第41話

 俺の身がバラバラにならなかったのは、地獄門の裏に身を潜めていたからなのかもしれない。


 地獄門は、あの超爆発でも平然と無事だったから。


 火葬は敵味方判定を自動でしてくれるが、あの爆発も同じ判定をしてくれたかは定かではない。


 迂闊だった。


 屁を焼いてはいけなかったのだ。


 しかし、正面に回っていた配信用カメラ。


 さすがにアレは無事では済まなかっただろう。


 さっきまで浮かんでいた空中映像のコメント欄が今は……



 :羅刹天さん木っ端微塵www

 :【火葬】をあの場面で使ったらアカンw

 :強烈だったな

 :閃光がすごすぎてなにが起きたか一瞬わからなかった

 :音もやばすぎた

 :超絶大爆発



 そのままだった。

 

 マジすごすぎだろ、この配信カメラ。


 地獄門並みの耐久性能かよ。


 いやでも、ホント危なかったよな今回は。いろんな意味で。


 何回か死んでてもおかしくない状況だったな。


 そういえば、レベルってどうなったんだろ。


 羅刹天を倒したはずなのに、今回はレベルアップ画面は現れなかった。


 魔物じゃなかったから対象外だったのだろうか。


 まぁその辺りのことも余裕があれば幼女に聞いてみるか。


 今は生きてただけでもよしとしよう。


 でも、この後ってどうすればいいんだ?


 何も考えずに羅刹天さん倒しちゃったけど、ここからどうやってサツキちゃんがいる場所まで戻ればいいのだろう。


 ずっとここにいなきゃいけないとか、まさかそんなことはないよね?



 :ん?地獄門さんが……

 :フワッと消えたw

 :結局【地獄門】ってなんだったんだろうなw

 :絶対腐敗領域ってあの屁で満たされたくっさい空間のこと言ってたのかな

 :肉体は朽ち果ててたな

 :魂も腐っちゃったのかなw

 :おそろしすぎて草

 :おっさんは平気だったけどな

 :レベル上がった?

 :羅刹天さん、ハーレムの夢絶たれる

 :幼女って何者なんだよ

 :てかどうやってここから出るのw

 :おや?なんか地獄門が消えた場所が歪んで……



 流れるコメント欄をよそに、静かに地獄門が消える様子をポカーンと眺めていたら、そこにまた時空の渦が発生していた。


 よかった!これで現実世界へ戻れそうだ!


 え?戻れるんだよね?


 また違うワケの分からん場所に飛ばされるのは止めてほしい。


 まぁ考えてても仕方ないし、行くしかないんだけどね。



(少し予想してたのとは違う結末だったけど、まぁいいでしょう。帰還しなさい。阿尻ダイシ)



 また偉そうな幼女の声。


 ダンジョンマスター?なのかなんだか知らないが、大人に対する口の聞き方ってものがなってない。


 ちょっと教育が必要かもしれん。


 それにお嬢ちゃんには聞きたいことが山ほどある。


 今行くから大人しく震えながら、そこで待ってろよ!







 時空の渦に飛び込んだ俺は、無事現実世界へ戻ることができた。


 羅刹天の巨大な石像と戦っていた参道。


 転移に少し慣れた俺は、特に気を失うこともなくその場所に立っていた。


 羅刹天の石像はもういない。


 というより、そこは俺とサツキちゃんが上階から落ちてきた時の状態に何故か戻っていた。


 結構派手に木々などをなぎ倒していたはずなのに、何事もなかったかのようにすっかり元通りになっている。


 これも、幼女の力なのかな。



 :お、繋がった

 :こっちで戦ってた形跡がなくなってるw

 :さっき落ちてきた場所で合ってる?

 :また異空間じゃないだろうな

 :ダイシさん元気そうでよかった

 :いやーすごい戦いだったなぁ

 :結局屁で倒したから後味は最悪w

 :【地獄門】は使いどころに困るスキルだな

 :少なくとも仲間がいる場所では怖くて使えない

 :敵味方判定してくれるかもしれんぞ

 :サツキにやってみたら?



 サツキちゃんに【地獄門】使ってみろとか、視聴者さん鬼ですか。


 さすがにそれはやりません。


 まぁ、これからの状況次第ではそういう場面があるかもしれないが。


 基本はギリギリの状況でしか使うつもりはない。


 さて、と。


 ここが元の場所ならこの参道を本堂に向かって歩いて行けば、サツキちゃんがいるはずなのだが……


 あっ、いた。


 本堂の扉の前。3段くらいある階段のところでちょこんと座りながら、黙々と何かを書き込んでいるような姿が見えた。


 なに書いてるんだろう。


 ああ。そういえば彼女はこの西東京第4初級ダンジョンの調査に来てたんだった。


 少し時間ができたから調査記録を書いているのかもしれない。


 色々あったからまとめるのも大変だろうな。


 ……俺の事も、事細かに報告されちゃうのかな。


 まぁそりゃそうなるだろうな。


 ダンジョンもおかしかったけど、俺自身も大概だし。


 それに配信の同接数が今は……えっと、65万人か。


 もうあまり驚かなくなってきたが、リアルタイムで視聴している人の数が65万人って異常過ぎる。


 俺、初心者なのに。


 いくらサツキちゃんの視聴者を奪っているとはいえ、この人数はありえない。


 いろいろな人が視聴していることだろう。


 ギルド本部の人間も、これだけいれば絶対見てる。


 はぁ。


 ここ出たら、俺一体どうなっちゃうんだろうな。


 やっぱ配信とかやめときゃよかったかな。



「おーい、サーツキちゃーん」


「あっ!ダイシさん!」



 少し不安な気持ちを抱えながらも、努めて明るい態度でサツキちゃんの元へ駆け寄る俺。


 あれこれ悩んでいても始まらない。


 今は寺の幼女に事情を聞くことが先決だ。


 サツキちゃんも記録する手を止め、俺を笑顔で迎え入れてくれている。


 進もう、今はとにかく。


 頑張っていれば、きっと明るい未来が待っているはずだ!



「無事でよかったです!どこかケガとかしてません?痛いとことかあったら私が治して……って、くっさぁぁぁぁ!!!」



 ギギギギギギ……



「あっ……」



 自分では気付かなかったが、どうやら俺の体には地獄門の香しき滅風が染みついていたようで、サツキちゃんを悶絶・気絶させてしまった。


 同時に、重い金属が軋むような重低音を奏でた本堂の扉がついに開き、奥の暗闇が俺をあざ笑うかのように手招きしている様子が見てとれた。

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