第2話
☆☆☆
風呂から出るとまた父親がテレビにかじりついていた。
「また駅伝?」
「ああ。今いいトコロなんだ。ついにシード権内に来たぞ」
父親の応援している学校がシード権を獲得できそうな位置にいる。
「私の学校は?」
「失速して今は最下位のグループにいるよ」
「そんな。強豪なはずなのに」
「今年はどこの学校も頑張っているからな。強豪だからって胡坐をかいていると足元をすくわれるんだ」
「そ、そんな」
興味はないはずだったが、最下位付近にいると知ると悲しいものだ。
「今何位? 最下位争いしてるじゃん。ガンバレ」
できることならずっとテレビの前に居たいけれど、飼い犬を清潔に保つことが先決だ。
「お母さん、今度はチビがお風呂」
「あらあら。そうなのね。じゃ、お風呂のついでに爪切りもお願いね」
「あ、はーい」
母親が1番大人しく切られてくれるのだが、よく世話をしているのが陽子なものだからしっかりと世話をする必要がある。
「爪切りもだって。暴れないでね」
「ワン」
今日のチビはお気に入りの散歩ルートで出来たからご機嫌だ。
適温にして洗ってあげる。気持ちよさそうだ。
「いい感じの温度みたいね」
飼い犬は反抗するでもなく大人しく表れてくれる。
「よし、これでおしまい。ちゃんと秒で乾かすから大人しくしててよね」
次はドライヤーに移りたいが、ドライヤ-の音が嫌いらしい。
「時間かかるんだよな。タオルの乾燥って」
もう今日は部屋の掃除はあきらめて犬を綺麗にピカピカにしてしまおうかと考える。
「よし、乾いたらダニとか害虫駆除のお薬もやっちゃおうね」
少し吠えられたもののしっかりと乾かせた。
「爪切らせてね」
爪切りを持ち出したら、ワンワンワンと激しく吠えるし逃げ始める。
「チビ〜。ステイだよー」
促してみても逃げ回るチビ。
「おい。うるさいぞ。今いいトコロなんだから。チビ静かにしてくれよ」
父は言いに来ただけらしくまた戻ってしまった。
「まったく。まだ見てるなんて暇しているな」
「さぁ、チビ、痛くしないし、怖くもないからこっちおいで」
「ウゥー」
やはりうなっている。人間の嘘はきちんと見抜けるいい子である。
「後で好きな食べ物選んでいいから、爪切らせて、お願い」
手を合わせて頼むと右前足をポムと出してきた。まだ唸っているが、切っていいらしい。お願いを聞き入れてもくれるいい子である。
「いい子だね。あと少し頑張ろうね」
うなり時に顔をゆがませながらも逃げ出さないあたり辛抱強い子である。
「あとはお薬を注射で終わり。もう少しだから」
「クゥーン」
問題なく終わった。かわいい子なのである。
「さぁ、何がいいかしらね」
お気に入りのお菓子をピシッと指し示す。
「フフ。かしこまりました。お皿に移すからね」
「ワン」
元気にはしゃぐチビを見て安心する。
「長生きしてよね」
「おい、陽子」
父親から声がかかる。
「陽子の学校がシード権を獲得したぞ」
「えっ? お父さんの学校は?」
「シード逃した……」
「ええ? なんで? 前半絶好調だったのに」
「そう。前半はよかったんだ。後半の選手が奮わなくってあっさり後退していって……」
落ち込む父親は別人のようにテンションが下がっている。
「そんなに落ち込むほど肩入れしないでよ。今年1年そんな顔でいないでよね」
「ハハハ。そうだな。また来年も再来年も待っているさ」
「お父さん、時たまの楽しみが増えてよかったじゃない。それまで健康で過ごさないとね」
「ああ。そうだね。チビのためにもお前のためにも健康でいなければな」
☆☆☆
初日にしたいこと、あなたは何ですか?
今日は部屋の掃除はできませんでしたが、楽しい思い出はできました。
明日は計画通り部屋の掃除をしたいと思います。
「日記はここまで。さっさと掃除をしなくてはね」
END
一年の初めは? 朝香るか @kouhi-sairin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます