第42話
サツキちゃんを担いで中に入ろうかとも思ったけど、今の俺は臭すぎて逆に迷惑になると思ったから、入り口の階段のところに彼女を寝かせた。
もうさすがに何かが襲って来ることもないだろうが、一応幼女に会ったら事情を話して安全は確保してもらう。
そのくらいはできるはずだ。
「よし。中へ入ろう」
真っ暗で何も見えないが、ここまで来て怖気づいたりはしない。
でも落とし穴とかあったら嫌だな。
とりあえず足元を踏みしめながらゆっくり進んで……
ギギギギギギ……
「あっ!扉が!」
勝手に閉じた。
同時に暗闇で何も見えなかった空間に灯が浮き出してくる。
ボッボッと、俺のいる位置の両隣に設置されていたロウソクに火が入る。
それは順番に、一定間隔で奥まで伸びていき、まるで奥まで来いと道しるべを提示しているかのように、俺の行く手をほのかに照らしていった。
「……来いってことね」
少し明るくなった本堂の中をゆっくりとした足取りで進んでいく俺。
ほどなくして、ロウソクがいくつも折り重なるように集中している空間が視界に入ってきた。
もう間もなく、その場所まで辿り着く。
少し緊張する。
声は確かに幼女だったが見た目がそうとは限らない。
女性、だとは思うが存外おば……いや、やめておこう。
などと考えているうちに、目的の場所に到達した。
「遅かったわね。もっと早くここに辿りつけると思っていたわ」
3段の広めの木製階段が目の前にある。
その階段を上った先。
円状の割と広いスペースの真ん中に、その声の主はいた。
グルっと見渡す限り、一体何本のロウソクを焚いているのだろうと思わされるくらい大量の灯に照らされた、背の低い女性の背中が見える。
後ろから見た感じ、かなり大きめの白い布みたいな簡易な服を着た女性だった。
「貴女が、ダンジョンマスターか?」
階段の下からそう語りかける俺。
振り向かずに話していたので顔はまだわからない。
後ろから見ると確かに幼女だが、振り向いたらロリBB……
いや、やめておこう。
「そう呼ぶのは人間だけね。まぁ確かに、この世界ではダンジョンくらいしか影響力は行使できないから、言い得て妙ではあるんだけど」
そう言いながら、ようやくダンジョンマスターはこちらを振り向いた。
「!!」
「あら、私の美しさに見とれちゃった?可愛いわね、阿尻ダイシ」
悔しいが、実際そうだった。
人間離れした可愛さと美しさを兼ね備えた究極の幼女とはまさに彼女のことを言うのだろう。
全てのロリコンのツボを押さえたそのご尊顔。
金髪のストレートロングヘア―が良く似合っている。神々しさすらある。
目は薄茶色でクリクリ。
顔の大きさも鼻も口も信じられないくらい小さくて形がシャープ。
俺は絶対にロリ好きではないが、この幼女を前にすると新たな目覚めすら感じさせる、そんな予感すら持たされる。
まさに、最高で不敵で至高の子役アイドルといった感じだった。
「あ、ちなみにアナタの配信用カメラはこっちで勝手に切らせてもらったから。私はアナタ以外の人間にこの姿を見せるワケにはいかないから」
そう言えば、さっきからカメラは自動で追尾してきているのにコメント欄がまったく機能していなかった。
おそらく録画機能も停止しているのだろう。
ここまでどんな環境でも適応してきた恐ろしく高性能なカメラすら止めてしまうとは……。
それに今の俺はものすごく臭いはずなのに、平然としているのもすごい。
ダンジョンマスターっていうのも納得させられる。
「サツキちゃんは……」
「大丈夫。彼女はイレギュラーだったけど、ちゃんと入口で保護してる」
とりあえず安心した。
よし!それなら早速質問タイムに移らさせてもらおうか!
まず最初に確認したいのは……。
「聞きたいことは大体わかってる。順を追って話していくから焦らないで、阿尻ダイシ」
すごく可愛くて見た目は完ぺきな幼女なのだが、どうも話し方がおねぇさん口調で上から目線なので、心なしか少し腹立たしさを覚える。
順を追って説明していく?
いや、まずはこちらが一番知りたいことを先に教えてもらおうか!
「あの冥王の臓物は一体どうやって用意したんだ?まずはそれ教えてほしい!」
俺が最も疑問に思っていたことを、幼女が話し始める前に先に問うてみた。
コレ、すっげぇ気になってたんだよな。
あんなものどうやって抜き取ってこのダンジョンに配置したのか。
視聴者さんも気になってたと思う。
今は見れてないから、ここを出たらまずみんなに教えてあげようと思う。
「そんなしょーもないことから先に聞いちゃう?ほかに色々あるでしょうが……」
「しょうもなくない!めっちゃ気になる!」
「まぁまぁおバカさんだとは思ってたけど、割と筋金入りのおバカさんなのかもしれないわね」
ほんと失礼な幼女だな。ちょっと可愛いからって。
泣かすぞ。
「アレはあのじいさんが酔っ払って寝ている隙に盗んできただけよ。年取って隙が多くなったからね、あのじいさん」
いやどうやって移動したとか、抜き方とかさ。
そういうのが知りたいんだけど。
てか抜き取るくらいなら倒せばいいじゃんか。
なんでワザワザ俺に食わせたりしたんだよ。
「あーその顔は何を言わんとしてるかはわかったわ。それも含めて順を追って話すから、とりあえずちゃんと聞いね。阿尻のおバカちゃん」
葬拳ぶちかますぞ、コラ。
「まず前提から話しとかなきゃね」
「前提?」
「そう。私はアナタがこのダンジョンに入ってからここに来るまでのすべてを見てきたわ」
「え?そうなん?」
「あら、気づいてなかったの?まぁいいわ。続けるわね」
「うん」
「探索の途中、あのイレギュラー天音サツキがアナタに『代償』の話をしていたことがあったと思うの」
イレギュラーって言い方もめちゃ気になるが、順を追うとのことなので今は聞かないでおこう。
そういえばサツキちゃん、なんかそんな事言ってたかも。
俺の異常な力に対してなにか大きな代償があるはずだって。
言われるまで忘れてたけど、そう聞くとなんか怖くなってきたな。
やっぱり代償、あるよね。
俺、ワケわからんくらい強くなっちゃったし。
「始まりは5年前。貴方がここ西東京第4初級ダンジョンの入口前で、
「あー5年前っちゃまだ俺が社畜だった時の話だな!あん時は酔っぱらってここの入口前まで何故か来ちゃってたんだよなぁ!いやーすげー寒かったような記憶が……って、いや、え?えっ?良く聞こえなかったな!今なんて……」
「代償の話よ。貴方はすでに、人にとって最も大きな代償を最初に支払っているわ」
聞こえなかったってのはウソ。
信じられなかっただけだ。
だって、この幼女が言ってることは……。
「阿尻ダイシ。アナタは一回死んでるのよ」
な……な……
ぬあぁぁんですってぇぇぇぇぇぇ!!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます