第44話

「サービスよ。コメント欄と音声だけ開放してあげるわ。映像はなしね」



 何故かこのダメ神幼女様は、さっきからずっと俺の仕草や表情から察し、先読みして色々言ってきたり今回みたいな特典を与えてくれたりする。


 元神様ってくらいだから、俺の考えていることなんてなんでもお見通しなのかな。


 ともあれ、いつもの空中映像が俺の横にパッと映し出された。


 実家に帰った時と同じ安心感を覚え、少しほっとする。


 ってそうは言っても、視聴者さんたち、まだ繋いでいてくれてるのかな?


 かれこれ2,30分はなにも映ってなかっただろうし。


 同接0人になってたらどうしよう……


 ……いや!


 同接、60万人を維持してる!


 さすがに結構な時間繋がってなかったから少し減ったけど、まだこんなに待っていてくれた!


 よかった!


 ただいま!俺の愛する視聴者さんた……

 


 :【地獄門】使用時のおっさんの格好、ヤバかったよなw

 :あれはギャグ

 :しかも普通にすかしっぺこいてたしw

 :あの瞬間の空気ヤバかったw

 :それを数十万人が見てたという

 :汚ぇ花火まで打ち上げやがってw

 :SNSは大爆笑の嵐だったぞ

 :トレンドワード「ただしスキルは尻から出る」がぶっちぎり急上昇1位

 :阿尻ダイシ板のスレも1000超えてた

 :切り抜き職人もすでにいい仕事してる

 :アレを全国にさらされるとかワイやったら100%泣く

 :おい、なんか繋がってねぇか?

 :あ、ホンマや

 :「音声だけでお楽しみください」ってなんだよw

 :映像映せよ

 :幼女のご尊顔見たいんだけど

 :おーい!おっさん見てるかぁ?

 :見てたらなんかしゃべってぇ



 ……なんか、アレか?


 もしかして俺の例の醜態で盛り上がってたから、同接維持できてた感じ?


 全然嬉しくない!



「あ、聞こえる?みんな」



 :きたぁぁぁぁ!!!

 :おっさんや!!

 :おかえりダイシくん!

 :おかえり!

 :顔見れなくてすごく残念

 :なぁ幼女のこと説明してくれよ

 :なんか色々聞いてたんだろ?

 :冥王の肝と腸はどうやって抜いたんですかね?

 :ライカさんって年齢いくつだったの?

 :時空ウサギは今どうしてる?

 :羅刹天さんは死んじゃったの?

 :幼女はダンジョンマスターでおk?

 :サツキたんはどうしたぁ!?

 :ステ天元突破した?

 :さすがに称号くらいもらえたでしょ

 :上級職ってのもあるな

 :固有職のことが気になる

 :このダンジョン自体おっさんを鍛えるための試練だったんだろ?

 :てかおっさん、5年前に一回死んでんだろw

 :なんやかんやあって転生したに1票

 :前世阿尻ダイシだったりしてw

 :このダンジョン終わったら冥葬級行って冥王様食べるんでしょ?わかります

 :まさかおっさんがダンジョンマスターの後継者?



 今までにないくらいの勢いでコメント欄が猛烈に走りだしたものだから、正直最初のほうのコメントくらいしかまともに読めなかった。


 ただ読めた範囲だけで見ても、まだ細かく気になる点はごまんとあることがわかった。


 でもこれ全部一つ一つ聞いてたらキリがないな。


 俺がどうしても気になってることだけ追加で聞くことにしよう。


 そして少し視聴者さんの考察らしき部分もなんとか読めた。


 ほぼあってて草が生えた。


 ネット民の方たちは昔からほんと鋭くてほとほと感心してしまう。



「ごめんみんな。この幼女さんから聞いたことは大体全部覚えてるから、あとでまとめて説明するね。別にいいんだよね?ダンジョンマスターさん」


「話だけなら別にいいわよ。好きにするといいわ」


「ありがとう」



 念のため確認をとったら了承を得られた。


 まぁ話したところで信じてもらえるかはわからんが。


 俺もいまだに話半分だし。



 :幼女ボイスきたぁぁぁ

 :声めっちゃかわいくね?

 :エロアニメの声優かと思ったわ

 :でもなんかすげぇ偉そうw

 :そりゃ実際はすごい年齢でしょ

 :やっぱロリBB……いや、やめておこう

 :加工乙



 あいかわらずをサラっとヒドイことを書いてくる視聴者さん達。


 同感だが、ダメ神幼女様には怖くて見せられんな。



「ちなみにロリBB……は声として発した瞬間に爆散すると心得てね、阿尻ダイシ」



 無表情ながらものすごい圧で脅しをかけてくるダメ神幼女様。


 やっぱ心読まれてるな、これ。


 そしてそのロリBB……という単語はどうやら地雷ワードらしい。


 気にしてるみたいだ。


 気を付けよう。



「まぁいいわ。質問、受け付けるわよ。たくさんあると思うけど、できれば手短にお願いする……っ!!」



 急に、ダメ神幼女様の表情が一変した。


 会ってからこれまでずっとあざ笑うかのような感じだったのに、突然苦虫を噛み潰したかのような焦燥が顔に現れている。


 えっ?いきなりどうしちゃったの、ダメ神幼女様!



「まさか……神域級に続いて絶海級まで……。アイツらほんと何者なの」



 よく聞こえなかったが、ブツブツ呪言のようなひとり言をつぶやいたダメ神幼女様。


 神域級と絶海級が、なんだって?



「ごめんなさい。ちょっと状況が変わったわ」


「えっ?」


「質問に答えてる暇が無くなったの」



 おいおい勘弁してくれよ。


 冥王の臓物のこととか絶対聞きたかったのに。


 急に打ち切るとかひどくないですか?


 視聴者さんたちも怒っちゃいますよ!



「端的に言うわ。アナタ達の世界でいうところの魔界騎士が今ほど絶海級を踏破したらしいの。さらに勇者PTが冥葬級再攻略への準備に取り掛かっているっていう情報も追加で入ってきた。もう悠長にこんな話してる場合じゃなくなったの」



 端的すぎて意味わからん。


 それってなんか焦らなきゃいけない理由になるのか?



「その辺りのことはこっちもやることやりながら話すわ。とにかく準備なさい、阿尻ダイシ」


「準備?」


「服を全部脱ぎなさい」


「なっ!?はぁ??」


「最終試練を乗り越えた貴方に最後の覚醒儀式を執り行うわ」


「覚醒……儀式??」


「そう。これから私は貴方に、冥葬級制圧とあのアンノウン達と戦うために必要な極上の称号と力を、与えてあげるわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る