新入部員!

第40話

 4月。

 道民にとって春を実感するものといえば桜……ではなく、家に侵入する虫と路肩の泥色の雪、そして国道ではしゃぐ暴走族。

 風情の欠片もない組み合わせだが、それでも日ごとに雪山のカサが減っていけば心も晴れやかになるというもの。

 ただし、もしゴールデンウィークを利用して北海道旅行を計画する人は、決して峠道には近づいてはならない。

 北海道では5月であろうと山間部では雪が降ることがあり、特に釧路や知床などの道東方面に行く場合は、天候次第では予定変更も視野に入れるべきである。


 そんな4月、アズサたちは高校2年生へと進級。

 と同時に旧校舎から脱出し、一般的な鉄筋コンクリート製の新校舎へと移動。


「あっ……たか~い」

「心の底から声が出たね」

「そりゃーそうでしょ!」

「はいはい。そういえばクラス替えでもみんな同じみたいだね」

「でもネネもマヤもまだ来てない?」

「迷ってるのかもーって言ってたら来た」


 ネネとマヤも仲良く揃って新しい教室に到着し、先に教卓で自分の席を確認。

 そして仲良く揃ってアズサたちの元へ。


「アタシら固まってんな」

「問題児扱い」

「あはは、かもね」


 真相はともかく、これはこれでありがたいアズサたち。

 なお今年も担任は森本先生であり、2年から3年はクラス替えがないため、卒業までの長い付き合いが確定している。


 始業式を終え、教室でのホームルームを終え放課後へ。

 4人はまずは部室へ。


「ちょい近くなったな」

「階段の分を考えると遠くなってる気もするけど」

「さぶっ……」

「「「あ」」」


 部室は特別教室の並ぶ棟の1階階段下。

 そのため普段から暖房が入っておらず外と気温がそれほど変わらないため、寒さに弱いアズサはみるみる顔色が悪くなっていく。

 なのでツバサが大急ぎで電気ストーブを付け、ネネが定位置にアズサを運び、マヤが着るホットカーペットに魔力を送って温度を調節。


「ご迷惑をおかけしております」

「ゴールデンウィーク明けまではこんな調子が続きそうだね」

「ま、アタシらもとっくに慣れっこっつーか、コンビネーション鍛えられてるっつーかだからな」

「すさまじく複雑な気持ち……」


 アズサの一言に笑いあったところで森本先生もやってきて、いつものようにコーヒーを淹れる。


「扱いが自分の部屋だな……」

「そういえばいつの間にかコーヒーメーカー増えてる」

「私の自腹で買ったけど、お前らも使っていいぞー」


 呆れ顔の一同。

 と、ドアが開いてさらにもう1人、校長先生もやってきた。


「揃ってるね。部員勧誘の件だけど、ポーションの提供はNGにさせてもらうよ。

 さすがにそれで何かがあっても学校では責任が持てないからね」

「分かりました。じゃあわたしたちはポスターと武器類の展示だけにします」

「うん、そうしてもらえるとありがたい。……コーヒーもらえる?」

「どうぞどうぞー」


 アズサたちは新入部員の勧誘に、ダンジョンで拾った武器防具類の展示とポーションの試飲を考えていた。

 しかしポーションは安全性が科学的に証明されていないため、学校側としては却下せざるを得ないのだ。


 校長先生はコーヒーを飲み干すと見回りに戻り、アズサたちは部員勧誘のポスター制作を開始。

 そうしていると、ドアがガタガタと揺れた。

 地震でもないのにとツバサが扉を開けてみると、そこには男性教師が1人と、気まずそうな男子生徒が1人。

 男性教師の手の先にあるのは、ダンジョン攻略部のドアプレート。


「泥棒!」


 ツバサの言葉で即座にドアを蹴り開け男性教師を弾き飛ばすネネと、魔法の発射体制に入るマヤ。

 そしてツバサが男性教師を取り押さえ、男子生徒はため息をついて手を挙げ降参ポーズ。


「まさかプレートを盗もうとする教師がいるとはね」

「ち、違う! 僕はただこのプレートを正しくある場所に戻そうとしただけだ!」

「はいはい言い訳は署で聞くぞー」

「だから違うって言ってるだろう!」


 そんなやり取りが終わらないうちに、森本先生も部室から顔を出す。


「あれ、氷山こおりやま先生じゃないですか。竜崎大丈夫だ、手を放せ」

「……分かりました」


 手を放し、改めてこの男性教師、氷山に話を聞く。

 氷山は30代の、名前の通りフロストゴーレム。

 雪のように青白い髪と、いかにも神経質そうな目と、そしてフレームのないタイプの眼鏡をかけている。ちなみに触っても冷たくはない。


「んで? なんでプレート盗もうとしたんだ?」

「これだから不良生徒は……」

「あん!?」

「まあまあネネ落ち着いて」


 しかしこれだけでも、少なくとも氷山は敵であると認識する部員一同。


「……もりもっち、こいつ本当に教師か?」

「去年まで3年の担任だったフロストゴーレムで、ちゃんとした教師だよ。

 氷山先生、これはなんの真似ですか?」


 氷山は、ドアに半分隠れているマヤを指さした。おかげでマヤは部室に引っ込む。


「あの生徒は男性恐怖症なんだろう? だったらダンジョン攻略部に男子生徒を入れるわけにはいかないだろう。だから僕が改めてダンジョン攻略部を復活させ、男子生徒を引き入れてやろうとしているんだ」

「じゃあこっちは?」

「そんなの僕の知ったことじゃない。どうせ女子ばかりなのだから女子ダンジョン部とでも改名すれば済む話だろう。

 ともかくプレートは頂いていく。これは善意の行動だ」

「一方的過ぎて頭痛がしてきた……」


 アズサの言葉に氷山以外、巻き込まれている男子生徒すらも頭を抱えてため息をついている。

 氷山は改めてプレートを奪おうとして、それをツバサとネネでガードする。


「さすがにそれでハイそうですかとは行きませんよ」

「100人に聞いたら100人があんたのほうが間違いだって言う話だからな」

「なぜ僕の善行が理解できない? まったく頭の固い生徒たちだ」

「鏡見ろ鏡!」


 そんなやり取りをしていると、「頭が固いのは氷山先生のほうですよ」という言葉とともに、異様なほどの威圧感が階段を下りてきた。

 その威圧感にアズサたちはもとより氷山も全身から脂汗が噴出し、身じろぎも出来なくなる。

 威圧感の正体は校長先生。

 普段とはまるで別人の鋭い眼光を氷山に向け、有無を言わせない。


「氷山先生、これで何度目ですか?」

「………………」

「プレート、戻してください」

「…………はい」


 校長先生に怒られ、素直にプレートを戻す氷山。

 そして校長先生に連れられ、静かに去っていった。


「……なんだったんだ」

「氷山先生は教師の間でも話になるくらいには性格に難があってね……。ともかくあとはこっちでやっておくからお前らが気にする話じゃないよ」

「うん。……ところであなたは何故ここに?」


 アズサに話を振られた男子生徒は「いや、なんというか……」とバツが悪そう。


「クラス替えで昔の友達と一緒になったんで、ダンジョン行ってみるかって話してたんですよ。

 したらいきなりあの先生に『来い』って言われて、なんかやらかしたかと思ってたら……」

「ここに来たと」

「そうです。だから俺も何が何だかって感じで」

「……アタシらが止めてなかったら無理やり部長にされてたな、これ」

「俺もそう思います。だからその……助かりました」


 その後男子生徒は律義にお辞儀をしてから帰り、森本先生も職員室へ。

 残された4人は唖然としつつも部室に戻り、作業を再開するのだった。




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