第45話

「儀式を行うのに邪魔なのよ、服は。できればパンツも脱いでほしかったけど」



 俺は今、ロウソクで取り囲まれた部屋の中央で正座をさせられている。


 パンツ一丁で。



「特に宵闇のローブなんて耐性マシマシの服なんて着てたら儀式の妨げでしかないからね」



 ダメ神幼女様は俺の後ろに立ち、右手を俺の背中に掲げてなにやら念力のような、うすら白い気を流し込んでくれている。


 ほのかに暖かく、怪我をしたときに接骨院で電気をあてられているような、そんな気持ちよさを感じて少し眠気を覚えていた。



 :全裸にされなくてよかったな

 :見た目幼女の前でマッパは完全に犯罪

 :おまわりさんこいつです

 :ここでおっさんの全裸はきちぃw

 :え~見たかったのにぃ

 :ちょっとドキドキしました(照)

 :ダイシのダイシで女神を暗黒面に堕としてわからせてほしかった

 :全部脱いでたら確実にBANされてたな

 :これまでも大概アウトだと思うけどw

 :【地獄門】とか絶対ダメだろw

 :あえて流してる説もある

 :これだけ見てれば誰か1人くらい通報してそうだけどな



 俺のダイシにそんな力はない。


 “大”ではなく“小”だ。


 あ、いや。そこマジでどうでもいいな!


 失敬!



儀式これが終わったら、俺は冥葬級に行かなくちゃいけないんですかね?」



 正座で痺れつつある両足の痛みを忘れるため、俺は幼女様に質問をした。


 もうさっきまでの話の流れだと、その展開しかないように思う。



「察しがいい男は好きよ、阿尻ダイシ。儀式が終わり次第、私は貴方を冥葬級の入り口付近まで転移させてあげるから安心して待っててね」



 やさしくも悪魔のようなささやきに聞こえた幼女様の声。


 ああ。俺のまったりダンジョン生活の夢が……。


 もう拒否権はないんだろうな。


 まぁ1000歩譲って行くにしても、せめて1日くらい準備期間ってことで休ませてほしいんだけど……。


 それが無理だとしても、お願いだから風呂くらいは入らせてほしい。


 俺や幼女様は大丈夫だけど、冥王の地獄臭をつけたまま表を出歩きたくはない。 


 残り香だけで人を気絶させちゃうくらい臭いらしいから、早くこのマーキングみたいなしつこい臭いを消し去りたい。



「私の気は疲労回復効果と浄化の機能も兼ね備えているから、別に休まなくても問題ないし、そのくっさい冥王の屁の臭いも自然に消えるから大丈夫よ」



 また心読まれた。



「それに装備とか食料、探索に必要な最低限のグッズなんかはもう用意してあるからいつでも冥葬級を探索できるわ」


「ちなみに女神様は一緒に来てくれないんですか?」


「私はこの西東京第4初級ダンジョンからは離れられないのよ。せっかく設定したダンジョンの因果が全部壊れちゃうからね」


「えっ?じゃあどうやって冥王の臓物を……」



 結局話が元に戻った。



「あーそれ。よっぽど知りたいみたいね。簡単な話よ」



 幼女様の説明によると、基本的には全てのダンジョン、またその中にいる魔物も含めたすべての個体は自分が創生・管理してるものだから、マスター権限でこの場所からいつでもどこでも足したり引いたりはできるそうだ。


 でも冥葬級はさっきの説明にもあったが、今は冥王の独立したシステムで動いているから、幼女の権限が基本的には通用しない。


 ただ状況はある程度把握できるそうで、神域級や絶海級ではありえないが、冥葬級だけは稀に冥王の管理が弱まる瞬間があるそうで、その一瞬をなんとか捕らえ、かろうじて臓物だけ引き抜けたそうだ。


 破壊せず内臓なかみを抜いたのは力を奪って俺に授けるため。


 魂の選定域第8層を突破した俺なら、冥王と同期も可能だと考えたから。


 ちなみに冥王の力の根源も葬力だそうだ。俺と同じ。


 俺と……同じ……。


 ……。


 そう考えるとめちゃくちゃ嫌だな。


 いずれ、俺もあんな感じになっちゃうのかな。


 そう考えるとめちゃくちゃ不安だな。


 屁をこくたびに【地獄門】が召喚されるんだったらたまったもんじゃない。


 寝てる時に無意識で……とかなるとシャレにもならない。



 :前段の話聞いてないからよくわからん

 :万引きみたいな感じか!

 :だれも見てない隙に……って全然違うだろw

 :とにかくこの儀式が終わったら冥葬級攻略に向かうんだね!

 :またおっさんの活躍が見れるってことでおk?

 :早く儀式終われよ

 :まだ強くなれるのか

 :わくわく



「なにくだらない事ばっかり考えてるのよ」


「あ、いや。俺にとっては切実です」


「人間ってよくわかんないわね、ホント。あ、終わったわよ」



 えっ?もう終わったの?


 案外早かったな。


 でも別にすごい力がみなぎってきてるような感覚も全然ないんだけど……。


 ホントに覚醒してんのか、俺。



「ステータスを確認してみるといいわ。色々変わってるから」



 色々、ねぇ……。


 まぁ、そういうことならとりあえず見てみるか……。



―――――――――――

名前 阿尻 ダイシ

職業 葬侶そうりょ

レベル 1


HP 999/999

MP 999/999


腕力 999

体力 999

敏捷 999

精神 999

葬力 999


余剰葬ポイント 4817


スキル 

 【葬拳 MAX】【応報 MAX】【成仏 MAX】【回帰 MAX】【火葬 MAX】【霊視 MAX】


固有スキル

 【地獄門】【無限アイテムボックス】


称号

 【解脱者げだつしゃ

―――――――――――



「このステータスって仕組み、ホント便利でおもしろいわよね!人間が発明した技術の中でもトップレベルで優秀だわ。ま、アナタのは私がかなりいじってる特別性だから、普通の探索者が使ってるのとは全然勝手が違うんだけどね」



 幼女様がニヤニヤしながらなにか言っているが、今はまったく頭に入ってこない。


 ステータス画面の表示内容に釘付けになっていたから。


 色々変わってる。確かに変わりすぎなくらい変わってる。


 どこから確認していけばいいのか……。


 正直、見当もつかない。

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