第31話

「ダイシさん、アレって……」


「たぶんアレ、だよね……」


「えっ?アナタたちアレがなんなのか知ってるの?」



 確証があるワケではなかった。


 ただの経験則。違う可能性だってある。


 でもサツキちゃんの反応を見た感じ、彼女もアレの雰囲気に見覚えがあるかのような態度を見せている。



「アレ、どこにあったんですか?」


「どこにもなにも……。アレ、私がここに来た時からずっとあの状態であそこに鎮座してるの。動かせないのよ」



 ライカさんの話によると、最初から皿まで用意されていたらしい。



「切ったり焼いたり色々やってみたんだけどね。まったく受け付けなくて。小机も皿も動かせないから、あのまま置いておくしかなかったのよ」



 あのまま……。


 少し遠い位置だが見た目はなんとなくわかる。


 この間と同様、たぶんナマだ。


 そしてあの少し黄色がかった白いひだが重なったような、薄皮を繋ぎ合わせたような物体はおそらく……。



 :臓・物・再・臨!

 :なんか見たことあるぞ、この展開w

 :あれ腸かな?

 :まぁ内臓のどっかだろうな

 :まさかまた……

 :誰だよwこんなとこに用意してんのww

 :もはや食べろと言わんばかりだな

 :Oh god, that stinks!(くさっ!)

 :アレ食べたらまたなんか開眼しちゃんじゃないの?

 :さぁどうする!我らがダイシ!!



「霊視!」



 たまらず霊視した。



【冥王の生テッポウ】(激レア):食べると冥府の特別な力が目を覚ます。臭いは気になるがコリコリの触感がクセになる



「生……テッポウ……」


「直腸、ですね……」



 サツキちゃんも鑑定スキルで視ていたらしい。


 この食レポみたいなヤツはだれが書いてんだよ。



「と、とりあえず後にしよう!」


「そ、そうですね!」



 俺とサツキちゃんの意見は一致した。



「なんかよくわかんないけど……。私の料理を食べる覚悟は決まった?味は保証するから、ここは思い切ってしっかり食べてってね!」



 四の五の考えていても始まらない。


 どうせ食べないと出られないんだ。


 生テッポウを食べるかどうかはあとで考える。


 今はとにかく腹減ったし、せっかく作ってくれたこの素晴らしい料理たちを堪能したいと思う。



「それじゃ、いただきます!」



 食事前の儀礼を済ませ、俺はさっそく霊視で確認した中で一番気になっていた、イカルゴの刺身から手始めに食べることにした。


 箸を逆に持ち、自分の小皿に盛る。


 透き通った白い切り身。


 見た目は完全に赤いかの刺身だ。


 臭いもなく、箸で持った時の心地よい弾力が食欲をそそる。


 社畜時代、ひとり晩酌をする時よく近くのスーパーで半額シールを張られた瞬間に買っていた時のことを思い出した。



「あ、しょうゆはそこに置いてあるから。適当に使って」

 


 刺身用の小皿もあったので、それにしょうゆを注ぎ刺身をチョンチョン。


 いい感じに黒い液体を纏ったイカルゴの刺身を3,4枚一気に口へ運ぶ。



「あぁ……酒、飲みてぇ」



 うますぎた。


 日本酒が恋しくなる。



「ゴメンね。お酒は置いてないから」



 そんな贅沢は言わない。


 この刺身だけでも幸福感は絶大だ。



 :おっさんが刺身食う映像見せられてるの草

 :食レポいらねぇからな

 :酒とか贅沢やわ

 :ステがどうなったかだけ解説して

 :激下がりしてたら笑うw

 :ピンポイントでMP回復したらいいね



 そうだった。


 ステータス下がってるかもしれないんだったな。


 とりあえず一口で命持っていかれなくてよかった。


 感覚的にはなにも変わらないが、果たしてどうなったのだろうか。



―――――――――――

名前 阿尻 ダイシ

職業 僧侶そうりょ

レベル 10


HP 350/350

MP 200/200


腕力 999

体力 400

敏捷 180

精神 131(+1)

葬力 999


スキル 

 【葬拳 LV1】【応報 LV1】【成仏 LV1】【回帰 LV2】【火葬 LV2】【霊視 LV4】

―――――――――――



 うわっ!MP全快した!


 申し訳程度に精神も1上がってる!


 なんてツイてるんだ、俺は。



「いや、ちょ!やめてよぉ」



 サツキちゃんが半泣きで天を仰いでいる。



「えっ?なに食べたらどうなったの?」


「イノーシシの丸焼き。一口食べたら体力-10……」


「ど、どんまい……」


「ダイシさんはどうでした?」


「MP全快。精神も+1」


「どれ?どれ食べたんですか!?」


「このイカっぽいやつだけど……うわっ!」


「私もソレ食べます!」



 半ば強制的に俺の食べていたイカルゴの皿を強奪し、しょうゆもつけずに3切れほどほおばるサツキちゃん。



「これで私のMPも……ってなんでなのよぉ!!」


「えっ?まさか……」


「最大MP-50……」


「ど、どんまい……」



 食べるもので決まってるワケじゃなさそうだ。


 1口食べるごとにランダムで決まる感じか。



「もうこうなったらヤケクソよ!」



 サツキちゃんが暴走した。


 片っ端から料理を皿にてんこ盛りすると、それを一気に食べ始めた。



「ちょっとお行儀悪いわよ!サツキ!」


「もうなるようになれぇ!」



 まぁ考えても仕方ないことだけど、せっかくの絶品料理なのに。もったいない。


 俺は味わって食べることにした。







「ふぃ~食った食ったぁ」


「はぁはぁはぁ……」



 大満足の俺をよそに、息遣いが荒くなっているサツキちゃん。


 結局、俺がその後食べた料理はステータスの変動を起こさなかったみたいで、MP全回復と精神+1でこのミッションを終えた。


 サツキちゃんもなんだかんだステータスの上下を繰り返していたようだが、最後はMPを少し回復して満腹になったようだ。


 大事故にならなくてよかった。



「うん!二人ともお腹いっぱいみたいね!特に何事もなくてよかったよかった」


「寿命、縮みましたけどね……」



 サツキちゃんはメンタル的に少しダメージを負った感じだ。


 まぁ、気持ちはわかる。



「それじゃ、これ、片づけちゃうからアナタ達は次の階層に……」


「ねぇダイシさん。アレ、忘れてないですか?」


「あっ」



 絶品料理を堪能してて忘れてた。


 そういやアレがまだ残っていたな……。


 腹、いっぱいなんだけど。



「なんか、出口ふさいでますね。あの臓物」


「どうやって移動したんだよ……しかも小机と皿ごと……」



 何故かはわからないが、冥王の生テッポウが下層へ降りる階段の出口の前で、俺たちの行く手を阻んでいた。

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