第32話

 冥王の生テッポウ(直腸)が立ちはだかった。



 :なんかすごい存在感だな……

 :デロンデロンじゃねぇかw

 :臭そう

 :臭気が漂ってる

 :邪気だろw

 :えっ?これ戦う流れなの??

 :食べないの?

 :生直腸はキツイww

 :どの程度下処理できてるかによるな



 これはさすがに食えんだろ。


 腹いっぱい以前にそもそもそのまま食っていいもんじゃない。


 生レバーとは次元が違う。



「これ、どういう流れなんでしょうか……」


「さぁ……。食べないと先へは行かせないってことじゃないよね……さすがに」


 

 サツキちゃんも俺も少し困惑している。


 そういえば、こないだみたいに無理やり食べさせたりしないんだね、サツキちゃん。


 あ、配信できてないからか。


 それとも今の俺が結構強いから反撃を恐れてるのかな。


 いずれにしても、マジで勘弁してほしい。



「火葬で焼けないですか?」


「火葬で焼いたら灰になっちゃうよ?」


「食べる気、あります?」


「ない!!」



 特殊なスキルってのは魅力的だが、今の俺にこれ以上スキルが身についても使いこなせる自信がない。


 まぁ、惜しくないっちゃ嘘になるけど、アレ食うよりはマシ。


 邪魔だからパパっと焼いちゃいますか。


 でも今の火葬は効果範囲が広いからここに迷惑かけないかな。


 それだけがちょっと心配だ。


 チラッとライカさんに目線をやってみる。



「火系のスキル使うんでしょうけど、ここの機材は特別性だから燃えないわよ。あ、料理は元が魔物だから焼けちゃうでしょうけど、別に問題ないから。とっととやっちゃって!」



 部屋の主からもお許しが出た。


 それなら早速……



「ライカさんとサツキちゃんは俺の後ろへ」


「う、うん!」


「じゃあ行くよ!火葬!!」



 杖を掲げ、高速で練り上げた【火葬】を対象に向けて発動した!


 大変申し訳なかったが、ここにあった料理の類は一瞬で灰に。


 機材とか机とかは確かに無事だった。


 サツキちゃんとライカさんも灰になってはいない。


 本命の生テッポウは……。


 乗っていた机も皿も対象の臓物も、まったく熱傷ひとつ負ってなかった。



「冥王の直腸……おそるべし」


「まるで変化なしですね。生のまんまですし」


「ちょっとなんなのよ!もう!あの気持ち悪いの!!」



 ライカさんが怒っている。


 気持ちはわかる。



「成仏、やってみるわ」


「はい。お願いします」



 続けて【成仏】を使ってみたが、明るいグルメルームがさらに明るくなっただけで、気持ち悪い臓物がさらにはっきり見えて、余計気分が悪くなった。



「もうしょうがないから葬拳でバババっと……」


「それはさすがにこの部屋ヤバくないですか?」


「そ、そうだね……」



 あのスキルは規格外が過ぎるので、よっぽどの事がない限り使わないほうがいいだろう。


 MP消費も重そうだし。



「ってことはやっぱり……」


「食べろってことなんでしょうね……」


(もう!せっかく用意してあげたんだからとっとと食べなさいよ!死にゃしないわよ!)



 ん?あれ?


 なんか一瞬すごい可愛らしい幼女みたいな声が聞こえたような……


 気のせいかな。



「ダイシ君がアレを食べればいいだけなのね?」


「はい。い、いや。まぁ、おそらく……」


「わかったわ。究極の臭み消しを施してあげるから、アレ、ちゃっちゃと食べちゃってくれない?」



 食べるしかないなら、せめて臭み消しと一緒に見た目もなんとかしてほしいんだけど……。



「特殊調理スキル、消臭パワーEX発動!」



 CMのキャッチコピーみたいなスキル名を発しながら、ライカさんが手をかざす。


 すると……



「わぁ!キレイ!!」


「ほえ~。なんかキラキラしてる~」



 森のそよ風のような淡く優しい香りが部屋を満たし、心を落ち着かせる。


 薄緑の光が、冥王の生テッポウの放つ邪悪さを少しだけ和らげているように見えた。



「たぶんすぐに効果切れちゃうから今のうちに!」


「ダイシさん!」


「くっ!もうなるようになれ!」



 俺は小走りに対象物に近づき、そして……



「うおおおおおお!」



 気合が必要だった。食べるには。


 口を大きく開け、一気にソレを頬張る。


 正直噛まずにそのまま呑み込みたかったけど、それが可能なサイズではなかった。


 一噛み。二噛み。


 ……


 く、くせぇ。涙出る。


 でも、あれ?臭いけど、なんか……この臭さが……いい!


 一瞬抵抗感があったけどこれは……。


 噛めば噛むほど奥から旨味成分が増してきて、脳が喜んでる感じがする。


 そういえば俺、案外クサヤとかブルーチーズ、好きだったわ。



「だ、大丈夫ですか?ダイシさん」


「いやこれ、めっちゃうまいよ!」


「う、嘘でしょ……」



 :嘘やんwww

 :ナマ直腸やぞwwww

 :うん〇ついてなかった?

 :ゲテモノ食いのダイシ

 :うえぇ

 :ちょっと、トイレ……

 :さすが我らが阿尻ダイシ!グッジョブ!



『捕食完了を確認。冥王の固有スキルを1つ移管します』



 おっ!レバー食った時と同じように表示画面がまた映し出される。


 どうやらスキルをひとつ獲得できたらしい。


 しかも表記的には冥王のスキル1個奪ったっぽい!


 早速見てみるか!



―――――――――――

名前 阿尻 ダイシ

職業 僧侶そうりょ

レベル 10


HP 350/350

MP 200/200


腕力 999

体力 400

敏捷 180

精神 131

葬力 999


スキル 

 【葬拳 LV1】【応報 LV1】【成仏 LV1】【回帰 LV2】【火葬 LV2】【霊視 LV4】


固有スキル

 【地獄門】

―――――――――――



 地獄門ってすごい物騒な名前だな。


 説明もついでに見とくか。



【地獄門】:開門し腐に満ちた地獄の滅風が吹き荒ぶ



 いや、これ。


 たぶん使うことないな。


 イメージ悪すぎる。



「どんなスキルでした?」


「たぶん、強烈な屁」


「……」


「……」


「次、行きましょうか……」


「そうだね……」



 実際使ってみないとわからないけど、説明書きを素直に解釈するとそうだと決めつけた俺は、出口を塞いでいた小机と皿がすでに消えていることを確認し、若干がっかりしながらも次のステージへと進むのであった。

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