第18話 番外編~強制終了
レイジは自宅からライブ配信をしていた。
前に一度、酔っぱらってライブをし、そのまま眠ってしまった事がある。その時には、会社の方で強制終了してくれた。夜中だったが、もちろん会社はタレントの配信に目を光らせているのだ。
それぞれ個人活動が始まり、レイジも歌を一つリリースし、無事ソロデビューを果たしていた。まだまだ、アルバムも発表しようと意気込んでいた。
一方、テツヤの方も個人活動を順調に続けていた。アルバムをリリースした後、歌番組から引っ張りだこだ。つまり、あまり二人でゆっくり会えていないのだった。
寂しさもあって、近頃レイジのライブ配信の回数が増えていた。大抵夜だったライブ配信なのだが、夜に眠れずに朝になってしまったタイミングで、レイジは配信を始めたのだった。
朝の七時にライブ配信を始めたレイジ。ベッドの中から配信していた。それに気づいたテツヤは、まだ出かけるには早いのだが、何となく起きてその配信を見ていた。
しかし……。レイジは配信しつつ、眠ってしまったのだ。ベッドに横になっていたから、そのまま目を閉じ、すっかり寝息を立てている。
「あーあ、またやってる。」
テツヤはクスクスと笑った。そのうち強制終了されるだろうと思っていたのだが、いつになってもライブ配信は終了にならない。そして、視聴者数は徐々に上がってきている。どうした、会社の人達、気づいていないのか?
テツヤは心配になってきた。レイジはどうやら上半身裸で寝ているようだ。下も履いているのかどうか。起きていれば問題ないが、眠ってしまうと無意識に布団を剥いだりして、カメラに腕が当たったりして、どこを映すか分からない。
いかん!万が一、放送事故があってはならぬ!テツヤは慌てて出かける支度をした。レイジの家に行くのだ。
約三十分後、テツヤはレイジの家に着いた。最近は合い鍵を持っているので自由に入れる。急いでレイジの家に入り、カメラに映らないようにそうっとレイジのベッドに近づいた。物音も立てないように、慎重に。
カメラの後ろから手を伸ばし、指も映らないようにして、録画のスイッチを切った。ちゃんと切れたかどうか自分のスマホで確認すると、無事、ライブ配信が終了していた。
「ふう。」
テツヤはホッとして、レイジのベッドに腰かけた。やれやれだ。この可愛い寝顔は自分が独占しているはずなのに、この四十五分間、数百万人のファンがずっと見ていたのだ。だが、とにかく事故が起こらなくて良かった。
ファンは、会社が強制終了したと思っている。だが会社は、始業時間前だった為、まだレイジのライブ配信には誰も気づいていなかったのだった。夜中はマネージャーなどが注意しているが、まさかこんな朝の時間に始めるとは思わなかったのだろう。
「うーん、テツヤ……おいで……。」
レイジが急にそう言って、布団から腕を出した。やっぱり上裸だ。
「あ、っぶね。」
テツヤは肝を冷やした。今の寝言、配信されていたらどうなっていたか。数秒の差だったな。
「テツヤ……ムニャムニャ。」
「はいはい、ここにいるよ。」
テツヤはレイジの頭を撫で、微笑んだ。
アイドルの墓場(末っ子5) 夏目碧央 @Akiko-Katsuura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます