第12話

 光源の少ない狭い螺旋階段をおそるおそるゆっくりと下りる俺。


 先行して慣れた足取りで淡々と進んでいくサツキちゃん。


 数分ほど下降したところ。


 開けたかなり明るい空間が目に入る。


 初心者用初級ダンジョン地下1階、到着。



「……もう、別に驚かないんだからね」



 先に着いていたサツキちゃんが自分に言い聞かせるようにボソッと小言をつぶやた。


 眼前に広がった光景に対して放った最初の一言だった。



「うわぁ……」



 遅れて部屋に入った俺は、全貌を見渡して間抜けな声を漏らしてしまう。


 階段を降下している時に予想していた部屋の様子とはかなり違っていた。



「なんだここ……」



 入口から奥の出口まではわかりやすい一本道の石畳が伸びている。


 ただ両サイドに正方形の小さい区画が5つずつならび、そのひとつひとつに宝箱が置いてある。


 それが奥まで同じ間隔で10くらい。


 すごくきれいに配置された宝箱の群。


 ものすごく近代的な墓地に来たような感覚を覚えた。



 :ここトレジャーハウスだよね?

 :まさかのラッキー展開

 :またこんな序盤で

 :宝箱多すぎだろw

 :ざっと100個くらいありそう

 :区画整理された霊園みてぇだな

 :全部開けてみようぜ



 また見慣れない単語を視聴者さんのコメントから見つけてしまう。


 トレジャーハウス?



「サツキちゃん。ここは……」


「トレジャーハウス、だとは思うんですけど……」



 彼女も視聴者さんも認識は同じみたいだ。


 宝箱の部屋ってことで、いいのかな?


 ただみんなの反応を見る限り、多分通常のダンジョンで現れるような感じではないのだろう。


 それもそうだ。


 これだけ等間隔で規則的に並んだ宝箱の部屋なんてゲームでも体験したことがない。



「気味が悪いですね……」



 同感だ。いかにも罠ですよと言われているようで逆に気色が悪い。



 :さて、いくつ本物の宝箱があるかな

 :半分以上ミミック臭い

 :トラップ付きの香りもプンプンするな

 :全部空っぽ説もありうる

 :手前から順番に開けてよ、おっさん

 :霊視である程度判別つくんじゃねーの

 :防具か回復アイテムが欲しいね



 【霊視】か。


 宝箱に使っても効果あるのかな。



「多分罠とかミミックとかがいっぱいありそうだけど……。私の鑑定レベルじゃ真贋判定はできないんですよね」


「俺がやってみようか?」


「……はい?」


「俺も使えるんだ。鑑定っぽいの」


「えっ?ホントに??あ、もしかして【霊視】ってやつ?」


「うん。最初から持ってるんだ」


「最初から……信じらんない……」



 ぽかんとした表情がまたかわいい。


 驚かないとか言ってたけど、どうやらレベルの低い僧侶に鑑定的なスキルが最初から備わっていることに対しては驚愕したようだ。


 そして前回の戦闘で鑑定、もとい【霊視】のスキルはレベル3になっていた。


 もしかしたらこの場でその力を発揮してくれるかもしれない。



「じゃあちょっと視てみるね」


「え、ええ……」


「霊視!」



 別に掛け声はいらないのだが、なんかマジマジ見つめられるもんだからつい調子に乗ってしまった。


 まぁいいか。


 さて、何か視えるかな。



「おお……」



 こ、これは……。



 :ねぇねぇ、どんな感じ?

 :何が視えた?

 :開けられそうな宝箱ありそう?

 :てかホントに霊視で判別できんの?

 :未知のスキルすぎてわかんねーな



「……」


「ど、どうですか?」


「……えっと」



 とりあえず一番手前にある宝箱をじっくり視てみたのだが……



「なんかボヤっと宝箱の表面が赤く光ってるだけで、中身までわかんない」


「あー……それ、普通に視えてますね」


「えっ?そうなの?」


「はい。赤く光ってるのはミミックです」



 へぇ。そうなんだ。


 てっきりミミックのステータスとか中に入ってるモノまでしっかり把握できるのかと思った。


 案外大した事なかったな。


 まぁ危ないモノかどうかわかるだけでも全然違うか。


 とりあえず、今目の前にある宝箱は開けちゃいけないみたいだね。



「じゃあ他のも視てみるか」



 100個くらいありそうだし、さすがに10個くらいはなんか入ってるだろ。


 俺は顔を上げ、右から順番に霊視を駆使して宝箱を確認するため隣に移ろうと歩き始めた。



「ん?あれ?」



 そんな悠長なことをしなくてもよかったみたいだ。


 部屋を見渡すと、視界に入る範囲の宝箱はほぼ全て赤色に光って見えていた。



「なんだよ。ほとんどミミックじゃねーか」



 がっかりだ。こんなにたくさんあるのに。


 ただ一番奥の右区画。通路側から2番目が青く、そして1番右奥に至っては……。



「金色じゃん!アレ絶対レアなヤツっしょ!」


 

 金は高価な物と相場が決まっている。


 よかった!ひとつだけでもいいのがあって!


 アレはレアアイテム確定だろ!


 いやーまさかこんなに早くお宝ゲットできるとは思わなかったなぁ。


 日頃の行いだな。ここまで大変だったけど、少し報われた気がする。



「ちょっ!ダイシさん!それ金色じゃなくて黄色……」


「うおおおお!!」



 俺は猛ダッシュで目的の宝箱まで走り、特に注意することもなくソレに手をかけ、すぐに開けた。


 ふと、追いかけてきた追尾カメラが表示したコメントのひとつが目に入る。



 :オワタw

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