第27話
西東京第4初級ダンジョンの地下2階へ繋がる螺旋階段を下りながら、俺は去り際に時空ウサギが言っていた、ある言葉を思い出していた。
「もうわかってると思うけど、今この西東京第4初級ダンジョンはすごくおかしなことになっているんだ。先に何が待ち受けているか僕でも全然わからない。気を付けて進んだほうがいい」
さすがの俺でも、このダンジョンがおかしい事はとっくに気づいている。
ここが初心者用初級ダンジョンのワケがない。
さっきまで飛んでいた冥葬級ダンジョンほどではないにしろ、攻略難度がかなり高いダンジョンと同様の状態になっているとは思っておいた方がいい。
でも、気をつけろと言われてもなぁ。
まぁ油断せずに行けってことなんだろう。
俺自身が初心者なのに強くなりすぎているから、そんな甘いもんじゃないよって言ってくれたのだと解釈しよう。
ステータスやスキルの威力だけで図れないのがダンジョン探索の醍醐味。
気を引き締めて次の攻略に当たることにしよう。
「ここが、地下2階か……」
「ねぇ、何かいませんか?メデューサとか巨人族とか見えてたりしません?」
「……」
サツキちゃんは地下1階へ降りた時のような勢いが全くなかった。
ここに来るまで俺のローブの背中の端っこを摘みながら、恐る恐る降りてきていた。
なので部屋の状況を先に確認したのは俺と視聴者さんだ。
冥葬級で少し自信なくしちゃったのかな?
まぁ俺的には、この少しビビってるくらいの彼女のほうが好ましい。
高テンションで煽ってくる配信者のサツキちゃんは正直苦手だ。
ちなみに彼女の配信はまだ復活していない。
機材トラブルでまだ出来ないそうだ。
なので俺のところにサツキちゃんの視聴者が集まっている状況も変わっていない。
今は俺のチャンネルで総勢約13万人になった視聴者さんが、この先の展開に期待を寄せている。
:あれ
:ここは……
:なんか人工的な感じだな
:魔物の気配がないね
:迷路?
:ラビリンスゾーンっぽい
:ラビリンスゾーンか。まぁたま出るよな。
:この映像だけじゃどこの迷宮かわからんな
:迷宮にも色々あるしな
:壁の材質調べれば予測できるよ
:サツキ器用だしわかるんじゃね?
:分析スキルがあればいける
迷路かぁ。そういうのもあるんだな。
確かに見た目的には、俺が小さい頃、時々親に連れて行ってもらった遊園地にあったソレになんとなく雰囲気は似ている気はする。
ただ壁は木材ではない。深緑色でツタのような刻印が刻まれた硬そうな壁だ。
奥は突き当りになっているが左右に通路が伸びている様子はここからでも伺える。
松明が備え付けられてはいないが、空間自体は結構明るい。
刻印みたいなのが薄ぼんやりしているので、それが光源になっているのだろう。
「大丈夫だよ、サツキちゃん。別に魔物とかいないし。視聴者さんたちはラビリンスゾーンじゃないかって言ってる」
「ラビリンスゾーン、ですか……」
そう言って俺の背後からひょっこり顔を出し、部屋の中を視認するサツキちゃん。
魔物がいないことを確認し、俺の前に出てさっそく壁をマジマジ見つめだす。
「ラビリンスゾーンは割と一般的ですけど、種類が豊富でどの迷宮かによって危険度が格段に違います」
「なんか視聴者さんもそんなようなこと言ってた」
「ちょっと調べてみますね」
そう言ってサツキちゃんは「分析」とつぶやいて壁の材質を調べてくれた。
ホント器用な子だ。
彼女の称号[ジェネラリスト]ってまさにそうだなって思う。
「材質……深海超鉱石……マジですか……」
「深海超鉱石?」
「見たのは初めてですけど聞いたことはあります。これ、絶海級ダンジョン特有の超硬い石なんです……」
「へぇ。ん?ってことはこの迷宮って……」
「たぶん、そういうことです……」
:またそんな
:次から次へとw
:絶海級のラビリンスってこと?
:そこ今探索行ってるヤツいたっけ?
:絶海級は行くこと自体困難だから誰も行かない
:情報が少なすぎるな
:誰か調べてくれよ
:絶海級の地下10階で確認されてる
:挑戦者自体少ないけど、1人突破した探索者がいるよ
:あー魔界騎士のアイツだな
:あの男は未開ダンジョンの報告書をギルド本部に出さねーから情報ほぼ無し
:でも結局最下層には行けてないんだよね?
:知らん
:ちなみに挑戦した奴らは魔界騎士のアイツ以外誰も帰ってきてない
13万人も視聴者さんがいると、何かしら情報持ってるヤツがいるもんだな。
とりあえず、いつものごとくヤベーってことね。
「おそらく大迷宮です。しかも致死率ほぼ100%の最難関……」
迷路だからグルグル同じトコ回らされて一生出れない的な感じなのかな。
凶悪なトラップだらけで命を刈り取ってくるとか。
絶海っていう位だから深海の見たこともないような魔物が襲い掛かってくるとか。
……。
どれもめんどくさいな。
なにか一発でそれを打開できるいい策はないものだろうか。
あっ!
できるかどうかわからんけど、試してみたい秘策を思いついた!
今の俺なら、なんかできそうな気がする。
「とにかく目印をしっかりつけて、体力を温存しながら確実に着実にゆっくり進んで……って、ダイシさん。なにしてるんですか?」
「えっ?」
「なんで壁に向かって構えてるんですか?」
「ちょっとやってみたいことがあって……」
杖を置き、壁に向かってゆっくりと腰を落とし始めていた俺にサツキちゃんの鋭いツッコミが入る。
……俺が試そうとしていること。
それはこの間覚えたばかりの【葬拳】でこの超硬い壁を粉砕して、見通し良く最短距離で先に進んでいこうとする、前代未聞の奇策であった。
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