第23話
冥葬級地下50階の部屋は、天井は高いが思いの外奥行きは狭かった。
目算で20mほど先に冥竜王の仰々しい玉座がある。
その後ろの壁面上部。
伸びきった白髪・白髭をファサファサさせ、彫の深い精悍な顔つきをしたじいさんの巨大な映像が映し出されている。
「め、冥王様!」
宙で霧散しかけていたアデスの肉体が元の姿に戻っている。
冥王の映像にいち早く気が付いた冥竜王はそそくさと地上に降り立ち、壁の映像に向かって土下座でひれ伏した。
どうやったかはわからないが、どうやらこの冥王とやらは人外の技でアデスの肉体を復活させたようだ。
明らかに実体ではないのに、俺のスキルコンボは無力化されていた。
「こっぴどくやられたようじゃのぉ、アデスよ」
「言い訳のしようもございません。いかような処分も甘んじて」
「いやいや。SS級の凄腕たちを
「あ、ありがたきお言葉!」
平身低頭の冥竜王。
やっぱこのじいさんはアデスの上司っぽいな。
部下の功績をちゃんと認めるあたり、結構いい上司なんじゃないか?
「
「はい。あのすっとぼけたおっさんです」
なんでじいさんそれ知ってんの?
アデスが日報でも上げてたんですかね?
って、コラじじい!
雑魚が俺をおっさん扱いしてんじゃねぇぞ!
またけちょんけちょんにされたいのか!
「小童坊主。お主、名前は?」
「ん?いや、俺の名前を教えてほしかったら先に名乗れよ、じいさん」
たぶんこのじいさんは俺より圧倒的に強い。
身体の奥底からこのじいさんは危険だとアラートが鳴っている。
ただ、俺は特に恐怖心に駆られることはなかった。
それほどメンタルが強いってワケじゃないが、別にひれ伏したからといって特別いい結果をもたらすわけでもないと思う。
ならいっそ開き直って堂々と話しても別に問題ないだろ。
「はっはっは!このわしを前にして怯まぬか!おもしろい男じゃ!」
「はやく名乗れよ、じいさん」
「わし、冥王」
「ん?冥王って名前なのか?」
「知らん。生まれてからずっと冥王と呼ばれておるわい」
嘘をついているようには聞こえない。
ダンジョンってところはそういうものなのだろう。
「俺はダイシ。阿尻ダイシだ」
「そうか。知らん名じゃが、いい名前じゃ」
「で?これからどうすんの?俺はじいさんと戦わなきゃいけないのか?」
正直戦いたくはない。
結果は火を見るより明らかだろう。
勝てる気はしない。
でも、この後どうなるかはじいさんの出方次第だ。
今の俺にこの場を制圧できるだけの力はまだない。
「いやいや。それはルール違反じゃて。わしと戦いたくば正式に
にやりと挑発するように言ってきた冥王のじいさん。
……いや、結構です。
:冥王だってさ
:初出の情報じゃね?
:冥葬級地下100階のボスは冥王
:すげー弱そうだな
:unbelievable!
:瀕死の冥竜王を一瞬で回復したじいさんだぞ
:あの勇者パーティが地下78階でドロップアウトしてる時点でお察し
:勇者PTはアデスをどうやって突破したんだろうな
:勇者PTが神域級クリアしたってマジ?
:まだ情報解禁されてないよな
:新情報満載で明日新聞載るんじゃね?
:ネットニュースのネタ盛沢山だな
視聴者数が、気づけばついに10万人を突破していた。
たまに外国語のコメントまで混じりだして若干困惑してる。
これは、もしかすると世界中で話題になっちゃってる!?
「抜け殻の冥竜王ごとき倒せたところでイキってはいかんぞ、ダイシ。いまのそやつは本来の力の十分の一にも満たんからの」
なるほど。
俺にやられる前にほとんど力使い果たしていたのか。
死葬冥域とやらで激闘があったんだろう。
アデスに一泡吹かせられたのも、ほとんど彼らの功績だな。
やっぱSS級ってのはスゴい人達みたいだ。
「それじゃあ……」
「さしずめ時空ウサギの気まぐれで飛んできただけの哀れな探索者じゃろて。時を待って元のダンジョンへ戻ればそれでよい」
「じいさんの肝臓喰ったことは怒ってないの?」
「はっはっは!普通わしの肝臓なんか喰うたら身がもたんぞ。即爆発して粉微塵じゃて」
「えっ?そうなの?」
「うむ。お主はかなり規格外の能力者なようじゃ。もしかすると、勇者をも凌駕する恐ろしき探索者になるやもしれぬ。その時までわしの肝臓はお主に預けておくとするかのぉ」
なんかめんどくさそうことになりそうだなぁ。
返せるなら今、返してしまおうか。
……いや待て。取り戻すために喰われるっていうんだったら勘弁だな。
俺は探索者として特段名を上げて有名になりたいワケではないんだ。
ここに飛ばされた時、最初はちょっとワクワクしてたけど、正直冥葬級ダンジョンを攻略したい願望っていうのは別にない。
普通に簡単なダンジョンのお宝を回収して、それを売って生計が立てばそれでいいと今でも考えている。
あ、あと配信収益も期待してる!
「じゃあな、小童坊主。お主が勇者パーティより先に我が冥葬級地下100階へ到達することを楽しみに待っておるぞ」
壁面の映像が消え、冥王と冥竜王が同時にこの場を去っていった。
残念だけど、じいさんの期待には応えられません。
俺はあの初級ダンジョンをクリアしたら、自分のペースでまったりダンジョン探索をして暮らしたいと思ってます。
でもやっぱ、ステ振りは楽しいからありがたく肝臓は預かっておきます!
「ダイシさーん!!」
後ろを振り返ると、冥王たちがいた方向とは逆側からサツキちゃんの声が聞こえた。
俺の立っている場所まで駆けて寄ってくる姿が確認できる。
ようやく、この鬼畜ミッションは終わったみたいだ。
大きく深呼吸をし、思わず本音が漏れる。
「ああ!!めっちゃ疲れたぁぁ!!」
そしていつものように、見慣れた映像が俺の眼前に現れた。
『ダイシはレベルが上がった』
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