第16話

「ああああ……モゴモゴ……ごっくん」



 勝手に動く身体。無理やり咀嚼させられ、味を堪能させられる。


 ひと噛み、ふた噛み。


 そして、飲み込んでしまった。


 あれ?これは……



「う、うまい!」



 めっちゃうまかった。



 :んなわけないw

 :味覚狂ってんじゃねーのw

 :どんな味?ねぇどんな味?

 :舌までバグったか

 :常温の臓物とか吐き気するんだけどw



 食レポなんてできない。


 ただ、昔常連だった焼肉屋で常食していた生レバーを遥かに超える美味しさだったのは確かだ。


 舌鼓を打ち、五臓六腑に染みわたる旨味を堪能する。


 至福の時だった。



『葬・閾値の突破を確認。能力使用制限の一部を開放』


『ダイシは余剰ステータスの割振が可能になった』


『ステータス画面から所定の操作で余剰値を他能力値へ変換してください』



 立て続けに俺の視界に文字列が並ぶ。


 詳細はよくわからないが、どうやらさっきやろうとしたことができるようになったのだと解釈した。


 この生レバーは俺のために用意されてたのかな?


 そう思わずにはいられないほど、なんか取ってつけたような展開でちょっと不気味さを感じた。



「ダイシさん、お腹痛くないですか?」


「うん。全然大丈夫!」


「……ちっ」



 今舌打ちしたよね?絶対したよね?



「それよりこの拘束、早く解いてくれないかな?」


「ボソッ……このままここに置いて行こうかしら……」


「えっ?」


「あ、いや冗談ですよ!冗談!あははは……」



 なんか冗談に聞こえなかったな。


 大丈夫?



「解除!」


「お、動ける!」


「いきなり動けなくしてごめんなさい。でもどうしても、ダイシさんにはもっと強くなってもらいたかったから……」



 瞳を潤ませて語り掛けてくるがもう騙されません。



 :ねぇ、強くなれた?



 そうだな。さっきの指示通りステータス画面触ってみようか。


 いつもの全体画面を確認すると、一番下に“次へ”のボタンが追加されていた。


 迷わず押してみる。



―――――――――――

余剰葬ポイント 243


HP   33(0)   -+

最大HP 63(0)   -+

MP    0(0)   -+

最大MP 80(0)   -+

腕力   11(0)   -+

体力    8(0)   -+

敏捷    6(0)   -+

精神   16(0)   -+

―――――――――――


 

 思わずガッツポーズが出る。


 割と見慣れた感のあるその画面。


 これは間違いなくステ振りを行うための仕様!もはや説明不要だろう!


 よし。それじゃ早速+ボタンを使ってステを割り振っていこう。



―――――――――――

余剰葬ポイント 0


HP   100(67)  -+

最大HP 100(37)  -+

MP   100(100) -+

最大MP 100(20)  -+

腕力    30(19)  -+

体力     8(0)   -+

敏捷     6(0)   -+

精神    16(0)   -+

―――――――――――



 よし!決定ボタンを押してステ振り完了だ!



『完了後は変更できませんが、よろしいですか?』



 よろしいです!



『余剰葬ポイントの割り振りを完了します』



 完了ボタンを押したらステータス画面は消えた。


 一時はどうなることかと思ったけど、結果的にMP回復できてよかった。


 能力値を上げたほうがいいのはもちろんわかってはいるけど、背に腹は代えられない。


 さっきサツキちゃんが言ってた通り、MPなかったらただのおっさんだからね。



「なにステータス見ながらニヤニヤしてたんですか?」


「あ、いや。なんかさっきのレバー食べたらステ振りできるようになってさ」


「えっ!?」


「MPもHPも満タンにして、最大値も上げといた!あと腕力も少し上げて、物理でもちょっとは戦えるようにした!」



 サツキちゃんや視聴者さんにレバー食後の変化について説明した。



 :HPはサツキに回復してもらえばよかったのに

 :もったいない

 :なぜ腕力を上げた

 :もうちょっと考えてステ振りしろよ

 :次レベル上がっても葬力増えないかもよ

 :カンストしてるしな

 :MPはまぁしょうがないか



 気付けば3500人を越えていた視聴者さんたちの間でステ振りが議論になっている、ような気がする。


 もうコメントの流れが早すぎて雰囲気しかわからなくなってきたが。



「と、とにかく、これで安心して先に進めますね!よかったですっ」


「そうだね!まぁ正直不安しかないけど、ここにはもう用はないし、次行こうか」


「行きましょう!」



 奥の出口を抜け、石畳と松明が並ぶ廊下を進む。


 時折ガーゴイルの彫像なんかが置いてあったりして少しビビったが、急に襲われることもなかったのでそのまま進んだ。


 少し進むと鉄製の古びた扉があった。特にカギはかかっていない。


 ギギギっと耳障りの悪い音共に扉を押し、中へと歩みを進めた。



「おめでとう!君はとてもラッキーだ!」



 入ってすぐにその存在を確認できた。


 狭い部屋の奥に、タキシードを身にまといステッキを持った怪しいウサギが待ち構えていた。



「……また、大ピンチね」


 

 つぶやく声に隣に顔をやると、サツキちゃんが冷や汗をかいているのがわかった。


 これまでの驚き方とは様子がちがう。


 このウサギ、そんなにヤバいヤツなの??



 :ユニーク、ハウス……

 :時空ウサギ……

 :どうなってんだよ……

 :これはさすがに終わっただろ……

 :どこに飛ばされることやら……



 視聴者さんの反応もなんかこれまでと違う。


 ヤバさの格が違うってことなのか……。



「今日のミッションは、君たちにはちょっと難しいかもしれないね」

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