第42話

 入学式翌日にして、部員勧誘の本番。

 大きな部活は体育館で新1年生に直接部活紹介が出来るのだが、ダンジョン攻略部は渡り廊下に展示のみ。

 そのためツバサとマヤは偵察に行き、アズサとネネは留守番中で、しばらく暇な時間が続いている。


「……なあ」

「ダメ。どうせ武器持って体育館に乱入しようって言うんでしょ?」

「バレたか」


 アズサにあっさり看破され、舌を出しておどけるネネ。


「それやったら一発で廃部だよ」

「……だな。っとお客だ」


 やってきたのは男子3人組。

 制服の襟にある校章の色で、1年生だと分かる。


「すんません、ダンジョン攻略部って2つあるんすけど、どっちがどっちなんですか?」

「アタシらが先で、っても去年作ったばっかりなんだけどな。んでもう1個はついこの前アタシらに嫉妬した教師が作ったんだよ」

「えーっと……?」


 ネネの分かりにくい説明に、首をかしげる男子たち。


「ネネはこういう説明下手だよね」

「うっせ」

「んでこの2つだけど、男子と女子って思ってもらっていいよ。ホントは違うんだけど、ちょっと事情があってね」

「事情って……聞いても大丈夫ですか?」

「うん。こっちの部員に男性恐怖症の子がいるんだよ」

「あー分かりました。それじゃ失礼しました」


 礼儀正しく頭を下げて帰っていく男子たち。


「……マヤにはぜってー言うなよ」

「言うわけないじゃん」


 それからさらにしばらく。

 偵察から帰ってきたツバサとネネの第一声は「しょぼ」だった。


「展示できるだけでも御の字だと思わないとだよ。それで、他は盛況だった?」

「1年生からやり直したくなるくらいにはね。こっちは?」

「今のところゼロ。もりもっちのコーヒーメーカー持ってきたほうが人が来るかも」

「飲食物は料理研究部以外禁止」


 マヤに真面目に突っ込まれ、笑ってしまう一同。


「で、どうする? もりもっちは早めに引き上げてもいいって言ってたけど」

「時間的に、もう期待できないし……うん、終わっちゃおう。刃のある武器だけ部室に戻して、あとは一応明日まで置いておく感じで」


 というアズサの指示により撤収。ダンジョン攻略部の新入部員勧誘は大失敗に終わった。

 ――が、アズサたちが下校後。


「ダンジョン攻略部……こちらが本物か。紛らわしい。だが誰もいないぞ」

「か、帰っちゃったみたい、ですね……」

「むう……仕方がない、今日は諦めよう。君はどうする?」

「そ、それじゃあワタシも……」


 タッチの差でこの機会を逃すアズサたちだった。


 翌日、放課後。

 結局入部届の紙は1枚も減らず、敗北感に包まれる部室。


「ぜってーあっちのせいだろこれ……」

「ぶっちゃけめっちゃ腹立ってるよわたし」

「アズサを怒らせたら怖い」

「あっちの部室近いうちポーションまみれにされるだろうね」

「マジでやりたい」


 そんな恨み節とともにため息をついていると、森本先生に連れられて3人やってきた。

 1人は王塚シキで、残り2人は1年生。

 荒んでいた4人が一瞬で姿勢を正し歓迎ムードへ。


「えっ、いると思ってなかった!」

「どっちも体験入部らしいけどな。だが2人の前にまずは」


 森本先生に目線で指示をされ、まずは王塚シキから。


「副顧問を務めさせていただきます、王塚シキです。種族はワイト。よろしくお願いします」

「真面目な挨拶だ……」

「親父に小一時間怒られてたから」

「ついでに私からもきっちり言わせてもらったからな」

「はい……」


 タガが外れる可能性は高いが森本先生の目がある以上は大丈夫そうなので、アズサたちもまずは一安心。

 そして次に体験入部の2人。

 雰囲気で、先にしっかりしていそうな方から。


「私は1年B組の犬川いぬかわミサキです。種族はケルベロスで武器は銃を使います。よろしくお願いします」


 ケルベロスは犬系亜人の副将級。

 地獄の番犬であり三つ首の姿でおなじみだが、亜人化後は当然頭は1つだけ。

 しかし三つ首の有用性が全く失われたかというとそうではなく、亜人ケルベロスは3つの事柄を並列思考できる。

 身体能力自体は他の犬系種族と大差ないのだが、この特性が強力なため副将級の座についている。

 なお大将級にはフェンリルもいるが、ケルベロスとフェンリルとの差はスライムとワイバーン以上に大きい。


 犬川ミサキはドーベルマンのようなピンと立った犬耳に、モフモフの尻尾を持つ。

 髪色は黒で、ミドルの外はね癖毛。人の位置に耳がなく、その違和感を隠すためにもみあげは長め。

 顔は目鼻立ちくっきり系で、つり目気味のジト目気味。

 口調はお堅い委員長だが、実際にどうなのかはまだ分からない。


「ケルベロスって初めてかも!」

「かなりのレア種族だからね。ちなみに犬川さんって関西弁だったりしない?」

「いえ、我が家は三代前から北海道です」

「カード集めてる友人は?」

「いえ。魔法少女も錬金術師もいません」

「わたしが分からない話だ!」

「アタシは分かる」


 ケルベロスは北海道全体で見てもスライム以上に数が少なくレアな存在で、かつアニメなどで有名なケルベロスがいるため、アズサたちもテンションが上がってしまった。

 と、そこで森本先生が咳払いをして次に行けと無言の圧。


「じゃあ次の人、どうぞ」

「は、はい……。ワタシは1年C組の鏡宮かがみやヒナタ……です」

「……種族は?」

「あっ、ご、ごめんなさい。種族はカーバンクルです。額の魔石が……」


 恥ずかしそうに髪をかき上げる鏡宮ヒナタ。

 その額にはルビーのように真っ赤な魔石が埋まっている。


「ほ、本物だ! 本物の幻獣種だ!」

「なんだこの激レアコンビ!? アタシの存在が霞むぞ!」

「ワイバーンのボクでも霞むから安心して」

「ワイトもそう思います」

「うちのマヤ可愛い……あ」


 早速やらかし、マヤに睨まれるシキ。


 カーバンクルは亜人全体で見ても特に珍しい、幻獣種のひとつ。

 種族的特徴としてまず上がるのが額にある赤い魔石で、次にその魔石に負けないほど真っ赤に輝く瞳が目立つ。

 鏡宮ヒナタはそこに淡い緑色の髪と垂れ目をしており、言動の全てから気弱な性格がにじみ出ている。

 そんな鏡宮ヒナタに最初にツッコミを入れたのは、隣にいる犬川ミサキ。


「何故ここに入ろうと思ったのやら……」

「ご、ごめんなさい……」

「あ、いえ! 謝らなくてもいいですよ! そういうつもりで言ったわけじゃないですし、だから、だから……ごめんなさい!」


 言葉不足が祟って謝らせてしまったことに犬川ミサキは大慌て。

 そこからしばらく謝罪合戦が行われるのだった。





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