第39話

『今日からさっぽろ雪まつりに向けて、雪の搬入が始まりました』


 そんなニュースが流れるリビングで、アズサはノートパソコンを開き準備をしている。


「アズサ、部屋でやったら?」

「ダメ。部屋でやったら絶対怠ける。わたしのことはわたしが一番分かってるもん」


 一方学校では。


「こっちの準備は完了。あとはアズサたちが成功するだけ」

「まさかスムーズ使って遠隔授業とはな」


 スムーズとはいわゆるビデオコミュニケーションソフト。

 マヤの提案で、パソコンで授業を映しアズサなど冬眠申請を出しているクラスメイトに向けて、ネット中継での遠隔授業を試みることになったのだ。

 接続者数は1年生全体で11人。今日がうまく行き次第、2年生や3年生にも導入する予定となっている。


「お、みんな入ってきたな。聞こえてるやつは手を振れー」


 森本先生の指示に、現在映っている11人中10人が手を振る。

 唯一手を振れていないのは、肝心のアズサ。


「えーっと。アズサ、ミュート解除して……と」

「……慌ててんなー。アズサのやつどこでミュート解除すんのか分かってねーんじゃねーの?」

『――れかな? あ。あ。んー??』

「メイン1のミュートを解除」

『メイン1の……これ?』

「アズサ聞こえる?」

『あ! 聞こえた! おっけーおっけー!』

「んじゃ自分のマイクはミュートにしてね。今の会話全員に聞こえてるから」

『マジ!? うっわ、はずっ!!』


 クラスはもとより他の参加者も大笑い。アズサはしばらく赤面が抜けなかった。

 ちなみにこの試みは生徒だけではなく親の受けもよく、今後も続けられることとなった。


 それから1か月ほどでさっぽろ雪祭りがスタート。

 今年はほどよい寒さで、また巨大雪像は人気アニメがモチーフのため来場者数も多いとの話。

 ただ街の交通機関のほぼすべてが激混みする要因なので、札幌市民としては複雑な心境になる期間でもある。


 そんな雪まつりが閉会し雪像の解体が始まると、アズサたち冬眠申請者も登校を再開する。

 だが寒さはちょうどこの時期が本番。

 アズサは当然超絶厚着の第三形態だが、ほかの生徒もそれぞれ寒さ対策をしての授業である。


「約2か月ぶりに全員の顔が揃ったな。

 いいかよく聞け。今年から遠隔授業がうまく行っていたかを推し量る小テストを実施することになった。

 出題範囲は3学期開始から1か月。

 全員問題なく点数を取れると信じてるからな。分かったか、水月」


 不安そうな表情でコクリと頷くアズサに、ため息をもらす森本先生。


 冬眠申請を出した者は休み明けに、放課後に土日も使っての補習授業を受ける。

 勉強嫌いのアズサは特にこの補習授業を苦手としており、余計に勉強嫌いになるという悪循環に陥っている。

 しかし今年は前出のように遠隔授業が実施されたため、アズサも暖かい家の中でしっかり授業を受けられた。

 このため今年から補習授業前に冬眠申請者に対してテストを行い、その成績を見て補習授業を行うかを協議することになったのだ。


 そんな小テストだが。


(え、わたしのくせに結構解けてる。こわ)


 アズサは自身が思った以上にペンが進み、一周回って怖くなるのだった。


 その日の放課後、部室にて。


「今のところだが、水月は無事だ」

「本人も手ごたえあったみたいですからね」

「11月のテストじゃ全教科赤点だったやつが、こうも変わるもんかねぇ……」


 ネネの疑惑の視線にピースサインで答えるアズサ。


「水月ことはともかく、そろそろ新入部員の勧誘方法考えておけよ」

「あーそれはもう決まってる。まずアタシの武器展示。持てる奴は持ってみろって感じでな」

「ダンジョンで手に入れた装備の展示もだね。剣とかは振り回せないようにするから安心して」

「そしてアズサのポーション試飲会」

「……売るなよ? 犯罪だからな」

「それくらい分かってますって」


 ツバサのの軽い口調に「不安だ」と漏らす森本先生。


「あーそれでひとつ相談があるんだった。

 マヤのことだけどよ、男子生徒が入りたいって来たらどうする?」


 ネネの質問に、マヤが目線を落とす。

 しかし――。


「わがままは……言わない……。

 マヤだって、逃げたくない。だから……大丈夫……」


 強く拳を握り、振り絞るように出した決意。

 その言葉に、アズサがマヤに抱き着く。そしてネネもツバサも。


「わたしたちが守るから」

「女の友情をナメてもらっちゃ困るよね」

「そうそう。大丈夫、アタシが縄つけてやるから安心しな」

「…………」


 だがマヤは首を振る。


「そうじゃない。これはうちが頑張んなきゃダメなこと。みんなの気持ちはうれしいけど、違うんよ」


 マヤの精いっぱいの言葉に、より強くマヤを抱きしめる3人。

 そして。


「分かった。じゃあわたしたちは応援する」

「盾になるんじゃなくて、後押ししよう」

「だとしても縄はつけといてやる」


 そんな4人を眺めながら「青春だねぇ」としみじみと言いつつコーヒーを飲む森本先生だった、


 ちなみに。


「さっきのマヤ、普段と違う口調だったよね」

「一人称もうちって言ってたしな」

「き、聞かなかったことに……」


 決意表明よりも、よほど口調のほうが恥ずかしいマヤなのだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る