第22話

 :えっ???

 :えええええええ!!!

 :なんか説教しとるwwww

 :相手冥竜王アデスだぞ!!

 :そのへんの雑魚ちゃうぞ

 :ワケわからんw

 :おっさん神

 :wwwww

 :おっさん一体なにモンやwwww



 俺の近くを片時も離れない自動追尾カメラが俺とアデスの一部始終をしっかりとらえていたらしい。


 コメント欄はなにが書いてあるのかほぼわからないスピードで流れ落ち続けている。



「おい。俺の前に置いても回復できねぇよ。あっち置けよ、あっち。そっとだぞ」


「えっ?回復も使えな……いえ、わかりました……」



 両手で燃え盛っていた黒い炎を消し、フラフラと俺の眼前に気絶した探索者2人を並べようとしていた冥竜王。


 回復スキルのない俺の前に置かれても困る。


 無駄に長い尻尾持ってんだから、サツキちゃん達のところまで伸ばせ。



「こ、これでよろしかったでしょうか」


「うむ。ご苦労」



 命令を無視しない冥竜王。


 指示通り、サツキちゃんたちの前に2人をゆっくり置いてくれた。


 運んだ後はちゃんと尻尾をしまい込む。


 とりあえず、殺意は全て取り下げてくれたようでよかった。



「あ、あの。貴方様は冥王様のご親類の方なのでしょうか?」


「冥王様?」



 冥王ってなんだ。こいつの上司なのかな。


 よくわからないけど、ここで答え間違えたら突然襲われそうな気もする。


 適当に誤魔化して……


 いや、待てよ。


 そういえば、ここに来る前に確か……。



「……食ったかも」


「はあ??」


「冥王様、食べちゃったかも」


「な、なんだと!?」


「なんか宝箱に冥王の生レバーってのが入ってたからそれ食ったんだよ」



 ヤバい。普通に事実を話してしまった。


 そういえば、俺は嘘が苦手だった。



「……なるほど。そういう事か」


「へっ?」


「つい先日、冥王様が嘆いておられた。『なんかワシの臓器、この間から1個行方不明なんだよね~』とな」



 内臓が行方不明ってどういう原理なのかさっぱりだが、どうやら俺が食べた生レバーはそれだったらしい。



「貴様が……冥王様の一部を自己に取り込んでいたのだな」



 冥竜王の表情とオーラが変わる。


 俺との邂逅で失っていた邪悪さが、元の禍々しさを取り戻しつつある。


 えっ、ちょっ。これはマズイ。


 いや、怯むな俺!虚勢を張り続けろ!



「そ、それがどうした!!べ、別にいいじゃん!!」



 語彙力がなさすぎた。



「私の目は節穴だった。貴様の波動が冥王様と同じで少し動揺していたようだ」



 目を細めそうつぶやいたアデスの竜の尾が再び不規則に動き始める。


 完全に狙いは俺、だよね??


 もう話し合いでは解決できないことが決定的となった。



「合点がいった。冥王様の一部を貴様が取り込んだのであれば、冥王様が貴様を喰らえば失った臓器は元に戻るはずだ」



 ああ。確かに。


 って納得してる場合か!


 アデスが再び2本の竜の尾を蠢かせて狙いを定めている。


 1本は俺、もう1本は……サツキちゃんたちのほうを向いている!



「貴様もあそこの大僧侶の女と一緒に冥王様の生贄となるがい……」


「火葬!!」


「ぐわああああああ!!!」



 あ、効いた。


 もうハッタリは効かないみたいだったので、先制攻撃でアデスの尻尾を2本とも焼いた。


 すでに何度も使っている火葬のスキル。


 ちょっと念じただけで簡単に使えるようになっていた。


 なんか悟ってたみたいだったけど、勘違いするなよ、じじい。


 戦うのがめんどくさかったから少し脅して様子を見てただけだ。


 に変わりはない!



「わたしの……わたしの尻尾があああああ」



 冥竜王の慟哭が冥葬級地下50階のフロアに響き渡る。


 とりあえず邪魔だったアデスの竜の尾は2本とも焼いておいた。


 葬力がカンストしてるからかわからないが、アデスの尻尾は骨まで灰となって空中を舞っていた。



「痴れ者があああああ!!!!」



 垂直に高い天井付近まで飛び上がるアデス。


 同時に両手をかざし魔力を集中し始める。


 先ほどとは比較にならない禍々しさを纏った黒い炎が俺を狙う!



「黒き炎よ!地獄の業火で不浄なる者を焼き尽くせ!煉獄邪竜炎弾!」


「応報!」


「うがあああああああ!!!!!」



 なんかカッコいい技名叫んでたけど、反射のスキルでそのままお返ししてやった。


 自分の黒い炎も結構効いちゃってるっぽい。


 でも、まだ生きてるな。


 まぁいくらなんでもこんな簡単に倒せるワケないよね。


 ってことで、もういっちょいってみますか!


 [冥]ってついてるからアンデット系かもしんないし、アレ効くかも!



「成仏!!」



 間髪入れずに木の杖をかざし、次のスキルを使用した。


 松明の灯だけのほの昏い洞窟内が【成仏】の強い光に照らされて、荘厳な彫刻類の並ぶ姿が視界に入る。


 神殿が、本来持つ神々しさを取り戻していくように光はこの地を優しく照らした。



「消える……このわたしが……負ける、のか……」



 あ、効いてるっぽい。


 アデスの身体が少しずつ白い粉になっていってる。


 これは勝ったかもしれん。



 :おいおい……

 :なんか勝てそうじゃね?

 :冥竜王さん消えかかってる……

 :前代未聞

 :空前絶後



 コメント欄も唖然としている。


 なんかあまり戦った実感もないが、これで終われるならラッキーだな。



「こんな……こんなおっさんにぃぃぃぃ!!!」



 冥竜王の断末魔。


 いや確かに俺おっさんだけど、アンタじじいじゃん。


 失礼なヤツだな。


 そのまま光の彼方へ消し飛んでどうぞ。



「ちとそれは看過できんのぉ、小童坊主よ」



 突如どこからともなく、アデスよりさらにお年寄りの声が聞こえた気がした。

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