第40話 開門の刻

Side 冥王


「ふむ。久々にすんごいのが出そうだわい」







 ズズズズズズズ……



 西南獄卒域の地表、そして空気までもが激しく振動を開始している。


 俺の下腹部奥底からもおぞましいなにかが急激に迫る気配がある。


 そしてそれは、どんどんと近づいてきていている!



「……来た!」



 使用法は間違っていなかった!たぶん!


 俺は今、おそらく人生で最も邪悪な屁をぶちかまそうとしている。


 パンツ、大丈夫かな?



「くっ!その技を出させるワケには!」


「もう遅い!」



 ついに準備が整った俺のテッポウと菊門がうなりをあげる!


 喰らえ!我が必殺の究極最終奥義!




 地・獄・門!!








 プッスゥゥゥゥ……





 すーん……





 ……ただの、すかしっぺだった。



「あれ?なんも起こらねぇ……」


「あ、焦らせおって!その無様な姿のままあの世へ逝くがい……っ!!」



 俺の命を奪い去る勢いで急激に迫ってきた羅刹天が、急に止まった姿だけ一瞬見えたような気がした。


 そう、一瞬だけ。


 なぜ見えたのが刹那だけだったのか。


 視界が奪われたからだ。


 突如としてどこからともなく現れた、によって。



 :ガチで門でたぁぁぁwww

 :でっか!

 :これが……地獄門?

 :でもあの使い方絶対間違ってるよねw

 :裏側だからどんな門かよくわからんな

 :てかいつまで埋まってんだよw

 :さっさと足抜けよw

 :おっ!カメラだけ正面周ってくれた!

 :羅刹天が仰天して動けなくなってるの草

 :ほえ~!

 :赤黒くてキモイな

 :ふちはおっさんのケツみたいな彫刻がびっしり

 :なんかおーんおーんって聞こえない?

 :扉ないけど、これどうやって開くんだ?

 :ん?真ん中にでっかい*の印があるな

 :あー確かに中心は*だな

 :あの*、アレに似てる希ガスw

 :ま、まさかあの形って……



 カメラは正面に周ったが、なぜかコメント欄だけは空中映像で見ることができた。


 前から思ってたけど、この配信用カメラってどんな構造してんだろうな。


 すごいハイテクだよね。


 って、今はそんなことどうでもいいか。


 正しい召喚の仕方だったのかは不明だが、とりあえず冥王固有スキル【地獄門】を発動することはできたようだ。


 空気や地表の震えは止まっていた。


 横の幅はそんなでもないが、縦の全長がわからないほど大きくそびえる門の後ろで、俺は埋まっていた両足を抜き、その門の陰からこっそり羅刹天の様子を直接確認してみた。


 なんかすごい汗かいて狼狽えている姿が伺える。


 これから、一体何が起こるというのだろう。


 ヤツは冥王のことを知ってた風だったけど……。


 もしかして、経験済なのかな?



「はああああああ!!!」



 うわっ!なんかめっちゃ気合入れ始めた!


 羅刹天を取り巻く赤紫のオーラが、青白い空間の色と混じってすごいコントラストを醸し出している!


 アレ、絶対本気出してるよね?



「ここは我の空間!冥王の庭ではない!いくら絶対腐敗領域を展開する冥王の地獄門といえど、この場所でなら我が……って、くっさぁぁぁぁ!!」



 正面の門の様子が伺えないので今どういう状況なのかイマイチわからないが、ついに【地獄門】は開いてしまったのだろうか。


 視聴者さん、ちょっと教えてよ。



 :*ヒクヒクしてて草

 :シュールすぎるww

 :もう発動してんの?アレ

 :漏れ出してるだけのような気も……

 :さすがに臭いまでわからんしなぁ

 :苦悶の羅刹天w

 :全開放したらどうなっちゃうのよ

 :おっさんは大丈夫なのか



 なんか微妙に臭う気もするが、別にたいした臭さでもない。


 ナマテッポウ喰った時のほうがはるかにひどかったし。



「くっ!完全開放する前に早く攻撃を……ぼえぇぇ!!」



 仕掛けたいのに臭すぎて近づけない羅刹天さん。


 すっごいしんどそうなんだけど。


 顔、青ざめてきてるし。


 今なら俺でもやれちゃうんじゃないか?



 :あっ……

 :開いた……

 :来るぞ!

 :カメラ大丈夫かぁ?



 なんとか目の端で捉えたコメントから、地獄門が解放されていくことを悟った俺。


 鼻、抑えた方がいいかな?



 スゥゥゥゥ……ブボボボボ……ゴォォォォ



 なんとも形容しがたい、だがとても不快で強烈な空気音が西南獄卒域を支配する!


 ついに、出たのか……


 アレが!滅風ってヤツが!



「……」



 コッソリ門の裏から顔を出して見てみると、もはや声すらあげられず、無言で薄茶色い滅風を浴び続けている羅刹天さん。


 すごい風圧なのに立ち続けているのはすごいと思うが……


 でもアレって多分……。



 :おい見ろ!

 :羅刹天さん、真っ白になっちゃったw

 :返事がない。ただの屍のようだ

 :うげぇ

 :これが滅風……絶対腐敗領域……

 :おぞましすぎて草

 :おっさんはなんで大丈夫なんだよw

 :そこら辺一帯ヤバい臭さだよね?

 :油断するなよ、おっさん!

 :まだ倒しきれてないかもしれない!

 :止め刺せ!



 止め刺せと言われましても。


 まだ滅風は荒れ狂ってるし。


 さすがに匂い大丈夫といっても直接浴びるのは無理だ。勘弁してほしい。


 となると、あのスキルをもう一回使ってみるしかないか。


 アレなら遠距離でもイケるし。


 とにかくここからこっそり放ってすぐに身を隠そうか。


 なるべく安全に。命大事にだ。


 よし!それでは!



「火葬!」



 もはや練り上げるまでもなく、右手だけ門の裏からちょこっと出していつもの火葬を羅刹天に対して繰り出した!


 さっきは効かなかったけど、抜け殻みたいになってる今なら……


 ん?


 なんか超音波みたいなキィィンという甲高い音が羅刹天さんのほうから聞こえる気がするけど……。


 火葬は別にそんな音出ないし。


 一体何の音かな……


 あ、そういえば。



 :ここで火葬はアカンてぇぇぇ!!!



 オナラって、ガスだった。

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