第46話
「冥王を貴方に倒してほしいってのは私のわがままよ。でも、あのアンノウン達がもし冥葬級を踏破するようなことがあれば……」
ダメ神幼女様が少し複雑な表情を浮かべながら、パンツ一丁で正座する俺になにかをお願いをしているような気もしたが、今の俺はそれどころではなかった。
―――――――――――
余剰葬ポイント 4817
HP 999(0) -+
最大HP 999(0) -+
MP 999(0) -+
最大MP 999(0) -+
腕力 999(0) -+
体力 999(0) -+
敏捷 999(0) -+
精神 999(0) -+
葬力 999(0) -+
―――――――――――
とりあえず確認したかったのは、やっぱりこれ。
余剰値の取り扱いが変わっているような気がしていたから、ステータスを開いてみたらビンゴ。
上限突破!あざーっす!!
でも、振り分けどうしようかな……。
これだけあると逆に悩む。
「おそらくこの世界とダンジョンのバランスが大きく崩れ、人間の世界も私が作ったこのダンジョンシステムもすべて崩壊するんじゃないかって恐れているの……」
少なくとも予想では最大値9999くらいまではイケそうだけど、逆にどう割り振るべきか……。
ん?
ダメ神幼女様が遠くのほうを見ながら何か大事なことを言っているような気もしたけど、今はそれどころではない。
まぁ、ここはインスピレーションにまかせて……。
いや、あのゴールデンエンペラースライムのゴルエちゃんと戦った時のこと思い出すと、やっぱスピードって超大事だよな。
速いはすべてを凌駕するんじゃないかな。
ってことで、こうだな。
よっと!
―――――――――――
余剰葬ポイント 0
HP 999(0) -+
最大HP 999(0) -+
MP 999(0) -+
最大MP 999(0) -+
腕力 999(0) -+
体力 999(0) -+
敏捷 5816(4817)-+
精神 999(0) -+
葬力 999(0) -+
―――――――――――
オッケ!これはヤバい!
光の速さ超えちゃったんじゃないか?俺
「お願いよ、阿尻ダイシ!私の地位保全と人類の未来のために、その力で冥葬級をなにがなんでも攻略して……」
ん?ああ。そうだね。
なんだって?
切なそうな顔してなんか言ってたけど、まったく頭に入ってこなかったぞ。
あ!視聴者さんたちにステのこと説明しなきゃな!
もう割り振って決定ボタン押しちゃったけど……。
また怒られちゃうかなぁ……。
:なんか1人でしゃべってない?幼女様
:おっさんなにやってんだよ
:返事くらいしてやれよ
:映像見れないからわっかんねぇな
:ステでもいじってんちゃうか?
:そういや幼女たんがステ見ろって言ってたな
:どうなった?
:もうカンストしてたけど、それよりまだ強くなれるのか?
:説明しろよぉぉ!!!
ああ。わかってるよ!
愛しの視聴者さんたち!
「めでたくステの上限が突破しました!全部敏捷に振って超スピードを手に入れてやりました!!あと、職業とかは……」
「って、バカダイシぃぃ!!私のこと無視するなぁぁぁ!!!」
なにプンスカしてんだよ、ダメ神幼女様。
いま忙しいんだよ。
視聴者さんたちへの大事な説明タイムだ。
もう95万人も見て(聞いて)くれてるんだから対応しなきゃだろ。
つまらない話は後にしてくれないかな。
:いやいやいやいや
:おっさんいつも極端すぎw
:また考えもせずそんな……
:上限突破したら葬力余らなくない?
:割り振りできなくなるね、たぶん
:全体補正かかってそうな葬力値を先に上げるべきだったな
:バカすぎるwwww
そ、そうだった……。
上限で余ってたからから割り振れたんだよな、今まで。
またやってしまったかもしれん……。
「もう!その夢中になったら周り見えなくなるソレ、絶対直した方がいいわよ!子供じゃないんだから!まったく……」
これは性格だからしかたがない。
この年齢になってそう簡単に治せるものでもない。
そしてその点に関して言えば、ダメ神幼女様も似たようなモノだと思う。
「あ、女神様。この職業って……」
「私の大事な話は無視したのに質問とはいい度胸ね……。まぁいいわ。上級職、と言いたいところだけど、それは私が適当につけただけだから。回復の才能がない貴方にはそっちのほうがお似合いだと思ってね」
葬侶。
まぁ言われてみれば、とりあえず葬送しちゃう俺には合ってるよね。
「レベルは1からやり直しにしといたわ。そっちのほうが強くなりやすいからね。初期値は僧侶時代から引き継いでいるわ。あと上限値とスキルはね……」
俺の性格を理解してか、ステータスについて細かく説明してくれたダメ神幼女様。
さっきの話はあまり聞いてはいなかったけど、要するに冥葬級行ってとっととあのじいさんと勇者と魔界騎士を倒してくればいいんだろ?
もうまったりダンジョン生活は諦めたから、その依頼は受けるよ。
:やっぱ葬侶やんけwww
:レベル1に戻るのに初期値引き継げるとかサービスよすぎww
:とりあえず上限は9999だったな
:次レベル上がったらどうなるんだろうな
:スキルMAXって初めて見た
:スキルは使ってみてのお楽しみってか
:見てる方はそっちのほうがいいよね
:【無限アイテムボックス】とかチートすぎるでしょww
:探索者だったら喉から手が出るほどほしいスキル
:冥葬級みたいな地下100階とか攻略するには重宝するよな
:称号【
:ついに悟りを開いてしまったようだな、おっさん
「説明は以上よ。とにかくヤツらより先に冥葬級を攻略しなさい、阿尻ダイシ。そのために必要な力は十分に与えたから」
「わかったよ。了解した。でも、サツキちゃんは……」
「あのイレギュラーはほんとは始末したかったんだけど、それすると貴方、冥葬級行ってくれないでしょ?ここに入れちゃったのは私のミスでもあるし、ギルド本部に報告書出されるのはあまり好ましくないけど、この際仕方ないかなってね」
確かに、サツキちゃんをどうこうするって話だったらこの依頼は絶対に受けない。
てか、全力でこの幼女を俺が倒す。
ゼロ距離地獄門の刑に処す。
「それされるとさすがの私でもキツイはね……。まぁそういうことだから安心して。ただ、天音サツキは貴方と一緒には行けないわ。あの子の実力だと100%死ぬ。誰かを守りながら攻略できるほど甘くないから、あそこ」
それもなんとなくわかってた。
サツキちゃんとは、ここでお別れだ。
色々世話になったけど、ここ以上に危険なダンジョンに、これ以上付き合わせるワケにはいかない。
「サツキちゃんも、安全な場所まで転移してくれる?」
「約束するわ。もうどっちみちバレるんだし、ギルド本部前に置いてあげる」
「ありがとう」
はぁ。でも1人で行くのはさすがにちょっと不安だな。
アイテムボックスに回復アイテムとかたくさん入れといてくれたんだろうか、この幼女様は。
てか俺、まだ初ダンジョン経験してから半日くらいしか経ってないよね?
まだバリバリ初心者なんだけど、本当に大丈夫なんだろうか……。
「いくら能力値が規格外でも、ダンジョン探索はそれだけじゃ攻略できないってのはここまでの経験で十分理解したはずよね。貴方ちょっとおバカさんなところあるから私もいささか不安あるけど、まぁそこは頭よく使って自分でなんとかしなさいね、阿尻ダイシ」
「が、がんばる」
「それじゃあ心の準備はできたかしら?とにかく早く行ってもらわなきゃアイツら来ちゃいそうだからもう飛ばすけど、いい?」
四の五のここで考えてても始まらない。
行くしかないならとっとと行こう。
幼女様の言った通り、疲れは完全に取れている。
もう後はなるようになれ、だな!
「いい覚悟ね。それじゃあ時空の渦を開くから、あとはよろしくね!阿尻ダイシ!」
いつもの時空の渦がパンツ一丁で正座したままだった俺の目の前に現れる。
この感覚はもう慣れた。
気が付いたら、そこはもう冥葬級の入口になるのだろう。
覚悟は決まった。
気合入れて冥葬級攻略、やったろうやないか!
あ、でも。
ずっと正座しててめちゃくちゃ足痺れて感覚ないんだけど、いきなり魔物とかに襲われたら対応できるんだろうか。
それにまだ……
:パンツ一丁で行く気かよwwww
服、着てなかった。
◇
Side 天音サツキ
「ここは……ギルド本部……前?」
私、天音サツキは気がつくと、武骨で無機質で巨大な建造物の陰にひっそりと横たわっていた。
「私は……確か……」
記憶が錯綜としている。
頭を振って、なんとか頭の中にある情報を整理、思い出す。
「ダイシさんが臭すぎて気絶してたような……。はっ!」
私は何故ここにいるのだろう。
思い出した脳内情報をまとめると、今は西東京第4初級ダンジョン内に突如現れた寺の扉前にいるはずなのだけれど……。
「あ、そうだ私!調査記録を……あ、あった!よかった!これを本部に提出して……」
「ほぉ。動画で見るより可愛いじゃねぇか、天音サツキ」
「っ!!」
まるでいきなり大蛇が首に巻き付いてきたかのような絶望的な圧迫感を感じ、私は突然息をすることも声を発することもできなくなった。
「お前なんかくっせぇな。でも、俺は嫌いじゃないぜ。その匂い」
後ろから強烈な腕の力で首を締めあげられているから、顔がわからない。
声はどこかで聞いたことがあるような気はするけど……。
く、苦しい……。
誰、なのよ……一体……。
「阿尻ダイシ。初心者の分際で神域級をクリアした俺より目立ちやがったクソ野郎。おまえ、一緒に探索してたんだろ?」
締め上げる力がさらに増した。
神域級を、クリアって……。
やばい……このままじゃ私……。
「あ……あなた……は……」
「この透き通るイケメンボイスを発せるのは、勇者しかいなくね?」
ゆ、勇者……ですって!
「神域級攻略でPTの奴ら、全員メンタルイッちまってな。ほんと使えねぇゴミカスばっかで困るわ、マジで。んで、これから冥葬級のじいさんシバきに行くのにちょうど仲間募集してたところだったんだけどよ……」
首の圧が取れ、今度は顔面が万力のような力で挟まれる!
両手でビンタされた痛みなど忘れるくらい、目の前にある強烈な悪人顔に息を飲む。
噂には聞いていたが、この男……。
ガチでヤバい!
「阿尻ダイシも来るんだろ?冥葬級。なんでもダンジョンマスターの加護を受けた特別性らしいじゃねぇか、あのおっさん。さすがの俺でも骨が折れんだろーなぁと思ってな」
私の顔を挟む両手にさらに力が入る。
目を、逸らせない!
「お前をPTに迎えに来たってワケだ。はは」
「い、いや……よ……っ!!」
「あっ?お前に拒否権ねぇし。ぶん殴られて引き摺りまわされるのと、黙ってついて来るの、どっちがお望みだ?」
私の心は、この悪魔みたいな勇者の恫喝によって屈してしまった。
悔しいけど、逆らえる雰囲気ではとてもなかった。
この男は、能力的にはダイシさんよりは弱いと思う。
ダイシさんの能力値はもう、この世界で一番強い領域になってしまっているから。
でも……。
それでも思う。
いや、間違いない。
ダイシさんは、この男には勝てない。
絶対に。
第一章 完
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