第41話

 入学式当日。

 アズサとツバサ、そして他の部活関係者は新入部員勧誘の準備のため登校。

 なお今日は準備だけなので、ネネとマヤは自宅待機。


「まずは職員室に顔出すんだっけ」

「うん。……ってこれ!」

「もりもっちも言ってたけど、中々な問題児みたいだね……」


 アズサが見つけたのは、昨日貼ったダンジョン攻略部の勧誘ポスターの真横にある、倍以上のサイズがある『来たれ!! 男子ダンジョン攻略部!!』というド派手ポスター。

 さすがに剥がすわけにもいかないので、まずは森本先生に報告をすることに。


「また校長先生に怒ってもらわないといけないな……」

「あの時の校長先生めっちゃ怖かったよね」

「あれでボクは校長先生の正体が分かったよ」

「言うなよ?」


 森本先生の慎重な表情に、強く頷くツバサ。


「分かってます。じゃないと――」

「じゃないと?」

「「うわ出たっ!!」」


 2人の後ろから声をかけ驚かせ、大笑いする校長先生。


「ポスターの件は把握してるよ。とはいえ今更剥がすわけにもいかないからあのままだけどね」

「狙ってやってそうだ」

「だろうね。それじゃあ君たちも準備に入ってね」

「「はい」」


 準備のため職員室を後にして部室へと向かう2人。

 しかしアズサは別のところに興味が行っている。


「で、正体って?」


 わくわく顔でそう聞いてくるアズサに、ツバサは大きなため息で返す。


「知らないほうがいいよ。さっきので確信が持てたせいで今まで通りに出来る自信がなくなったから」

「……うん、もう聞かない」


 副将級の筆頭であるワイバーンが怖がる相手となれば、大将級しかない。

 しかも並の大将級ではワイバーンを恐怖させるには至らない。

 となれば選択肢は非常に狭い範囲に限られる。


 それはそれとして準備開始。

 部室からテーブルを出して所定の場所に置き、その上に武器や防具を並べていく。

 ツバサが家からアイテムボックスを持ってきているので、ネネの鉄骨バットなど重量物であっても移動自体にはそれほど苦労しない。


「人来ると思う?」

「一応ポスターに展示場所を書いてあるけど、隣のバカのせいで期待は出来ないね」

「これで新人が1人も来なかったら訴えてもいいと思う」

「校長先生にね」


 展示自体に苦労はしないが、しかし展示場所が渡り廊下の途中というあまり良くない場所なため、アズサたちの期待度は低い。


「……訴えると言えば、アズサのお兄さんの話はどうなってるの?」

「段ボールは届き始めてて、引っ越し自体はゴールデンウィーク前に済ませるつもりだって」

「じゃあ本当にすぐだね」

「うん。……緊張してきた」

「え、今?」


 思わず笑うツバサ。

 と、そんな2人の元に見知らぬ女性がやってきた。


「あの、ダンジョン攻略部の部員さんたちでしょうか?」

「はい。そうですけど」

「じゃあ王塚マヤは知っていますよね?」

「……はい。知ってますけど」


 マヤを知っている人物というだけで、アズサたちの警戒度が跳ね上がる。

 その時ツバサが「あっ!」と声を上げた。


「もしかして、マヤのお姉さんですか?」

「えっ、例の!?」

「……そうです。例の姉です」


 アズサの失言にむしろ小さくなるマヤの姉、王塚シキ。

 王塚シキは気弱で幸薄そうな見た目をしており、髪色はマヤと同じくくすんだ銀色で、腰まであるロングのストレート。

 そしてマヤは身長138センチとかなり小柄だが、シキも150センチほどと小柄である。


「わたしは初めましてだけど、ツバサは違うの?」

「正月にマヤを迎えに行ったときにちらっとだけ。けどなんでここに?」

「あ、私今年からこちらで教師として採用されまして」

「マヤに電話して逃げてって言いますね」

「うっ……」


 アズサにいじられさらに小さくなるシキに、違和感を覚えるツバサ。


「あの時とずいぶんと雰囲気が違いますけど?」

「さすがに人前では節度を持ちますよ。……たぶん」

「「たぶん」」


 不安な言葉に本当にスマホを取り出しマヤに電話するアズサ。


「……あ、マヤ? 自称お姉さんが来てるんだけど」

『ダンジョン部の顧問やれって言っといた』

「えっ!?」

『近くに置いとかないと何やらかすか分からない。それにマヤたちにも悪い話じゃないから』

「あー……そういうことね」


 アズサたちダンジョン攻略部には、ひとつどうしても拭えない問題があった。

 それは顧問が亜人ではないということ。

 顧問がダンジョン内までついて来られないため、モエレ沼ダンジョンでは悪質ナンパ師に目を付けられそうになり、アズサの機転で逃げたこともある。

 この問題は今後部員が増えればより顕著に表れるはず。

 そう考えれば、顔見知りが顧問としてダンジョン内までついて来てくれるというのは、自身に降りかかる大迷惑を差し引いてもプラスになる。

 と、マヤは考えたのだ。


「でもマヤはいいの?」

『背に腹は代えられない』

「……そっか。じゃあわたしからは何も言わない」

『うん。じゃ、準備頑張れー』

「はーい」


 マヤの覚悟をしっかり受け止め、部長として背筋を伸ばすアズサ。


「話は聞きましたけど……本当に大丈夫なんですか?」

「はい! 誠心誠意努めさせていただく所存です!」


 絶妙に怪しいその言葉に、アズサもツバサの疑心暗鬼。

 なのでシキには聞かれないように耳打ちでヒソヒソ。


「ねえツバサ、顧問2人体制って許されると思う?」

「正直ボクも不安だけど……副顧問なら通るかもね」

「じゃあその手で行こう」


 相談を終え、改めてシキと正面で向かい合うアズサ。


「副顧問という形でならば受け入れます」

「はいっ! お願いしますっ!

 ……これでいつでもどこでもマヤちんと一緒に……うひひ……」

「めっちゃ聞こえてますけど」

「あっ……つ、つい本音が……」


 大きくため息をついて呆れるアズサとツバサ。

 と、その時。


『シキ、聞こえてるぞ』

「ぱ、パパ!?」

「電話繋いだままなんだよねー。ってことでシキさん、帰宅したら改めて怒られてください」

「はい……」


 危機回避に係る機転の速さでアズサの右に出る者はいない。

 アズサはシキがぼろを出すと読んで、電話を切らずスピーカーに切り替えていた。

 そしてこれに気づいたマヤも、アズサの考えを察し両親とともに事の行方を見守っていたのだ。


「それじゃあマヤ、本当に切るね」

『おっけー』


 アズサが電話を切れば、シキは「反省します……」と一言残し、入学式の準備に戻っていくのだった。




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