のいない国のほうがはるかに多い。
例えばヨーロッパ全体で見ても、幻獣種のいる国はイギリス、オーストリア、ハンガリーの3か国に各1名ずつだけである。
「じゃ、じゃあ……なんかほかの何かでなんかない?」
「アズサの知識にないカーバンクルといえば、魔法の反射だね」
「あとはぷよぷよしたものを積んで消したりもするか? どっちにしろ魔法特化型だろうな」
「だったらマヤに任せたほうがいいかも?」
「任された」
「よ、よろしくおねがいします」
後輩が出来てちょっぴり嬉しそうなマヤ。そんなマヤを見てヨダレを垂らしているシキは森本先生にツッコミを食らっている。
「とはいえ今からダンジョンに行くわけにもいかないし……」
「ボクたちだけで用意できるものって言ったら、素振りか練習試合くらいだね」
「じゃあ中庭で素振りしてみようか。
あ、そこら辺にあるのは自由に使っていいからね。展示が終わったら売るつもりだったし」
「初期投資がたけーんだよなぁ。そっちの……ヒナタだっけ? 入部すんならそれなりに金かかると思ってな」
「は、はい」
ということでいくつか武器を見繕って、まだ日陰に雪山の残る中庭へ。
「まだまだ寒いなぁ。っていうか、わたしの知らない武器があるんだけど」
「アズサの冬眠期間中にアタシらだけでモエレ沼ダンジョン行ってたからな」
「……泣こうか?」
「仲間外れにしてたわけじゃねーよ。新入部員勧誘の展示で必要だから行ったんだ」
「なら納得」
アズサたちは主に保管場所の関係でダンジョンで手に入れた武器防具はほとんど売っている。
おかげで展示できるような装備がなかったので、アズサを抜いた3人で何度かモエレ沼ダンジョンに潜り、装備を手に入れていたのだ。
「それじゃあ素振りしていこー」
「アズサもね」
「えー」
こうしてダンジョン攻略部の体験入部が始まった。
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