河津桜の下には

磐長怜(いわなが れい)

 

桜の樹の下には死体が埋まっている。

そんな話を聞いたことがあるかい?

有名な都市伝説?だと思うんだけど。

…実際、そうかもしれないと思わせるような美しさだよね。

私は、本当に「それ」が埋まっているような気がすることさえあるよ。

桜の樹の下では何が起きてもおかしくないような……それは許される、という感覚に近い。

 

でもね、それも桜の種類によりけりさ…

これは持論じろんなんだけどね。


河津桜カワヅザクラの下には、きっと死体は埋まっていない。


…君は埋まっていると思える?

あの花びらの色。梅と同じ時期に咲き急ぐように、それでいて花開けばおっとりとした、河津桜。

あのしなやかさは…桜の儚さ、「儚さゆえのずるさ」とは別に思えて仕方がないんだ。

 

ずるいなんて言うと桜のファンが怒るかな。

桜はとても愛されているからね。

もちろん、私も好きだよ。

けれどね…儚いということの、美しさが容認してしまう何か。

それを私はずるいと表現しただけなんだ。

どうか許してほしい。…ダメかな?

 

河津桜のピンクは染井吉野ソメイヨシノのそれより濃いね。

大元(おおもと)であると言われている寒緋桜カンヒザクラよりは薄い。

…家の近くに一本きり、頑張って咲いてるのがあってさ。

鳥がついばんで落ちた、花びらの揃ったのを拾ってね、よくよく見てみることがあるんだ。

花びら一枚一枚にルビを入力…むようにピンク色が淡くなり、あるいは濃くなって…綺麗だと思う。

この下に誰かの情念や罪が染みているなんて思えないんだ。

(間)

 

最後に…駄目押しみたいでよろしくないかなぁ……河津桜の花言葉は知っている?

―「思いをたくす」

…どう思う?


きっと河津桜の下に死体は埋まっていない。

私はね、勝手なことに、そんな気がして仕方がないんだよ。

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河津桜の下には 磐長怜(いわなが れい) @syouhenya

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