第13話

 宝箱を開くと中は空っぽだった。


 同時に、カチッというスイッチを起動させたような音が聞こえた気がした。



「黄色はトラップですよ!早く逃げて下さい!」



 えっ?金色じゃなかったの??


 まずい!とりあえずこの場を離れないと!


 でも宝箱からは毒も矢が飛び出したりもしなかった。



 ただ……



 なにやら辺りからカタカタカタカタと異音が聞こえ始める。


 その音は徐々に大きくなり、数を増していく。


 赤くぼんやり光っていたミミックと思しき宝箱たち。


 今回俺が起動させたトラップ。


 そいつはどうやら……



 :おいおいおいおい

 :宝箱、全部開いちゃってるよ

 :まさかの全ミミック一斉起動

 :ソイツは強敵だぞ

 :おっさんならイケる

 :先に仕掛けろ

 :でもミミックは火系の耐久高いよな?

 :火葬はダメージ入りにくいかも

 :即死魔法に注意な

 :おっさんのHPだと通常攻撃でも即死だろ

 


 657まで増えていた同接の視聴者さんたちがアドバイスやら状況の説明やらを次々とコメントしてくれる。


 そう。要するに俺は本日最大のピンチを迎えていた。


 この墓地のような空間内に存在するミミックの総数はおよそ98体。


 とにかく攻撃をもらったらご臨終らしい。


 出口までの距離は近いが、なんせ俺がいまいるのは部屋の1番右奥の角地。


 少なくとも目の前で殺意剥き出しでギザギザの歯をカチカチしている3体のミミックはどうにかしないと出られない。


 サツキちゃんはまだ入口付近にいて、とても俺をすぐ助けに来ることは出来ないだろう。



「ダイシさん!とにかく敵の攻撃に細心の注意を払いながら出口までなんとか逃げてください!攻撃もらったら多分死にます!」


 

 大量のカタカタ音を掻き消すようなサツキちゃんの叫ぶような声が聞こえた。


 それほど離れているワケじゃないのに、すごい遠くにいるような感覚を覚える。



「私もすぐそっちに行きます!さすがにこの数はヤバすぎです!」



 S級探索者ですら焦っているのは相当なヤバさなんだろう。


 とりあえず道を切り開こう。


 幸いまだミミックに襲われてはいない。


 さすがにいくら火属性ダメージが通りにくいと言っても、【火葬】の火力なら動きくらいは止められるはず。


 逃げてふいを突かれるより、あえて攻めた方が攻撃を喰らわない確率は高いはず!



 よし。行くぞ。


 大丈夫。何とかなる、はず!



「火葬!」



 速攻でイメージを練り上げ杖をかざしてスキルを発動。


 これまでの敵であれば焼失、あるいは強烈な熱傷ダメージを与えることができていた。


 だが今回は……



「…………カタカタカタカタッ!!!」



 ミミックたちのカタカタ音はその音量を増し、トレジャーハウス内はとびきりうるさい空間となった。


 目の前の3体は黒焦げになり機能を停止させたが、自分の位置からミミックまでの距離が遠くなるほどダメージ量は減っていた。


 むしろ中途半端に攻撃を受けた凶悪な宝箱たちはその凶暴性をあらわにし、標的を完全に俺一本に定めているのがこの位置からでもわかった。



「早く出口まで走ってください!まだほとんど生きてます!」



 サツキちゃんが敵の攻撃をいなしながら少し弱ったミミックを狩りつつ、俺の安否を気にして声を上げていた。


 本当は少し気になってはいたが、ただ一つ当たりであろう青く光っていた宝箱を空ける余裕なんて今はない。


 とにかく命を守る最優先の行動をしなければ!



 :即死魔法くるぞ!

 :早く逃げろ!

 :うわわわわ

 :やべー!

 :【応報】ってやつでなんとかならない?

 :出口まで間に合わんからやってみろ!

 :MP足りるか!?

 :とにかくやれーーーー



 動けるミミックたちが黒い光を纏い始めている。


 即死魔法の詠唱、なのだろう。おそらくあと数秒で放たれる。


 出口まで逃げてもおそらく喰らう。生き残った全ミミックが俺に照準を合わせているのだから。


 サツキちゃんが必死に倒してくれてはいるが、おそらくそれでも間に合わない。


 発動されれば、多分ジ・エンド。


 もはや考えている暇はない!


 【応報】を使う!


 光の壁ならイメージしやすい!これで防げることを願うしかない!


 頼む!MPもなんとか持ってくれ!



「応報!」


 

 ブォン



「カタカタカタカタカ…………すん」



 ミミックの口から放たれた黒い光の即死魔法と、俺の杖から強烈に発生した光の壁である【応報】はほぼ同時に展開したと思われる。

 


「……」



 サツキちゃんの攻撃の手が止んでいた。無言で立ちすくんでいる。


 そう思えている俺も意識はある。特に痛いところとかない。


 ミミックたちは……



 :ん?えっ??

 :なに?どういうこと??

 :全部普通の宝箱に戻っちゃったw

 :すんってw

 :火葬と違って【応報】は地味だったね

 :結局アレ、全部跳ね返したってことか?

 :ミミックは即死無効のはずなんだが

 :因果を返すってそういうことね

 :【応報】やばすぎワロタ



 どうやらまた、通常では考えられないことを起こしてしまったらしい。


 そう。ミミックの群れは俺が死に物狂いで発動した光の壁により、即死魔法をすべて跳ね返され、全員その動きを止めた。


 視聴者さんのコメントによると、ミミックは即死無効。


 つまり跳ね返されたところで痛くもかゆくもないはずなのだが。


 俺の【応報】は、その常識を無視して敵を殲滅してしまった。



 まぁ、結果オーライだ!


 とにかく助かってよかった!


 ほんと、死ぬかと思った!!



 《ダイシはレベルが上がった》

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