第17話
「それじゃあ早速ルールを説明するよ」
ステッキを軽く振り上げ、空中へかざすウサギ。
ステータス画面のような空中映像が表示される。
「本日の時空ミッションは、コレ!」
ビシっとステッキで画面を指し示すウサギ。
そこには次のような言葉が羅列されていた。
「時空……ダーツの、旅?」
「そう!今からアナタ方にはこの時空ダーツをしてもらい、刺さったダンジョンのとある階層に僕が転移させますので」
「……はい??」
「そこでこれから僕が指定するミッションをクリアしてください」
転移……だと?
「本日のダーツボードはこちら!」
ウサギがステッキを振ると、何もない空間が突然ゆがみ、突如としてダーツ用の丸い板が出現した。
いや、真っ黒で全部同じじゃねぇか。
いったいどこに刺さりゃいいんだよ。
「よく見てください。ここ、ここ」
ウサギがステッキを当てがった中心を見ると、わずかに白い点があるように見えた。
「ここに刺さったら転移はなしです。ミッションクリアで報酬を差し上げましょう」
「白いところ以外は冥葬級ダンジョンのどこかにゴーゴーヘブンです。あ、最下層なんてのもありますから刺さらないことを祈ってます」
ヘブンなワケなさそうだけど……。
「冥葬級って……。そんなところ行ったら上層だとしてもたぶん生きて帰れないですよ……」
「そ、そんなにヤバいところなの?」
「ヤバいなんてもんじゃないですよ……。SSS級の探索者ですらまだ最下層クリアした人いないですし……。あのダンジョンでいったい何人の優秀な探索者たちが亡くなったのか見当もつきません」
:上層でもSS級の上位陣じゃないと詰み
:勇者パーティで地下80階が最高?
:いや確か地下78階
:最下層は地下100階?
:難易度SSS級。世界三大窟のひとつ
:神域級、冥葬級、絶海級、だっけ?
:ほとんどの探索者が地下50階で脱落
:中ボスがチートだからな
:冥竜王アデスだっけ?
:アレは多分これまでで最も多くの探索者を葬ってる最凶の中ボス
今度は冥葬級ダンジョンの話題で盛り上がる視聴者さんたち。
ちらちら目に入ってくるコメントから、とにかく今の俺たちがとても立ち入っていいダンジョンでないことだけはよくわかった。
最下層は誰もまだ行ったことないのか。
現状わかってる範囲では、どこに飛んでもヤバそうなダンジョンだが、特に地下50階だけはなんとしてでも回避しないと間違いなくジ・エンドらしい。
「ちなみにミッションやらないって選択肢はありませんので、悪しからず」
「しないとどうなるの?」
「できない、とだけ」
「ユニークハウスは遭遇したらもう諦めるしかないんですよ……」
サツキちゃんは深いため息をついて無気力になっていた。
「大丈夫!今回のミッションは転移した階層で10分間生き残るだけだから。それに生存が難しそうだったら脱出用アイテムですぐ戻ってもいいし。ま、それだと達成にはならないけどね」
「えっ?脱出用アイテムって支給してくれんの?」
「いや、それは自前で」
持ってないんだけど。俺も、サツキちゃんも……。
「ダイシさん、ダイシさん」
サツキちゃんが小声で耳打ちしてくる。
「なに?」
「【回帰】ってスキルでなんとかなりませんか?アレ、転移系っぽかったですし。それなら脱出用アイテムなくてもなんとかなりそうじゃないですか?」
「あっ。それナイスアイディアだね!」
以前自宅に帰ろうと【回帰】を試みた時は、指定ポイントの設定うんぬんで使用をキャンセルされた。
ならいっそここを指定ポイントにしてなにかあったら戻れるようにしておくのは名案だと思う。
「ウサギさん」
「時空ウサギと呼びなさい」
めんどくせぇヤツだな。
「時空ウサギさん。俺たち脱出用アイテム持ってなくってさ。代わりに俺の転移のスキルで戻ってくるってのは、アリかな?」
「ふーん、俺の転移のスキルでね……ん?転移系スキルだって!?」
ウサギがなんかビビり散らかしている。
「うん。でさ、どうも話聞いてるととてもクリアできる気しないから、この場所に戻って来られるように設定しておきたいんだけど、いいかな?」
まだ【回帰】は未使用だから使い方自体それであってるのかは自信がない。
おそらくだけど、現在地でしか指定ポイントってのは設定できないと解釈してる。
なのでこの場所であれば設定することは可能なんじゃないかな。
「転移系のスキルはかなり特殊な探索者しか使えないはずなんだけど……でもこのおじさんはたぶん初心者で……しかも僧侶……」
まだぶつくさなんか言ってる時空ウサギ。
いいの?ダメなの?どっちだよ。
「ま、まぁ使えるんだったら別に構わないよ。使えるんならね……」
まだ疑ってやがるな、このウサギ。
見とけよ。
「回帰!指定ポイントの設定!」
以前の要領だと設定されてない言われるので、今回は指定ポイントを設定したいと言いながら【回帰】を使用してみた。
また例の機械的な文字列が眼前に浮かび上がったので、この場所に戻って来られるよういくつかの操作を行った。
ちなみに一応、自宅へ帰る設定ができないか念のため確認したが、それはやはり無理だった。
『了解しました。西東京第4初級ダンジョン地下1層2の部屋[ユニークハウス]に帰還座標を設定します。よろしいですか?』
「ああ。頼む」
『……指定、完了しました。設定を終わります』
フッと消える文字列。
これで、よかったのかな?
思いのほか手順が簡単で拍子抜けしたが、まぁ大丈夫だろ。
「よしっ!それじゃ早速ダーツしよっか、サツキちゃん!」
保険を掛けられてかなりホッとした俺は、若干の不安要素を払しょくして気合を入れなおすため、サツキちゃんに力強く声をかけるのであった。
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