第38話

 :ちょwwww

 :投げたーww

 :なんだこの戦いw

 :脳筋僧侶vs鬼神像

 :もはや僧侶関係なくねぇか?

 :ただの怪獣対決ww

 :サツキたん大丈夫ー??

 :おっさん!絶対サツキ守れよ!



 参道と脇に茂っていた木々たちを次々なぎ倒しながら、大きな衝突音とともに背中から地面に打ち付けられていく巨大な鬼神像。


 正直死ぬかと思ったが、思いっきり力を込めて、鬼神の踏みつけを受け止めたらなんとかなった。


 そのまま勢いでぶん回して投げてしまったけど、案外飛んでくれてよかった。


 ステータスカンストはやはり次元が違う。



「サツキちゃんはここで待ってて」


「え、ええ……。ちょっと私にはついて行けないです」


「なるべく離れて戦うから」


「……勝てそうですか?アレ、ダンジョンとかそういうの関係ない、タダの化物のような気がします」



 俺もそれはなんとなく理解してる。


 霊視はほぼ効果を発揮していなかった。


 これが最終試練ってヤツなのだろう。


 ……って、なんの試練なんだ?コレ。


 俺を強くするための試練なのか?なんのために……


 思えばここまでの道のり、確かに都合のよすぎる展開が多すぎた。


 スライムから始まって、あの羅刹天の像を投げ飛ばすまで。


 途中なんか訳のわからんホルモンまで食わされて……。


 なんとかしてきたようで、なんとかなってただけの気がする。


 いずれにしても、あの鬼神像は必ず倒さなくてはならない。


 そして、アイツを倒せば、たまに俺の脳に直接語り掛けてきた、例の幼女の正体もわかると思う。


 っていうか、本堂の中におそらくいるんだろうな。


 その幼女ならすべてを知っているはず。


 いや、その幼女こそがおそらくコレを仕組んだ張本人。


 絶対勝って、問い詰めなきゃならない。


 ロリハラにならないように、な!



「それじゃあ行って来る!」


「絶対生きて帰ってきてくださいね!ダイシさん!」



 サツキちゃんから離れてすぐに、俺はすでに起き上がりつつある鬼神像のもとまで超スピードで移動した。


 まぁ、そんな大した距離じゃないんだけどね。



「グブブブ……まさか、投げ飛ばされる、とはな」


「なぁ、鬼神さんよ。お前、あの本堂壊しちゃいけないんだろ?」


「貴様、何故、それを、知っている……」


「やっぱりか。あの中に雇い主がいるんだよな?少し場所を移さないか?」



 デカすぎて顔を見て話せないので、俺は鬼神の下半身の辺りを見上げて、ちょっとかっこつけながらそんなことを提案してみた。


 下半身も、案外鬼神だった。


 けど、どこに行けばいいのだろうか。


 えっ?ほかに広い場所、あるよね?



「元より、その、つもりだ」


「あ、そうなんだ。話が早くて助かるよ」



 元からって。


 絶対踏みつけて瞬殺するつもりだっただろ、アンタ。


 意外に負けず嫌いなのかな?この鬼神さんは。



「んで、どこに行けばいいんだ?」



 アンタが現れた寺の裏手のほうか?


 それとも参道を下に下った平野部のほうか?


 どこでもやってやるぞ!


 サツキちゃんに危険が及ばない場所なら、どこへでも……



「グブブ……我が、『西南獄卒域』、でな」


「えっ?」


「次元、歪曲、展開」



 切れ切れの話し方でそうつぶやいた羅刹天の像は、右手で印を組み、空間を歪ませる!


 こ、これは!



 :ウサギの時のアレとそっくりだ!

 :転移か!

 :アデスの死葬冥域みたいなヤツか!

 :たぶん羅刹天が本気を出せる場所

 :通信切れないかなぁ

 :なんか見たことある形の印組んでるw

 :ダイシ君、気を付けて!

 :サツキたんを巻き込むなよ!

 :吸い込まれるぞ!



 最近ちょっと確認してなかったが、同接数はなんか急激に増えて一気に50万人に達していた。


 コメント欄は収拾がついていないので、なにが書いてあるかよくわからない。


 ああ、この感じ。


 時空ウサギに冥葬級に飛ばされた時とまったく同じだ。


 意識が遠ざかりそうになっていく。


 いや、ダメだ!


 前はサツキちゃんがいてくれたからよかったけど、今回は1人。


 絶対に気を失うわけにはいかない!


 意識を強く保て!自我をはっきりさせろ!


 俺は、阿尻ダイシ!


 元社畜で、今は最強の僧侶だ!!



「グブブブ……では、あちらで、会おう」



 羅刹天の言葉が遠くから聞こえた、ような気がした。


 すでに俺は時空の渦に吸い込まれている。


 なんか走馬灯が視えているような……いやいや、これがイカンやつだ!


 これは、現実だ!



 ブンッ



「はっ!」



 無意識に吸い込まれそうになりながらも、俺はなんとか気を失わずに時空の壁を越えた。


 よし!なんか大丈夫だったみたいだ!


 でも、ここは……。



「我が西南獄卒域へようこそ、阿尻ダイシ。ここは君の人生が終わる場所だ」



 青と白の絵の具を水に溶け込ませたような歪んだ空間。


 一応地面はあるようだ。踏みしめているような感覚はある。


 距離感はわからないが、目の前の少し先の地点から俺に死の宣告をしてくる人物がいる。



「お前は……」


「さっきは投げ飛ばしてくれてありがとう。少し肝が冷えたよ」



 羅刹天の像、なのか……。


 でも見た目が……。



現実あっちだとあの姿でしか顕現できないようでな。困ったものだ」



 :さす…がに……今……回は見れそうもな……あっ!

 :きたきたきたぁ!

 :見れたぁ!

 :おっしゃ!

 :ダイシや!

 :おーい生きてるかー

 :ん?だれやあの筋肉ダルマ

 :角生えてない?鬼?

 :牙もすげー!けど……

 :イケメンきたーw

 :もしや羅刹天さんですか?

 :ステキやん



 ……この自動追尾カメラ、一体どうなってんの?


 こんなところまで着いて来るなんて。


 もう俺の体の一部と言われても信じてしまいそうだ。


 ちなみに俺の武器、木の杖はこの転移では着いて来れなかったらしい。


 まぁ別に全然なくていいんだけど。


 格好だけそれっぽくするために今まで使ってきたたけど、たぶん杖がなくてもスキルは使えるし。


 って、いやいやそんなことより……。



「アンタはさっき寺で戦ってた羅刹天の像なのか?」


「羅刹天。像ではない」


「よくわかんないんだけど、これが最終試練なの?」


「最終試練?我はその事情を知らないが……。主にそう言われたのか?」



 いや、機械に言われただけなんだけど。


 アレも実は主(幼女)の一部だったのかな?


 寺の中からも最終試練は外でやれとかなんとか言ってたし。



「言われたといえばそんな気もする。主って幼女でいいんだよね?」


「なっ!よ、幼女だと!?貴様、主を愚弄しているのか!」



 なんか微妙に話が噛み合ってないな。


 幼女じゃないの?お前が主とか言ってる、あの寺にいるヤツは。



「ん?違うの?じゃあ主って一体……」


「ダンジョンマスター」


「はい?」


「お前たちの世界では、あのお方はそう呼称されているはずだ」



 ……ダンジョンマスターって、なに?

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