第28話
「はあああああ!!」
ラビリンスゾーン入口右側の壁と向き合い、気合いの発声で右手に葬力をチャージするイメージを編み上げる俺。
狙い通り、拳は白く揺らめく波動のようなものを纏い始めた。
高まる気。初めて使う技だが、ただのパンチでいいと思っている。
それほど頭を使うスキルでもないはずだ。
杖はすでに床に置いている。
腰を落とし、呼吸を整え、目を閉じ、正拳突き?の構えに入る。
ちなみに俺はケンカをしたことないので、全部漫画のイメージだけでやっている。
なのでこのやり方で正しいのかは正直全然わからない。
まぁダメ元でやるだけだから、成功すりゃラッキーくらいに思っておこう。
それじゃ、いってみようか!
「葬拳!!くらえぇぇぇ!!」
キィィィィィン!
多分不格好であったであろう俺の【葬拳】が深海超鉱石の壁面と激しくぶつかり合う!
何故か金属と金属が衝突したような甲高い接触音が迷宮内に響き渡る!
だが。
威勢がよかったのは音だけだった。
殴った箇所を確認しても、壁には傷ひとつついていない。
さすがに無理があったようだ。
:ちょっw
:なんで壁殴ってんのww
:まさか迷宮自体破壊しようとしてる?
:脳筋で草
:そんな事出来るワケないだろw
:意外にサマになってたよ!
:魔物に食らわせたら粉微塵だろうな
:音すごかったからイケたのかと思った
:おいおい。そんな硬い壁殴ったら……
「ダイシさん、手、大丈夫ですか?」
「ん?ちょっと痺れてるけど大丈夫!」
実はめっちゃ痛かった。
でも、骨が折れたりとかするような激痛はなかった。
「そんな迷宮自体破壊しようとするとか、無理に決まってるじゃないですか!」
「ご、ごめん」
「あんな硬い壁殴ったら自分だってダメージあるに決まってますよね?ちょっとくらいケガしても私に軽く回復してもらおうとか考えてませんか?」
バレてたか。
「私だって色々スキル使ってMP減ってるんですからね!その辺りのことも少しは考えて……って、えっ?あれ?」
俺に軽く説教するサツキちゃんの目が点になっている。
見ている先には俺がさっき殴った入口側面の壁。
:ん?
:あれれ?
:ちょっと亀裂入ってない?
:おいおいw
:マジですか
:パンチで深海超鉱石にヒビいれるとかww
:wonderful!
:連打すれば壊せるんじゃね?
:また俺たちのダイシがやってしまったのか……
えっ?マジで?
確かに、みんなの視線が釘付けになってる箇所を見てみると、さっきまではなかったひび割れが少しずつ広がっていく過程が見てとれた。
でも俺が思い描いていたのは“粉砕”。
ヒビが入ったくらいではどうしようもない。
連打しまくって破壊しても効率悪すぎるし、まぁ今回はうまくいかなかったということで……ん?
なんかすごい勢いで亀裂が広がっていってるような……。
しかも広がり方が不気味だ。
どこか名家の家紋みたいな紋様を規則正しく順番に描いていってるような、そんな風に見えていた。
:亀裂が……
:ピキピキが止まらない
:どこまで広がるんだこれ
:幾何学的なような、不規則的なような……
:うわっ!もう横の壁全部に行き渡ってる!
:ちょちょちょちょちょ
:んなアホなwwww
:どうなってんのーwww
15万人を超えていた視聴者さん達の叫びと呼応するように、ものすごい勢いで綺麗なひび割れがさらに広がっていく。
ピキピキパキパキ音が至る所から聞こえ始める。
「ダイシさん!こっちも!」
「えっ?なんで??」
「奥の突き当りも!」
「えええええ!!!」
俺が殴ったのは入口すぐ右横の壁。
何故か左の壁にも。
そして奥の突き当りの壁にも家紋のような亀裂が至る所に広がっていた!
さらにその割れた壁の隙間。
深海超鉱石が放つ明かりとはまた別の光が割れ目の奥から次々と漏れ出し、その光は強烈なビームのように収束された光の束となって迷宮内を駆け巡りだす!
「ちょっとぉぉ!これ、どうなってるんですかぁぁ!!」
「わわわわわ」
自分でやっておいてうろたえる俺。
いや、壁殴っただけでこんなことになるとか思わんだろ、普通!
:ひえぇぇぇ
:荒れ狂うビームの嵐w
:おいおい宇宙戦争かよ
:壁や天井が次々と……
:溶けたり崩れたり焦げたり
:ちょいちょい魔物らしき絶叫が聞こえるww
:なんやこの光景www
:もはや漫画ww
:草も生えん
コメント欄は音速のようなスピードで流れているが、驚愕していることはわかる。
まぁ、そうだよね。
俺も同じ感覚だ。
ぼーっと眺めていることしかできなかったが、今見ている状況を形容する言葉が思い浮かばない。
ただあえて一言でいうとするならば……
「もうめちゃくちゃ」
サツキちゃんが代わりに言ってくれた。
うん。それしかないよね。
などと思っているうちに、ビームは次々壁や天井を蹂躙し、徐々に視界が開けてくる。
時間にしてものの10数秒。
概ね駆け巡ったのか。
ビームが止み始めると、開けた視界に
上を見ると天井には所々穴が開いている。
床を見ると瓦礫と化した深海超鉱石の壁。
あと灼けた魔物っぽい亡骸なんかもちらほら。
壊れたトラップ装置的な機械も散見された。
地上戦が終わった後のような無残さを醸し出す空間を見つめながら、俺は考えることを止めた。
「あー……まぁ」
「結果オーライ、ということで……」
サツキちゃんも同じだった。
「とりあえず……」
「進みましょうか……」
なんとも言えない悲壮感を漂わせながら、俺とサツキちゃんは出口があるであろう奥のほうに向かって、瓦礫と屍の山を越えていくのであった。
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