第15話

 活気を帯びた高速チャットの中で、とある視聴者さんの気になるコメントの一つが目に入った。



 :それさ、他のステータスに振り分けられるんじゃね?


 

 言われてみれば確かにそんな気もする。


 [243]って表記は見方によっては仮置きしているようにも見える。


 もしかして、ステータス画面をなんらか操作すれば、視聴者さんのひらめきは実用可能かもしれない。


 ……いや、さすがにそんなうまくはいかんだろ。と、正直思ってはいるが。


 モノは試しだ。


 とりあえず、もっかい全体画面を見てみよう。



―――――――――――

名前 阿尻 ダイシ

職業 僧侶そうりょ

レベル 8


HP 33/63

MP  0/80


腕力 11

体力  8

敏捷  6 

精神 16

葬力 999[243] 


スキル 

 【応報 LV1】【成仏 LV1】【回帰 LV2】【火葬 LV2】【霊視 LV3】

―――――――――――



「うーん、やっぱ無理っぽいな」



 あれやこれや触ってはみたものの、やはり能力の振り分けができるような画面に切り替えることはできなかった。


 残念。



「そんな都合よくいきませんって。それよりダイシさん」


「ん?」


「さっき霊視で宝箱視た時、青く光ってるヤツってなかったですか?」


「あーそういえば、あの宝箱だけはなんか青かったような……」



 そう言って俺はその宝箱を指さした。


 霊視でもう一度確認してみても、やっぱりそれだけ青く光っている。


 ちなみに他のミミックだった宝箱たちはもう全部無色に視えていて、おそらく中身はなにも入っていないのだろう。



「青色がアイテムなんです。せめてMP回復薬くらいは入っていてほしいですよね」


「もうMPスッカラカンになっちゃったし、回復アイテムだったら助かる」


「スキルの使えないダイシさんなんて、タダのおじさんと一緒ですもんねっ」


「え、ええ……」



 ニッコリ微笑みそう言い放つサツキちゃんの笑顔に淡い毒素のようなものが含まれているような気がした。


 やっぱりプライド傷ついてたんだよね?サツキちゃん。



 :ただのおっさんは草

 :飛べねぇブタはなんとやら

 :サツキはMP回復薬持ってないのかよ

 :初級ダンジョンだし舐めてただろ

 :急いでてもそれくらい持ってこいよな

 :おい、サツキの悪口は許さんぞ



 おいおい。辛辣だな、視聴者さん。


 頼むからケンカとかは辞めてくれよ。めんどくさいから。



「とりあえずこれ、開けてみますね」



 ちょうどすぐそばにその宝箱はあったので、サツキちゃんは迷いなく勢いよくそれを開けた。



「うっ!ナニ、コレ……」



 宝箱には何かが入っていたようだが、サツキちゃんはソレを手に取ることはせず、開けた状態のまますっかり固まってしまった。


 たぶん、触りたくないくらい気持ち悪いモノが中に入っていたのだと想像できる。



 :お宝はなんだったのかな

 :サツキ固まってるしw

 :回復薬ではないな

 :呪われたアイテム?

 :早く教えてよー



 俺も中身がとても気になっていたので、宝箱の前でしゃがみ込むサツキちゃんの後ろに回り込み、中を覗き込んでみた。



「……ゲッ」



 グロっ!キモっ!


 なんじゃこりゃ!



 :ナマモノですな

 :赤くてツルツルテカテカ

 :茶色っぽいところは腐ってんのか

 :臓物じゃんよ……

 :ぬめっとしてんね

 :これホントにアイテム?生ゴミじゃ……

 :霊視おかしいんじゃないの



 いや、確かに宝箱の表面は鮮やかな青色で視えてたし。


 なんならもっかい確認してみてもいい。


 俺はウソなんてついてないよ。



「……ん?おや?」



 臓物らしきナニかを直接霊視してみると、今度は色じゃなくちゃんと文字列が浮かんで視えた。


 どれどれ、なんて書いてあんだ。



【冥王の生レバー】(極レア):食べると内在する葬送の力が五臓六腑に染みわたる。ゴマ油と塩がかかっていて食べやすい。



 ガチでレバーらしい。


 ご丁寧に味付けまで表記してある。



「ダイシさん。もしかして、アイテム情報見てました?今、霊視しましたよね?」


「えっ!?えっと……」


「なんて書いてあったんですか?」


「あー……」



 どうもこの流れは非常にまずい。


 絶対にまずい。


 説明したら、間違いなく食べさせられるヤツだ。


 書いてある情報がなんとなく今の俺に当てはまっているような気もする。


 こんな常温で放置された生レバーが腐ってないはずがない。


 食べたら絶対に不味いし、腹壊す。



「いや、どうも俺が見間違えてたみたいだ。コレ、生ごみ……」


「傀儡スキル、発動!」


「いっ!」



 いやいやいやいや、何やってんすか!サツキちゃん!


 体動かないんだけど!



「嘘はいけませんよ、ダイシさん。言ったでしょ?私の鑑定スキルはできないと。アイテム情報は見れるんですよ」



 この子マジで鬼畜だ!



「視聴者のみんな!多分この生ゴ……いや、激レアアイテムは、ダイシさんが食べると新たな力を得られるとても貴重なアイテムみたいなんです!」



 煽るなー!!


 やっぱ絶対俺の事疎ましく思ってるだろー!!



「みんな、ダイシさんがもっと強くなるところ、見たいよね?」



 :食べろ

 :食べるんだおっさん

 :早くやれ

 :配信者たる者食うべし!

 :ちょっと腹壊すくらい大丈夫や

 :腹痛くらいサツキが治してくれるよ



 すでに2000人を超えていた視聴者さんが「食べろ」の大合唱をしている。


 地獄か、ここは。

 


「わたしの視聴者さんは満場一致みたいです。そういうことなんで、はい!あーん」


「ああああああああ!!」



 俺の意識とは裏腹に自動的な動きで開口していくマイマウス。


 触れたくない物を無理やり掴むときの凹みたいな形にした親指と人差し指で、激レアアイテムを俺の口内に放り込む鬼、天音サツキ。


 この屈辱的な仕打ちに、俺は本日最大の絶望感を味合わずにはいられなかった。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る