第35話

「ダイシさん。ここはとりあえず一旦協力しませんか?」



 俺の隣まで戻ってきていたサツキちゃんが、ゴルエちゃんを倒すための提案を持ちかけてきた。


 目的のゴールデンエンペラースライムは出口付近まで後退。


 心なしか、遠くからこちらを嘲笑っているかのような表情をしているように見える。


 なんか腹立つ。



「策はあるの?」


「あのスライムだって魔物。動きにパターンがあると思うんです」


「パターン?」


「はい。基本的に強敵と戦う時はそのパターンを戦闘前、あるいは戦闘中に把握して倒すっていうのが難易度の高いダンジョンを攻略する秘訣なんです」



 まぁゲームでも確かにそうだよな。


 難しい敵ほどギミックが複雑で、攻略情報とか読まなかったら基本クリアとかできないもんな。


 ああ。


 ちょっとこじつけかもしれないが、サラリーマンもそんなようなものだ。


 敵(客)を知るってのは万事において基本行為だ。



「あの金ぴかスライムの攻略情報ってなんかあるの?」


「いえ。なんせ勇者PTしか倒してませんからね。事前の情報はありません」



 そらそうか。



「相手の攻撃でやられることはほぼありえません。なのでこれから戦いながらその情報を集めます。ダイシさんも手伝ってください。勝負はその後ってことでどうですか?」



 :サツキはおっさん利用しようとしてるだけだぞ

 :その提案はNOだ

 :「あ、ごめ~ん。間違えて倒しちゃった。テヘペロ」とか言う

 :こんなチャンスはまずないからね

 :サツキたんはそんなことしない!

 :サツキたんに譲れよおっさん!

 :サツキがレベル上がってもつまらん

 :おっさんの無双を見せろよ

 :おっさんなら一人でやれる



 まぁサツキちゃんが俺を利用しようとしてるってのは、たぶんそうだろう。


 これまでの経験からそれはなんとなくわかる。


 でもどうだろう。


 ここまで俺ばっかり強くなって少し申し訳ない気持ちは確かにあるんだ。


 色々あったけど、サツキちゃんだってここまで必死に頑張ってきた。


 特大経験値は魅力的だけど、ここは別に譲ってもいいかな。


 俺、大人だし。


 本当は素直にお願いされれば気持ちよくサポートしたんだけどな。


 まだ子供だな、サツキちゃんは。



「OK。それじゃあどうすればいい?」


「とりあえず私がアイツを追いかけまわしますから、ダイシさんはデータ取ってくれませんか?」



 そう言って、サツキちゃんはメモ帳とペンを渡してきた。



「部屋の間取り図を簡単に描いて、アイツが移動した位置を記録していってください。何回やればいいかわかりませんけど、それで少しはパターンが見えるかもしれません」


「わ、わかった」


「できればそのデータを使って解析も同時にやって……って、その表情は無理ってことですね」


「うん」


「まぁいいですよ。とりあえずデータをとりましょう」



 少しあきれた感じで再びゴルエちゃんに対峙するサツキちゃん。


 解析も同時にやるとか無理に決まってるでしょ。


 あんなすごいスピードで動き回るサツキちゃんとゴルエちゃんを目で追うだけでも絶対大変なのに。


 いや、ゴルエちゃんは目で追えないけど。


 俺の事務処理能力はそんなに高くないです。



 :スライムの逃げたポイントに点をつけていけばいいよ

 :瞬間移動だし線では追えない

 :サツキはそのくらい戦いながら計算するでしょ

 :おっさんを動けなくする罠

 :悪知恵の働く女だ

 :ねぇ【地獄門】使ってよ

 :データ取りとか見ててつまらん

 :冥王の固有スキルとか胸熱

 :でもおならなんでしょ?

 :開門ってワードが強すぎる

 :絶対開けちゃいけない門だと思う

 :地獄どころの騒ぎじゃなくなりそう

 :気になって仕方がない



 地獄門を使ってほしい願望が目に飛び込むが、勘弁してほしい。


 このスキルは死ぬか生きるかの瀬戸際じゃないと使うつもりはない。


 が出てくるとは限らない。



「間取り図描けました?」


「あ、ああ」


「それじゃ行きますね!見落とさないでくださいよ!」



 間取り図っていっても円と入口と出口描くだけだからもう書いてた。


 あとはこれに点を打っていくだけだな。


 まぁちょっと納得いかないこともあるけれど、ここはサツキちゃんの活躍でもゆっくり見させてもらうとしますか!







「はぁはぁ……なんで出現位置は特定できてるのに攻撃当たらないのよ……」



 息を切らしたサツキちゃんが部屋の中央で息を切らしてぼやいている。


 それをあざ笑うかのように、出口付近から俺たちの様子を伺うゴルエちゃん。


 もう10分くらいだろうか。


 サツキちゃんが何度もゴルエちゃんに切りかかっては避けられを繰り返したのは。


 俺がとっていたデータはもう全く参考にする様子もない。


 っていうか、動きが速すぎてまったく記録出来てなかったんだけどね。


 メモ帳に描いた間取り図に適当に点打ってたら途中からぐちゃぐちゃになったんで、そのメモは早いうちにクシャクシャに丸めて足元にポイしていた。



「ダイシさん!」


「な、なに?」


「次は入口付近に移動するはずですから、そこでアイツを捕まえてください!」



 はぁ?



 :もう完全に1人でやる気マンマンじゃねぇかw

 :結局おっさんに協力させてるw

 :最初から素直にそう言えよw



 まったくだ。


 彼女は人に頭を下げることを知らないらしい。


 まぁいいけど。


 でも捕まえられるかな。


 出てきた瞬間に思いっきり抱きしめればいいのかな?


 腕力あるからイケそうだけど、俺は魔物と抱擁する趣味は別にない。



「サツキちゃん!この位置でいいかな?」


「はぁはぁ……オッケーです……。おりゃあ!」



 サツキちゃんが今までとは違った掛け声で再びゴルエちゃんに仕掛ける。


 ゴルエちゃんは当然瞬間移動し……


 来た!俺の目の前!



「ふんっ!」


「プギャ」



 捕らえた!


 右手と左手で挟み込む形で捕まえられた!


 抱きしめなくてよかった!


 てかなんだその声。プギャって。


 キャラと全然違うじゃねぇか。



「はああああああ!!!!」


「ちょちょちょちょ!!」



 鬼の形相で俺に捕まったゴルエちゃんに迫るサツキちゃん!


 ただその勢いは確実に俺まで両断しそうな激しさに見えた!



「チェストぉぉぉぉ!!!」


「プギャアアアアア!!!」



 薩摩藩士顔負けの雄たけびとともに、俺の鼻先をかすめたサツキちゃんのクリティカルがゴルエちゃんに炸裂する!


 断末魔の叫びとともに真っ二つに分かたれるゴルエちゃん。


 そして……



 キラキラキラキラ……



 砂金を宙にまき散らしたようなに、ゴルエちゃんはサツキちゃんの手によりあの世へと旅立って行った。



「や、やったぁぁぁぁ!!!」


「……死ぬかと思った」


「ダイシさんごと斬るワケないじゃないですか!」


「恨みを感じた」


「いや、そんな。あはは……って、そんなことより私のレベル!」



 ん?あれ?


 いつものように俺の前に見慣れた例のアノ画面が映し出される。


 これって、まさか……



『ダイシはレベルがあがった』



 なんで?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る