第39話

 ダンジョンマスターって、この西東京第4初級ダンジョンの責任者ポジの人?


 支店長?はたまた支社長的な……エリアマネージャーか!?


 まさか全ダンジョンの責任者、社長ってことはないよね?


 幼女だったし。


 でも、俺たちの世界では、ってはどういうことなんだろうか。


 疑問点ばかりで頭がハテナで埋め尽くされる。


 ちょっと一個一個説明してほしいんだけど……



「無駄話はここまでだ。いくぞ」



 うわっ!もう襲い掛かってきた!


 まだ話途中だぞ!


 やべっ!速っ!



「ふんっ!」


「うわっ!」



 俺は回避を選択できず、正面から羅刹天が繰り出した拳撃を両腕でガードした。


 見た目がさっきよりはるかに小さくなっているから、受け止めるなんざ余裕だと思ったけど、甘かった!


 このパンチは、さっき寺で石像に踏みつけられた時よりさらに重い!


 羅刹天の加重と圧で、踏ん張った両足の地面に亀裂が入り、俺の体がわずかに沈む!



「魂の選定域では後塵を拝したが、今の貴様は脆弱なる人の身。この領域において我が負ける道理なし」


「!!」



 厨二病みたいな意味の分からないセリフを吐きながらも、さらに俺を押し込んでくる羅刹天。


 メリメリと地面の中へ俺の両足がめり込んでいく。


 もう両膝まで埋まってしまってる!



「貴様を倒せば、この姿のまま現世へ顕現させてくれるとの、主との契約だ」


「くっ!」



 さっきからなにワケのわからんことばっか言って……。


 くそっ!でもコイツ……強ぇ!



「選定者を続けるのにもいささか飽きた」



 そう言って、羅刹天は俺を押し込む動作を止め、空中へと飛び上がる!


 両手に赤紫の波動が生じ、唸りを上げ始める!


 アレもらったら絶対終わる!


 先に攻撃を仕掛けるしかない!



「火葬!」



 羅刹天が浮かぶ空中へ対空の火葬を放つ俺。


 だが……



「ぬるいな、人の灯は」



 なっ!


 まったく効いてない!


 くそっ!次!



「成仏!」



 効くかどうかより畳みかけることを優先した!


 スキルのレベルが上がっている効能なのか、【成仏】の光は虹色の眩い光を放っていた。



「なんの演出かな?これは」



 おいおい。ディスコのミラーボールじゃないっての。


 やっぱアンデットじゃないと効かないか!


 平然としてやがる!



「散れ、人間」



 羅刹天が腕を振り、練り上げた赤紫のオーラを1つ飛ばしてきた!


 よしっ!これなら!



「応報!」



 俺を覆うように正多面体の光の壁が展開する。


 こちらも、スキレベ1の時は正面のみの反射光だったのが、今は360度自分を囲むように発生していた。


 これもレベルアップの効用か!


 よし!このままいつもみたいに跳ね返して……



「ふむ。面白い技を使う……。だが」


「えっ?」



 ミシミシミシ……


 パキーン!!



「う、うそやん……」


「ここは我が領域。人の概念ではない世界」



 派手に割れた。


 俺の、応報が……。



「割れただけか。我もまだまだ青いな」



 :なぁ、これ……

 :おっさんが、負ける?

 :嘘やろ……

 :アイツ強すぎだわ

 :厨二病筋肉ダルマのクセに!

 :カンスト意味ねぇじゃん!

 :頑張れ、おっさん!

 :負けるんじゃないぞ!

 :羅刹天よりダイシさんのほうがかっこいいよ!

 :まだだ!まだ終わらんよ!

 :葬拳かましたれ!



 コメント欄をチラ見している隙に、羅刹天が空中から一気に俺との間合いを詰めてきた!


 俺は地面に足が埋まっていて咄嗟に動けない!


 赤紫のオーラを纏った拳で次は殴られる!


 アレはガードしてもおそらくそのまま粉砕されてしまう可能性もある!


 ならばっ!


 集中して見切るんだ!


 カウンターで最強の拳を喰らわせてやる!



「我の夢、現実でいちゃいちゃハーレム大作戦決行のため、貴様はこの地で派手に散るがいい!!」


「うおおおお!!!」



 無我夢中だったからなのか、自然と霊視も同時に発動していた。


 何故かほんの少しだけ、俺に繋がる光の糸のようなものが見えた気がした。


 他に頼れるものもなかった俺は、その糸が羅刹天の攻撃軌道予測だと信じ、それに合わせるような形で身体を捻って反撃の態勢をとった!



「葬拳!」


「なにっ!」



 オーラが乗った羅刹天の拳を間一髪で躱しながら、固定された地面の捻転を利用して強烈なカウンター葬拳を羅刹天にお見舞いしてやった!



「ぐっ!!」



 すさまじい破壊音とともに、数m後方まで吹っ飛ぶ羅刹天。


 痺れる右腕。手ごたえは確かにあった。


 だが……。



「消滅の波動を流し込む拳撃か。この領域でなければ粉微塵だったな」


「マ、マジか……」



 無傷だった。


 ラビリンスゾーンを壊滅させたあのビームみたいヤツ、出なかった。


 これは本気でやばい。



「その表情はもう手がなさそうだな。大人しくしておれば楽に片づけてやるぞ」


「……」



 ゆっくりと俺に近づきながらそう言い放つ羅刹天。



 ……いや、手がないわけじゃない。


 もう一つ、とっておきがある。


 できれば永久にとっておきたかったけど、今は完全に命の危機だ。


 このままじゃ勝てない。


 もう、アレを使うしかないだろう。


 でもアレってどうやって使えばいいんだろうか。


 イメージはなんとなくできるんだけど……。


 ええい!四の五の考えても始まらない!


 完全に思い付きだが、とりあえずあの構えでやってみるしかない!



「貴様……。我を愚弄しておるのか」


「俺はいつだって本気だよ!」



 と、かっこつけて言ってはみたものの、実際の構えは身体を捻り、羅刹天にむけてケツを突き出した、相手にとって非常に舐めた体勢をとっていた俺。


 確かにバカにしてると感じるかもしれないが、今の俺にはこれしか思いつかねぇんだよぉ!



 :ついにアレをやる時がきてしまったのか

 :いや使い方w

 :それで合ってんの?w

 :やるのか、本当に

 :もうやるしかないだろ

 :地獄門vs西南獄卒域

 :冥王vs羅刹天

 :頂上決戦、だな



 俺は自分のケツにすべての思いを託し、集中力を研ぎ澄ます。


 心なしか下腹部が熱くなっている……ような気がした。


 ねぇ、使い方これで正しい?本当に正しいの?



「な、なんだ……この禍々しきオーラは!これはまるで……まさか!冥王の……!」



 羅刹天がたじろいでいる。


 使用法、合ってる臭い!


 ならばこのまま下腹部に神経を集中し続けよう!


 頼む!地獄門よ!


 俺に完全勝利をもたらしてくれ!



「……来る!」



 ゴゴゴゴゴゴ……



 ついに、地獄の門が開く。

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