さざんか咲いた、曲がり角

磐長怜(いわなが れい)

 

さざんか さざんか 咲いた道

深入りにはご注意


垣根を曲がったあんたには聞く権利があるね。

椿と間違われてはいわれのないそしりを受け、椿よりか長く咲いてはらはらと散る。

咲きたてのさざんかを見たことはあるかい。

透き通る脈は浮き出るように色が出て、一枚。

濃淡は滲みながら人知れず広がって、一枚。

外側がぴんと張って、今度は内側の花びらが、また、一枚。

ひらいて、張って、やわくなったら

(咲いたな)と呑気なあんたが思った頃にはもう遅い。

あっちが咲いた。こっちも咲いた。

あっちはまだか。こっちは散った。


違う。全部咲いているだろ?


垣根を曲がったあんたなら、この香りにも気づくはずだよ。

人間だった頃に比べると、だいぶ寿命が長くってね。

欲しがらなくなったら散り時だ。

夢を見なくなった人間と同じさ、あんたみたいな。


よく聴いてごらん

香りに乗って声が聞こえるだろう

  ホシイ。ホシイ欲しい…

 花に顔を寄せてみな

  ホシイ、ホシイ…

何が欲しい


「あんたが欲しい」


(場転)

あぁ、また食っちまったのかい?

これじゃああんたばかり肥えちまって、ちっともお仲間が増えないねぇ

お、誰か垣根のそばにきたよ


さざんか招く 曲がり角

いやになったら、いらっしゃい




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さざんか咲いた、曲がり角 磐長怜(いわなが れい) @syouhenya

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