第29話

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名前 阿尻 ダイシ

職業 僧侶そうりょ

レベル 10


HP 350/350

MP   0/200


腕力 999

体力 400

敏捷 180

精神 130

葬力 999


スキル 

 【葬拳 LV1】【応報 LV1】【成仏 LV1】【回帰 LV2】【火葬 LV2】【霊視 LV4】

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「なんで冥葬級でレベル上がった時にMP上げなかったんですか!」



 ラビリンスゾーンを突破し、地下への階段を降りる俺とサツキちゃん。


 迷宮を破壊し尽くしてしまった俺は、ふと自分のMPがどうなったか気になり、ステータス画面をオープンしていた。



「い、いや。これまでの経験から……」


「腕力999も入ります?もっと考えてやらなきゃダメじゃないですか!」



 なんで怒られてんの?俺、頑張ったのに。


 別にスキル使えなくても腕力999なら余裕でしょ。


 体力も多めにつけたし。近接戦闘もやれるようになってるはず。


 脳筋ワンパン一撃必殺で軽くやっちゃいますよ。


 ……でも、なんでMP0になっちゃったんだろうなぁ。


 【回帰】か【葬拳】のどっちかの消費が重すぎただけだとは思うけど。


 どっちが重かったんだろ。


 どちらもヤバいスキルだから全然わからん。


 ちなみにラビリンスゾーンでレベルは上がらなかった。


 壁だけじゃなく魔物やトラップなんかも同時に葬送してたっぽかったんだけど。


 弱い魔物しかいなかったのかな?


 瓦礫の山を越えている最中に転がっていた魔物らしき亡骸は、原型がなさすぎてなにを倒してたかまではわからなかった。


 見た目だけ豪華で中身がなかったパターン?



 :冥葬級超えてから調子乗ってない?

 :ウサギも言ってたがステータスとかスキルだけじゃないぞ、ダンジョン探索は。

 :能力を過信してはいけない

 :ていうか、深海超鉱石回収しとけよw

 :超レア石なのに(笑)

 :お宝もいいのあったかもしれん

 :あんな超破壊行為してもうたら、ボケっとしてまう気持ちはわからんでもない

 :探索者失格だぞ、お二人さん

 :なんとなくうまくいってるけど、そろそろ落とし穴ありそう

 :都合がよすぎるよな

 :仕組まれてる感すらあるw

 :おっさん専用ダンジョンなの?ここ

 :5年前になにかあったんじゃ……

 :ダイシさんイケメンだから大丈夫よ

 :ダンジョン破壊もかっこよかったよ!



 視聴者さんから色々な苦言やアドバイスをいただけているようだが、イケメンの文字がひと際輝いて見えてそれしか頭に入っていなかった。


 思わずニヤついてしまう。



「またコメント欄見て……なにニヤついているんですか……ぐぅ~」



 ん?ぐぅ~って、サツキちゃんの腹からなんか聞こえたな。


 あっ?


 もしかして、お腹空いたのか!



「わっ!ちょ!違いますって!」


「違うってなにが?」


「お腹鳴ったんじゃないですから!」


「いや、別にいいじゃん。人間なんだから。おなか空いたら音くらい鳴るでしょ」


「そういうことじゃないんですよ!もう!ダイシさん、乙女心わからなさすぎ!」



 今更乙女とかギャグ?


 サツキちゃんはいい子だけど、俺の中では小悪魔決定してるからね。



「でも、たしかにお腹空いたよなぁ」



 俺がこの西東京第4初級ダンジョンに突入したのは午前10時頃。


 なんだかんだ2時間くらいは経ってると思うので、ちょうどお昼をいただく時間を迎えているのではないかと思われる。



「俺、携帯栄養食ならソコソコ持ってきてるけど、食べる?」


「それなら私も持ってますから大丈夫ですよ」


「そっか。なら地下3階に着く前に食べてこっか」


「……そうですね」



 何故か残念そうな表情になるサツキちゃん。


 別に食糧がないワケではないんだから、ガッカリする理由もないはずなんだけど。


 最近の携帯栄養食は味も悪くないし。


 まぁちょっとパサパサして口の中の水分が飛ぶけど、水もあるから流し込めばどってことないだろ。



「はぁ。ほんとはここが普通のダンジョンだったら、久しぶりにイノーシシのお肉でも堪能しようかと思ってたんですけど……」


「イノーシシ?」


「はい。この西東京第4初級ダンジョンの地下2階より下層でちょくちょく出没する魔物です」


「お肉って……」


「ええ。狩って調理して食べるんです。探索者ならあたりまえですけど」



 魔物って食えるんだ。


 スライムとかスケルトンとか……はさすがに食べないだろうけど。


 獣系の魔物だったらイケちゃう感じなのかな。


 イノーシシって猪っぽいし。



「でもこれまでの感じだと、食用にできそうな魔物とか出なさそうですし……」


「諦めて携帯栄養食、食べとこうよ」


「はぁ。残念」



 正直、魔物食うとかちょっと抵抗あるから、俺はこのスティック型のクッキーみたいなコレで十分だ。



 ……いや、生レバーのくだりは忘れてくれ。



「じゃあ俺は自分で持ってきた分食べるね……あれ?クンクン」


「なんか、いい匂いしませんか?」


「ああ。いいお肉がこんがり焼ける素晴らしい香りが……」



 俺たちが降りている螺旋階段のさらに下。


 白い煙とともにBBQを彷彿とさせる、食欲をそそるあの匂いが鼻孔をくすぐる。



「あっ!もしかして!」


「なんか思い当たる節あるの?サツキちゃん」


「なんていいタイミングで!やったー!」



 サツキちゃんがなにかを察してガッツポーズをしている。


 下になにがあるの?


 俺にも教えてよ!



 :グルメハウスかな?

 :ベストタイミングじゃねぇか

 :MP回復できるかもよ!

 :なんなら能力値上昇効果も!

 :いい食材揃ってるといいな

 :俺もグルメハウスの美食堪能してみてぇ

 :ユニークハウスに匹敵するレアな部屋

 :また配信伸びちゃうね



「ダイシさん!はやく行きましょう!」


「あ、ああ」



 俺の手を引き、地下3階へ意気揚々と駆け出すサツキちゃん。


 ちょっと転びそうになりながらもなんとか着いて行き、扉の前に到着する。


 さっきの煙は明らかにこの先から漏れ出している。


 なんかよくわからんが、次の部屋は戦わずに済みそうだ。


 ここまでひたすらピンチの連続だったから、少し休憩できるならありがたい。



「オープン!」



 勢いよく木製っぽい扉を強く押し込むサツキちゃん。


 すぐに中の光景が目に飛び込んでくる。



「す、すげぇ……」



 ここは、楽園かもしれない。

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