ネバーギブアップ

めいき~

とある開発室の年末年始

※とある開発室の年末年始の惨状を所々悪ふざけしつつ

※現代ドラマではありますが、実在の人物組織とは何の関係もございません



ここは、開発室パンダさんチーム。


「イーグル、いつものだ」


「ラジャー!」


「なんすかこのヤバそうな色の飲み物?は……」


「コーヒーとエナジードリンクとコカ・コーラとか雑巾の搾り汁とか混ぜたやつだ!」


「最後だけ、えらいおかしなもんいれてませんです?」


「レシピは合ってる」


「誰が考案したんすかこんなん」


「隊長だ、徹夜六十日目で妖精が見えるってんでそんじょそこらの奴じゃ眠気が飛ばねぇって言ってこれを眠くなると所望するようになった」


「こんなん飲んでたら、意識じゃなくて魂がとんでっちゃいますって」


「今隊長が倒れたら、俺達が残業する事になるぞ」


「しっかり飲んで頑張ってもらいましょう!」


親指を立てながら輝く笑顔の部下、部署全員で見捨てる方向で心が一つになる。



「にしても、営業のバカめちゃくちゃな日程組みやがって魔法でポンで開発してんじゃねぇんだぞ。泥臭く、出来たもん毎回チェックして目薬のお世話になりながらかじりついてやっと間に合わせた思ったら。ユーザーからここバグってますから早くなおせ無能だのチェックしてねぇだの言われるんだぜ。しかも、それいう奴が我が社に限って俺達より遥かに有能だってんだから嫌になるぜ」


毎回、こっちのコードも読まずに中身のコードを予想して動作からプログラムの内容を読んで修正案とパッチ出してくるまでが翌日とかどんだけ有能なんだよって話だよ。


「むしろ、お前がここに居れって怒鳴りたくなるほど優秀でクソ程イラついたっすからね」


「しかも俺達が組むより、早くて安定してておまけに俺達が望んだ動作に近いとかそれを毎回リリース翌日に手直し☆彡とかいうメールで送ってきやがって…」


全員が思い浮かべるのは、ハンドルネーム:ハムスターとかいう自社で一番古株のファンであり自社のソフトは全部買ってくれてる優良顧客ではあるが同時にコードをメールの圧縮ファイルで送ってくる変人だ。



「実は我が社の人間なんじゃないかって、会社中探したけど判ったのはそんな他部署のコードなおしてやるほど暇じゃねぇっていう悲しい現実だってんだから」


「それに、あのメールが一番胃にきたからなぁ」


<打診>


うちの会社きて働いてくれませんか?可能な限りの好待遇約束します。


<解答>


働きたくないでござる(キリ


スタッフの本音「死ねよ!」


※ここからはス「」で表記します。


<質問>


なんでですか?コードも綺麗でこっちの質問にもメールで答えてくれるし。ぶっちゃけ無料でやってもらうのが心苦しいのですが。


<解答>


オタクのゲームが好きで暇潰しでやってるだけで、人育てなきゃ会社も存続しないでしょうが。こんなクソみたいなメール書いてる暇があるなら一行でもコード書いて人育てるとかした方が良いよプゲラ。


ス「アンタがここきて、このボンクラ達教育してくれ!」


<質問>


なんで生コード見ずに、修正案送って来れるんです?


<解答>


コンパイラや開発ツールの癖と何で書かれてるかと動作みれば大体のコードは予想できるんじゃが?常識っしょ、ゲームのダメージとか技の挙動から計算式当てはめて予想してそれを攻略に利用するのは数学とかに長けてりゃ後は数やりこんだら余裕でしょう?

物理エンジンやポリゴンの繋ぎ目とかでなんかからでも、読み取る為のヒントは画面に一杯じゃが?


ス「余裕じゃねぇよ!どんな頭の構造してんだ」



なんで、そんなユーザーがうちみたいなののゲームなんか毎回買ってくんだよ…。


「まぁ、でも変なクレーマーよりは余程マシですけどね。出来ない事は言って来ないし、ちゃんと新品買ってグッズもめっちゃ買ってくれるお得意様には違いないし」


「あれで、口先だけだったら最悪だろが」


「仰る通りで」


「この前なんて、年末までお疲れ様ですって手紙と一緒に差し入れを通販で送ってきたぞ」


「インスタントコーヒーやカップ麺とかが山の様に届いたあれもアイツ一人で送って来たって、ったくどんな奴だよ」



「あれ?でもそいつも年末普通にメールのやり取りしてたって事は」


「今から彼氏と初詣行ってきます~とか書いてましたよ。ご丁寧に顔だけ潰した写真付きで」


「あいつ女かよ!」


「年末調子に乗り過ぎて彼氏の背中で、マーライオンして彼氏の背中がゲロまみれになりましたとか書いてあったぞ」


「彼氏南無」


「そりゃーあんなんの彼氏じゃその辺の男じゃ無理だろうよ」


「むしろ、彼氏がいた事に俺達は驚きを隠せない」


「何で!私はこんなムサイおっさん達の中でこんなに頑張っているというのに!!」


「なんか、アキちゃん歯ぎしりして泣き始めたぞ」


「ほっとけ、コーダーなんてどうせ使い捨ての雑兵だからな。この業界に来た時点で男女問わずオワコン位に思ってないと」


「悟ってますね、勇気さん」「悟らずに、社会人出来ると思ってんのかよ(笑)」


「転職6回で、ここが一番マシの時点で察しろよ」




「ここが一番マシなら、どれだけ地獄か悟れそうっすね」


「ここは、ちゃんと法律守って金が出るだけまともだっての」


「守ってないのに、普通以上を求める会社なんか消えてなくなれって」


魂から絞り出す様な怨嗟の声で、勇気が天井を仰ぐ。



「いいか?派遣で一番いい所の派遣される雑兵社員の平均年収が六百万、治験っていって安全保障が無い代わりにベットで薬飲んで寝てるだけの仕事が日給1~2万だ。正社員だって言った所で手取りがそれ以下なら、普通の待遇以下にしかならないんだから普通の態度や家で学習しろとか仕事しろなんて寝言は寝てから言えって」


保険や各種の保護なんて払って当たり前で、うちはありますとかいうのを笑顔で言ってる時点でゴミだな位に思ってなきゃやってられないっての。


「その上で、客や同僚や上司なんかにカスが居たら即撤退だな」


人間関係は、ボディーブローの様に効いてくる。いい友達といい関係以外、大事にする必要はねぇ。


「寝てるだけの仕事より、技能職の方がギャラが安いって時点で終ってると思え。

ギャラがない仕事は、仕事じゃねぇよ」と煙草を咥えながら吐き捨てた。


「勇気さん、めっちゃやさぐれてますね」

「人間限界近いと本音が出るもんだ、取り繕えなくなるからな…」



「な~にが初詣は彼氏とだ!死ねっ!死ねぇぇぇぇ!!」


「あっちも、今は声かけんな」


「うす、絶対近づきません(キリ」


「よし、じゃ手分けしてデバッグすっぞ」


「「「ラジャー」」」


(しばし、キーボードを叩く音だけが開発室に響く)



「俺達、なんで正月から働いてるんすかね」

「営業の田代は家族で、旅行行くって」


「「「あぁん!?」」」




「田代が家族でって、この案件引き受けてきたの田代だよなぁ?」


「売るのが仕事だって、後はバイならってかあのクソ野郎っ!」


「温泉は無理だが、銭湯なら近場にあるから行きたい奴言ってこい」


「リーダー…」


「お前らも、流石に風呂無しで徹夜とかきつ過ぎるだろ。寝たい奴も、仮眠室言ってこい」


(ぶっちゃけ、今みたいに文句言ってるだけだと邪魔だしなー。俺もみんなが見て無いとこで、〇〇ちゃんのアーカイブみて癒されねぇとやってられんわ)


「じゃ、お言葉に甘えて行ってくるっす」


「んっ、行って来い。絶対帰ってこいよ(笑)」


「「「家にかえりてぇ~」」」


「それは、俺も同じだっつーの」


「後、営業連中に対する苦情もいれとくわ」


(さてと、奴らが居ねぇ間にSNS巡りしながら動画でも見て休憩すっかなー)



「アキちゃん、すまねぇな。嫌だったら帰っても良いんだぜ?俺やっとくから」


「チーフ、すいません取り乱しちゃって」


「いいのいいの、限界近いと人間取り繕えなくなるもんだからさ。アキちゃんも、休んできなよ。むさい、おっさんばっかりの職場でゴメンね」



「はい、じゃあ私も温泉行ってきます」


<扉が閉まる音>



「はー、オチオチあれな動画も……」


「チーフはどうされ…」


急に戻ってきて開いた扉、画面に映っているのは総合開発環境の画面。

どうやら、最小化は間に合った様だ。




「俺は、皆が戻って来てから行くよ。ゆっくりしてきな、温泉で寝て寝坊はいいけどそのまま帰んなよ。俺が、風呂に行けなくなる。ただでさえ、存在してるだけで子汚いおっさんが更に汚くなったら外あるけねぇよ」



そのジョークに吹きだすアキ、バツが悪そうに頭をかくチーフ。

アキが扉から消えて、大きく息を吐きだすチーフ。




「あっぶねぇ、いきなり終わるとこだったわ!」


と台詞を吐きながら、横で怪しくマグマの様にボコボコいっているマグカップを一口。



「あんな、いい子が来る職場じゃねぇよな。年末年始に働かにゃならんで必然性があるのなんて医療関係位だろうが。それ以外だと、物流とか小売りもそうか。システム屋が年末年始働けとかおかしいんだよな。特にゲームとかだと、必然性皆無だしよ。インフラ系は止まったらヤバいからつめてる奴はいる必要あるけど貧乏くじだよなぁ」



(あーいう素直なのが、ストレス溜めて変な人間になってくんかねぇ)


しばし、動画の音が開発室に流れ時々カップを傾けて飲む音だけがした。


今は皆で払っている為、この開発室にはチーフが一人。



そう、この開発室の年始めのスタートは毎年こんな調子で始まる。




<おしまい>

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