お茶
春野訪花
お茶
賑やかだ。
ゲームをしてみんな盛り上がっている。
そんな中で、私は仕事のためパソコンをいじっていた。気分転換のためにここに来たというのに、なぜここでまで仕事をしているのか。
やれやれと顔を上げた。
すると、誰かが飲んでいたらしいペットボトルのお茶が目についた。有名なメーカーのよくあるやつ。ほぼ満タンまで入っている。もしかしたらまだ飲んでいないのかもしれないくらいの量だった。
そんなお茶を見ていて、違和感を覚えた。
――地震か?
お茶の表面が揺れているのだ。
だが、遊んでいる面々が地震だと騒いでいる様子はない。
――ではテーブルが傾いていたりして、アンバランスなのか?
テーブルにはほかの飲み物も乗っている。が、揺れているのは、そのお茶だけだ。
首をひねる。
いや、全くもって意味がわからない。
今こうして見つめている間も、やはり揺れ続けているのだ。
膝の上に乗せているパソコンを下ろして、お茶を覗き込む。
揺れている。
「ねえ、このお茶誰の?」
誰にともなく声を上げると、ゲーム画面から目を離さずに一人の男が俺のーと答えた。
「なんか……お茶、変なんだけど」
「なんだよそれー」
笑いながら返事が返ってくる。
ゲームは盛り上がっているが、もうすぐ終わりそうだ。
――あれ?
お茶の量が、明らかに減っていた。
満タンくらいまであったのが、半分くらいになっている。
「お茶がなんだって?」
お茶の持ち主が、コントローラーを置いて振り返った。
「これ、もっと残ってなかった?」
「えー……いや、どうだったっけ」
男がお茶をひょいと持ち上げて、キャップに手をかけた。そのままひねるのかと思ったが、その時点で手を止めた。
「あれ?」
「どうしたんだよ」
「これ、よく見てみろよ」
「え?」
お茶が減ったのは確かだが、それ以外におかしなところは――。
「キャップ。開いてない」
「え」
確かに。本当だ。
ちょっと貸して、とそれを受け取る。穴が開いているのかと思って表面をなでてみるが開いていないし、テーブルだって濡れていない。
「……なんか、気味悪いな」
「うん……」
中身を捨ててしまおう、と男が流しに持って行く。
そして、キャップを開けた時、
「あ」
なくなっていた中身が戻った。満タンくらいまである。
「……」「……」
男と顔を見合わせた。
お茶は結局、流しに捨てられた。
お茶 春野訪花 @harunohouka
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